君だけの時間 |
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ED後、着実に迫るクジャの寿命を前に次第に自分 を見失い思い悩んでいくジタンと優しく支えようとす るクジャのお話。(完結) |
マーメイド |
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背徳の宮殿にて。クジャへの思いに戸惑うジタン。 |
What's biting you? |
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クジャに噛み付いたジタンのお話。 |
「なんだよ、来るなら言えよな」
団員用通路の出口に意外な人物の姿を見つけて、ジタンは嬉しそうに彼に駆け寄った。
「誘ったのは君だろ?」
「いや、まさか本当に見に来るとは・・」
そうして数日前、彼に―クジャにかけた言葉を思い出す。
―たまには気分転換もいいぜ。
確かに、そう言って新作の劇を見に来るよう誘ったのはジタンだった。
だが、誘ってはみたものの、恐らく来てはくれないだろうという確信もあった。今や黒魔道士の村で静かに時を過ごすクジャにとって、外界の喧騒は無縁のものだった。
先の戦いの加害者としての立場もある。それに、今の彼はそういったものを好まないように思っていた。 少なくとも、そんなクジャしか知らないジタンは、彼が村を出て町へ下りて来るということにピンと来ないでいた。
「そっか」
「?」
「ありがとな」
いい傾向だよな、とジタンは心の中で呟いた。何より、何気なくかけた自分の一言にクジャが答えてくれたのが嬉しかった。あらかじめチケットを渡したわけではない。どういう顔をしてチケット売り場に並んだのだろうか。 それを想像するだけでジタンの顔は緩んだ。
「で、感想は?」
「中の上ってところだね」
「・・・・なんだよそれ」
「シナリオはありふれたものだったけど、演技はよかった」
「だろ?だろ?」
そっけなくも優しい、彼なりの褒め言葉に笑みを溢すジタン。 ふと周囲に目をやると、側にいた娘たちがこちらをチラリと見て何か話していた。 パンフレットを持っているあたり、先ほど劇を見た客のようだ。
「君のファンじゃないのかい」
「ん・・・・・?」
普段なら手放しで喜ぶであろう言葉にジタンは違和感を覚えた。 それというのも、よくよく見ると娘たちの視線は自分・・・・ではなく、 その隣の人物に集中していたからだった。
「・・・・・・」
「?どうしたんだい・・?」
まじまじとクジャを見上げながら、ジタンは急にもやもやとした気分になった。
村にいた時は自分だけのものだったのに―。
誰にも、見せたくない。
そんな衝動に駆られた。
それは単なる嫉妬なのか、自分たち以外の人間にクジャを理解されるのが嫌なのか・・よくはわからなかった。ただ、ジタンは彼の前向きな姿に喜ぶ感情とは裏腹に、いっそこのまま黒魔道士の村に篭ったままでいて欲しいとさえ思った。
恐らく、多くを占めるのは前者の理由なのだろけど・・。
そんなジタンの悶々とした感情など露知らず。当のクジャは自分を見上げるジタンの視線に、顔に何かついてでもいるか、と問いかけてきた。その安穏とした表情に、今度は急に腹立たしくもなった。
「やっぱ・・もう誘わない」
「え・・?」
そう呟いて、未だクジャを見つめる娘たちを一瞥するジタン。
その刹那―。
背伸びをして彼の首に両手を回すと、白く長い首元に思い切り噛み付いてやった。
「・・・・?!」
痛みに顔を歪めるクジャ。
一瞬のことながら、娘たちからは好奇と驚きの声がにわかに上がった。
「??・・・?」
一方、ジタンのとっぴな行動には、流石のクジャも呆気にとられたようだ。 首元にくっきりついた歯形に手をやると、驚いたようにその名を呼んだ。
「ジ、ジタン・・?」
「・・なんだよ」
「い、いや、それはこっちの台詞なんだけど・・」
その行為とジタンのやけにあっさりとした態度に当惑する。どう反応していいものか・・クジャは少し照れながら一応聞いてみた。
「どういうこと・・?」
噛まれた箇所とジタンの顔とを交互に見つめる。ジタンは不機嫌そうに口を尖らせると、ぼそぼそと呟きはじめた。
「なんか・・・」
「?」
「急に・・」
「噛み付きたくなった」
「・・は・・?」
Fin