君だけの時間 |
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ED後、着実に迫るクジャの寿命を前に次第に自分 を見失い思い悩んでいくジタンと優しく支えようとす るクジャのお話。(完結) |
マーメイド |
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背徳の宮殿にて。クジャへの思いに戸惑うジタン。 |
What's biting you? |
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クジャに噛み付いたジタンのお話。 |
優しい嘘
僕の体を蝕む見えない何かの存在に、ジタンも気付き始めていた。
不思議な感覚だった。かつてあれほどこの時を恐れていたはずなのに、僕は至って冷静で・・・まるで他人事のように目の前に迫る自分の死を見つめていた。
唯一の気がかりはやはりジタンだった。必死に隠してはいるが、時々ベッドで声を殺して泣いていることがある。小さく震える肩を抱きしめてあげたいけど、それが癒しにならずに逆にジタンを苦しめることになるのはわかっていた。
だから僕はジタンにある言葉をかけたんだ。
「ねぇジタン・・旅、しようか。」
それはここに着た頃、僕を元気づけようとしてジタンが言った台詞だった。
「旅・・・かい?」
「そ!お前、このガイアのことあんまり知らないだろ?だからオレが色々見せてやる。」
結局、僕らの捜索活動が随分激しく行われていたこともあり、このジタンの提案は保留のままだった。 ジタン自身が言ったことではあったが、この話はもう流れているものだと思ったのか、それとも単に忘れてしまっただけなのか・・・案の定、僕の言葉にジタンは目を丸くした。
「え・・・?」
「前に言ってただろう?色々見せてくれるって」
可笑しかった。
いつもジタンに励まされるばかりの僕がこんな台詞を吐く。
きっと似合わないだろう。
僕もそう思う。
「クジャ・・・」
「ん?」
「・・・知ってるんだぜ・・・」
「?」
「最近・・体、具合悪いんだろ・・・」
「・・・」
「そんな悠長なこと・・・」
「だからさ」
「どういう・・ことだよ・・?それは・・」
ジタンの悲しそうな表情にほんの少しだけ怒りが湧き起こるのが見て取れた。
「待ってジタン。僕は別に諦めたってわけじゃない。」
「?」
「ガイアは広い。世界を巡っているうちに延命の手がかりが見つかるかもしれないだろう?」
見え透いた嘘だった。そんなものは・・・テラならばともかく、少なくともこのガイアにはありはしない。
僕が今まで数え切れないほどついてきた嘘は、そのどれもが誰かを傷つけることを目的としていたように思う。
きっとこの嘘はそれらとなんら変わらない。結局君を傷つける結果になってしまうから。
でも、大きく違うところがある。
今の僕にはその違いを上手く表現することはできないけど・・・
願わくば、僕がはじめて心からついた嘘が君に優しく伝わりますように。