君だけの時間 |
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ED後、着実に迫るクジャの寿命を前に次第に自分 を見失い思い悩んでいくジタンと優しく支えようとす るクジャのお話。(完結) |
マーメイド |
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背徳の宮殿にて。クジャへの思いに戸惑うジタン。 |
What's biting you? |
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クジャに噛み付いたジタンのお話。 |
砂時計が流れ落ちる、その瞬間まで
「よし、準備完了。いつでも出発できるぜ?」
そう言ってこちらを振り返り、万遍の笑みで微笑んで見せる。それはいつものジタンだった。本当は辛いはずの心を殺して・・僕の嘘に付き合ってくれている。
「それより、お前・・本当に体は大丈夫なのかよ?」
「ああ、今日は調子がいいんだ・・」
「ふぅん・・」
「・・?」
「ジタン?」
こつん・・と、まるで甘えるように僕の胸元に額を押しあててくる。
「・・あんま、無理すんなよな・・」
「・・あぁ」
そういえば、今までの時間を振り返る度に僕らは嘘ばかりついていた。ジタンは僕のことを思って。僕もジタンのことを思って。僕がいなくなったら・・君はどれだけ悲しんでくれるかな・・・なんて、時々考えていたって言ったら君は怒るだろうか。
君は素直じゃないから、僕の前では悲しい顔なんて少しも見せなかった。終始元気なフリをし続けて・・・僕はそれが少し悔しかった。本当は・・・弱い部分も全部さらけ出して欲しかった。
「なぁ・・クジャ・・」
「なんだい・・?」
「・・・オレ・・さ・・」
「?」
「・・・やっぱ、何でもない・・」
「そう・・」
けれど、素直じゃないのは・・僕も同じだった。
「おっと・・忘れ物しちまった・・ちょっと取りに行ってくる」
だから
「ジタン・・」
「ん?」
最期だけは素直になるよ。
「・・・ありがとう・・」
今まで側にいてくれて。
「なんだよ・・いきなり」
「別に・・ただ、ちょっと言ってみたかっただけ」
僕は君の人生の小さな汚点かな。
「ばーか」
「?」
ふいに触れるだけのキスをしてきたのはジタン。
「まってろよ」
耳元でそうつぶやくと、あの子は照れた様子で駆けていった。
その小さな後姿を見送った直後、張り詰めていた糸が切れるように・・・僕は自分の意識がどこかへ遠のいていくのを感じていた。
『ほら、何やってんだよクジャ。早く行こうぜ。』
いつもの笑顔で僕を呼ぶジタン。
堕ちていく意識の中で、僕はその姿をただ追いかけていた。