Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -6-

職員室に戻ったブルーは、半ば放心状態だった。

『そういう甘さって、生徒を駄目にするだけだと思うんですよ俺』

セルジュの声が、頭の中でぐるぐると回っている。
小テストの採点をしていても、彼の一言について深く考えてしまい、その度に採点の手が止まってしまう。

彼の言う通り、僕は甘いのだろうか。
そしてその甘さは、生徒のためにはならない・・?

何が正しくて、何が間違っているのか・・ブルーにはわからなかった。
先生と呼ばれ、教壇に立つことにもすっかり慣れていたけれど・・・本当はいつも、生徒と接するときは手探りだった。

かつて自分は最低の教師だった。
半端な情をかけて、その結果傷つけてしまった生徒がいる。

僕はあの頃と・・・何一つ変わっていないのだろうか・・。


「おい」
「・・・」
「まだ残るつもりか?」
「・・?」

顔を上げると、呆れた様子でキースが立っていた。
気がつけばいつもの帰宅時間はとっくに過ぎており、辺りを見渡すと職員室にはもう誰も残ってはいなかった。

「帰るぞ」
「え・・うん・・」

少し強引に帰宅を促すキースと共に、ブルーは学校を後にした。
駅までの道のりを、沈黙のままキースの後ろをついていく。
普段なら他愛のない話をするのに、なんだか今は空気が重々しい。その原因が自分の心の中にあることも、ブルーはよくわかっていた。

だからブルーは意を決して、キースに訪ねた。

「ねえ・・キース・・」
「?」
「・・僕のやり方だと・・生徒を駄目にしちゃうことって・・あると思う?」

前を歩くキースが訝しげにこちらを振り返った。
セルジュとのやりとりなど全く知らないキースからしてみれば、いきなり何を言い出すのかと思ったことだろう。
だが次の瞬間、ブルーの予想に反してキースは笑っていた。

「・・なるほど。そう言われたのか、あの実習生に」
「え・・・」
「わかりやすいな、お前は」

関をきったように笑うキースに、ブルーは拍子抜けしてしまった。
どうやら先程までのブルーの態度で大体の事情は察しがついていて、こちらが話を切り出すのを待っていたようだった。

「・・・笑うことないじゃないか・・結構・・凹んでるんだから・・」
「悪かった」
そう言いながらも、キースの口元は少し緩んでいた。
少々むっとしながらも、ブルーは再び問いかけた。

「・・・どう思う?キースは・・・・僕のやり方だと・・やっぱり生徒のためにならないのかな・・」
「さあな・・。俺はお前の生徒になったことがないからな」
「・・」
「まあ・・同じ教師として、助言できることはあるかもしれないが・・俺自身、お前を見ていて気付かされることだってある。・・・どうすれば生徒にとって良いのか悪いのかなんて、その生徒によってもまちまちだろうしな・・・そう深く考えず、その時々で自分の最善を尽くせばそれでいいと俺は思うがな・・」

時折こちらを気にしながらも、いつものように素っ気のない仕草で話をするキース。
だがブルーには、キースが一生懸命言葉を選んで答えてくれているということがよくわかった。そしてそれが、何より嬉しかった。

「僕・・本当言うと・・生徒との接し方がまだよくわからないんだよ」
「完全にわかっている教師なんていないだろ。・・答えがないからこそ、教師によって色んな考え方がある。その実習生には・・お前とは違う考えがあるというだけのことだ」
「・・・うん」

半端な励ましや共感などは口にしない・・けれど力強くて、キースらしい言葉だった。
そういえば去り際のセルジュもそんな風に言ってくれていたではないか。
僕には僕の考えがある。
何を言われようとも、自信を持って貫き通せばいいのだ。
そのことにブルーは改めて気付かされた。

「そっか・・そうだよね。・・僕は僕のやり方でやればいいんだよね」

胸の奥に刺さっていた棘がぽろりと落ちていく。
キースの一言一言から、沢山の勇気をもらった気がした。

「キース・・ありがとう。なんだかちょっと・・楽になった」

そう微笑むと、キースは照れ隠しなのかそっぽを向くと話題を変えた。

「・・しかし随分と態度のでかい実習生だな」
「まあ・・そう悪い子ではないと思うんだけど、ちょっと扱いが難しいんだよね・・」
「少々厳しく接してもいいんじゃないのか。俺なら実習に来ている以上は、自分のやり方に従わせるがな」

先程までとうって変わり、こういう台詞を吐くキースは物凄く悪人に見えてしまうから不思議だ。彼がセルジュの担当だったら・・恐らく今の自分とはまた違った関係を築いていただろう。それはそれで是非見てみたいなとブルーは思った。



「・・じゃあ、おやすみ」
「・・ああ」

マンションに着いた二人は、それぞれ部屋の前に立つとお互いの顔を見合った。
このまま別れてしまうのが、なんとなく忍びなかった。

「・・ね、キース・・」
「どうした?」
「・・・今度の週末、飲みにいっていい?」
「・・別に構わないが。なんだ、この間まで了解も得ずに押しかけていたやつが。やけにしおらしいじゃないか」
「だって今君、すごく忙しいだろうし・・」

クラス担任であること、実習生の面倒を見ているという点では、ブルーもそう変わりない。
だが新学期になり久しぶりにクラスを持つようになったブルーは、以前までの奔放な自分の振る舞いを内心反省していたのだった。

「・・じゃあな」

ノブに手をかけていたキースが、鍵を開ける。
ブルーもまた自室に戻ろうと扉を開けた時だった。

「・・あまり気を遣いすぎるなよ」
「・・?」
「生意気な実習生にも・・・その、俺にもな」

自分で少しきざだと思ったのか、一瞬視線を投げてきたキースがそそくさと部屋へ戻っていく。
玄関前には、わずかに遅れて万弁の笑みを返したブルーがいた。

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2004.2.22 開設