Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -4-

教育実習初日が終わろうとしていた放課後。
職員室で残務を片付けていたブルーに、教科会議から戻ってきたキースが声をかけてきた。

「そっちはどうだ?」
「なにが」
珍しく不機嫌を込めたブルーの返事に、キースが面白そうにこちらを見た。

「初日からずいぶんともめていたじゃないか、実習生と」
「もめていたわけじゃない。教育的指導を行っていたんだ」


実習初日。セルジュ=スタージョンはブルーの予想を外れ、極めて優秀な実習生だった。
飲み込みが早く、頭の回転も速い。初めてにしては授業の出来もよかった。能力的には何ら問題はないとブルーは直感した。
唯一にして最大の問題は、彼の性格だった。
なんというか・・言葉遣いや表現が率直過ぎるのだ。授業中も、あまり理解度の高くない生徒に対して少し言葉のきつい面が見られた。そのため、些細なことではあったが、授業直後の反省の場でブルーは幾度かその点を指摘した。
色んな子がいるから、もう少し柔軟にね・・と。
しかしその度に、ブルー先生は甘やかしすぎなんですよ・・などと言われる始末である。

褒めて伸ばすタイプのブルーとは対照的に、彼はあまり感情を持ち込まずに授業をする。どちらかと言えばキースに近い思想の持ち主である。・・・が、まだキースのほうが思いやりというか・・思慮があるような気がした。


「確かにお前とは相性の悪そうなタイプの実習生だな」
「『悪そう』じゃなくて悪いんだよ。・・あーあ、君は可愛い後輩と息ぴったりだからいいよね」
「・・?」

あれ?
明らかにひっかかる物の言い方をしてしまったと、ブルーは自覚した。
キースが一瞬、妙な顔をしたのがわかった。
僕は今何を言ったのだろう。というか、何が言いたかったのだろう。
なにやら気まずい雰囲気が漂いかけたと思っていると、キースが沈黙を破ってくれた。

「ブルー・・その、今晩・・飯でもどうだ」
「え?」
珍しいキースからの誘い。
素直に嬉しいブルーが、少し照れながら返事をしようとしていた時だった。

「あ、いたいた!キース先輩!」

「?・・どうした、マツカ」
「あの、明日の授業・・新しい範囲なので、これから見ていただけませんか」
「別に構わんが・・どこでやるんだ?」
「あ、ありがとうございます!2-Aの教室を使わせていただけるみたいなので、そこで・・いいですか?」
「ああ」
「じゃあ、準備して待ってますね」
「わかった。あとで行く」

相も変らぬ小動物のような笑みを浮かべると、マツカは職員室を出て行った。

「・・で、今夜なんだが・・」
「・・・・遠慮しておくよ。僕、まだ残りの仕事あるし・・君も忙しいみたいだし?」
「??・・何を怒っているんだお前は・・」
「怒ってなんかない」

怒ってなんかいないが・・非常に苛々する。
ブルー自身も、自分がなぜこんなに苛立っているのかわからなかった。
先程までは生意気な実習生に腹を立てていたはずなのだが・・・今はキースの顔を見ると苛立ちを覚える。

「それより、早く教室言ってあげたら」
「あ・・ああ」

冷ややかな視線で促すと、キースはわけがわかならいといった様子でマツカの後を追っていった。
僕だってわけがわからない。
今日はもう早く帰ろう・・。
一日の疲れを一気に感じていると、キースと入れ替わりに今度はセルジュ=スタージョンが入ってきた。

「ブルー先生、ちょっといいですか」
「ど・・どうしたんだい、スタージョン君?」

彼の顔を見て、ブルーは思わず身構えた。
一方のセルジュはこれといって変わった様子もなく、右手に持っていた授業ノートをブルーの前に出してきた。

「今日の6限目のブルー先生の授業、この化学式やったじゃないですか」
「?・・・うん。その式がどうかした?」
・・なんだ、質問か。
実習生らしく、可愛いところもあるじゃないか・・・と思った自分の浅はかさを、ブルーは直後に失笑することとなった。

「答え、間違ってますよ」
「・・・・・・」
ノートには、6限目のブルーの授業を見学していた際の板書が事細かに書かれていた。
指摘された問題の式としばらく睨めっこをしていたブルーだったが、確かに途中の計算でケアレスミスを犯していた。

「・・・教えてくれてどうもありがとう、スタージョン君」
「いえ、どういたしまして」

腹の内はともかく、この日初めて二人は笑顔で言葉を交わしたのだった。

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2004.2.22 開設