実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
「ブルー、来てるのか?」
鍵の開いた玄関と、見慣れた彼の靴。
いつもと変わらぬ訪問者のはずだが、照明という照明が一切消えているのはどういうことだろうと、帰宅したキースは不審に思いながらリビングへと向かった。
「何をやってるんだ、お前は?・・電気ぐらいつけたらどうだ・・」
真っ暗な室内で、ブルーは床の上に膝を抱えるように座っていた。
「お姉さん・・来てたんだけど、あんまり遅いから帰っちゃったよ」
「・・くどいな、あいつも・・」
「何?」
「・・いや、こっちの話だ」
「『こっちの話』・・ね」
くつりと皮肉っぽく笑うと、ブルーは立ち上がって自室に戻ろうとした。
そしてすれ違ったついでのように、ぽつりとつぶやいた。
「キース・・海の見える宿・・やっぱりやめにしよう」
「・・・どうした?」
「だって男二人で小旅行なんて、可笑しいじゃないか」
今更何を言うのだろう。
自分たちの関係を指して鼻で笑ったブルーに、キースはようやく、いつもの彼とは様子が違うことに気付いた。
「僕だって、そんなに暇じゃないし。・・キースだって・・・・」
「・・?」
「キースだって、他に行くところあるみたいだし」
そうだろう?と見つめてきた紅い瞳が全てを語っていた。
「・・・フィシスから何を聞いた?」
「・・全部」
あのお喋りめ・・と悪態を小さくついたあと、キースはブルーに向き直った。
「俺は行くつもりはない。祖母が勝手に決めた見合いだ」
「考え直しなよ」
「?・・何を言ってるんだ・・お前」
「僕ね・・ずっと考えてた」
「?」
「今に始まったことじゃなくて・・少し前から考えてたんだ。僕たちの関係って・・結構不毛だなぁって。・・これからずっと付き合っていっても、その先に結婚とか・・そういうの、あるわけじゃないし。・・今繋がり合っていても、確かなものなんて何もないんだよね」
「・・何が言いたい?」
「現にキース、僕を連れて家に帰るなんてこと・・できないだろ。君のお婆様に僕を紹介する?・・できるわけないよね」
「・・・」
「僕たちの関係ってさ・・やっぱりそういうことなんだよ」
「・・だから俺に見合いをしろと?」
「うん。政略結婚でもさ・・家族にも紹介できない僕なんかと一緒にいるより、ずっと幸せになれると思うよ」
背を向けたブルーが、内容とは不釣り合いなほどに明るいトーンで話をしている。
本当は涙を堪えているに違いないと、キースは彼の腕を掴んだ。
「本当に、そう思っているのか」
「思ってるよ・・」
「嘘をつくな」
「嘘なんかついてない!」
手を解こうと振り返ったブルーは、大粒の涙を溢していた。
「だって君、僕に何も言ってくれないじゃないか・・!悩んでても、大事な事があっても・・・全然教えてくれない!!」
「ブルー・・」
「そんな水くさい恋人・・・いらないよ・・」
ぽろぽろと零れる涙を必死で拭っていたブルーを見て、キースは知らずのうちに彼を傷つけていたことに気付いた。
「・・悪かった」
「・・・」
「お前を面倒に巻き込むのも嫌だったし・・何より・・・お前に色々話をするのが・・恥ずかしかった」
「・・?恥ずかしい・・・?」
「ああ、」
「俺は・・・こんな仕事をしていながら、自分の面倒事からは逃げてばかりの人生だったからな・・・お前に、そんな自分を知られるのが嫌だった・・」
キースの吐露した本音にブルーは珍しく怒りをあらわにした。
「なんで・・僕の前でかっこつけるのさ・・」
「・・」
「僕なんて・・出会った頃からずっと・・情けないところも恥ずかしい所も・・ぜんぶ君に見られてばっかりなんだよ。でも・・そんな僕でもいいって・・君は思ってくれたんだろ?」
「・・ああ」
「だったらどうして・・僕にも君の情けないところ、見せてくれないんだよ!」
「・・・そう・・だな・・」
何をやっているのだろう。
ブルーはずっと真正面から向き合ってくれていたのに、自分は彼からも逃げていた。
巻き込みたくない。
告げたくない。
それこそが彼との関係を軽んじるような行動だったのだと、キースは改めてブルーを傷つけた本当の理由に気付かされた。
「すまなかった・・」
ブルーを優しく抱きしめると、キースはある決意をした。