実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
それは、短い3学期も残り僅かとなったあの日の出来事だった。
「異動・・ですか」
「ええ」
昼休みに校長室に呼び出されたキースは、突然の人事異動の通知に驚きを隠せなかった。
「隣町のノア学園で、国語科の先生が不足しているそうです。それに加えて、あちらはここのところ学園内の風記が乱れているようで、生徒指導も兼任して欲しいとのお話でしてね・・・・・お願いできますか?」
「構いませんが・・私が生徒指導ですか・・?」
本来ならば、より経験を積んだ教師がつくべき役職である。
まだ数年のキャリアしかない自分が任されていいものかとキースは戸惑った。
「勿論、あちらにも主任の先生はいらっしゃるのですが、若い先生の力も必要だそうです。大丈夫。きっとキース先生にとっても良い経験になるでしょう」
微笑む校長にぽん、と肩を叩かれ、キースもまた笑みを返した。
教師にとっての人事異動は、次へのステップアップに繋がる重要なものだ。慣れ親しんだ学校を出て、新しい場所で自分を試すことができる機会。
キースは与えられたチャンスと大役に素直に喜びを感じていた。
問題があるとすれば、『彼』にこの話をどう伝えればいいかという点だけだった。
「校長先生、何だったの?」
キースが職員室へと戻ると、弁当を食べていたブルーが声をかけてきた。キースは席に着くと、自身も出来あいの弁当を広げながら、つとめて普段と変わらぬ調子で答えた。
「・・・異動の話」
その瞬間、箸を動かしていたブルーの手が止まった。
「異動・・?」
「ああ、」
「どこに?」
「隣町。ノア学園」
「・・・・そっか」
しばしの沈黙が二人を包んだ。
何か発言すべきだろうかとキースが思考を巡らせていたところ、箸を置いたブルーから笑みが返ってきた。
「おめでとう、キース」
「・・」
意外な反応・・・というわけでもない。
そろそろ付き合いも長いため、キースは、彼がこういう反応を示すだろうと予期していた。
同僚の門出を純粋に祝福してくれるブルー。彼はいつだって、人の成功を自分のことのように喜んでくれた。だからこそ、その笑顔にキースもまた笑みを返した。
だがその反面、キースはやけにあっさりとしたブルーの反応に、少し物足りなさを感じていた。
玄関前での出会いからもうすぐ2年。
こうしてずっと隣あって時を過ごしてきたが、長い教師生活を経たとしても、こんな風に同じ空気を吸って共に働くことはないかもしれない。
その事実にもう少し寂しがってくれるものかと思ったが、そんな女々しいことを考えていたのはどうやら自分だけだったようだ。
ブルーがもし、ちらりとでも弱音を吐いたのなら、キースはかねてより切り出そうと思っていた『あること』を思いきって告げようと思っていた。
だが結局、思いきることができず、中途半端に告げるにとどまった。
「マンションだがな・・引っ越しを考えてる」
「え・・?」
「今の場所では、通勤しにくいしな。それに・・部屋ももう少し広い方がいい」
・・・お前と住むなら。
そう、語尾につけることができれば、どんなによかったことだろう。
いかんせん、この時のキースにはそんな度胸は備わっていなかった。
この中途半端な告白が、これから起こる出来事の全ての原因になるとは、キースには知る由もなかった。