Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -12-

店を出たセルジュはタクシーを捕まえると、ブルーを自宅前まで送り届けた。

「着きましたよ、お客さん」
「あ、ど・・どうも。先生、ここでよかったんですよね?」
「・・・」
返事が返ってこないことに嫌な予感を覚えたセルジュ。隣を見ると案の定、酔っ払いは夢の中にいた。

「ちょっ・・・ちょっとブルー先生、起きて下さい。着きましたって」
「・・」

なんというか・・・こんなに酒癖の悪い人だとは思わなかった。
いっこうに起きる気配のないブルーに、仕方なくセルジュは運賃を払うと、彼を肩に抱えてタクシーを降りた。

一体これからどうしろというのか・・。
目の前に聳え立つマンションを見上げると、セルジュは相変わらず眠ったままのブルーを横目で見た。
タクシーに乗車した際(まだ彼が起きていた時に)指定した住所なのだから、ここがブルー先生の自宅だということは間違いない。

とりあえず彼を引きずりながら玄関までたどり着いたセルジュは、再びブルーを揺すり起こした。

「先生、ブルー先生、」
「ん・・・」
「いい加減起きて下さい!部屋どこですか?」
「・・・ごかい・・」
「五階?五階の何号室ですか?」
「・・かばん・・」
「は?」
「鍵・・かばんなか・・」

ようやく目覚めたかと思ったが、それだけ言うとブルーは再び深い眠りについてしまった。

「・・~~ったく、めんどくさい人だなぁ・・」

セルジュは仕方なくブルーの指示通り彼の鞄の中をあさった。よくもまあこれだけ無防備でいられるものだと感心しながらも、それだけ自分を信頼してくれているのだと思うと悪い気はしなかった。
暗くて少し手間取ったが、程なく、鞄の内ポケットの中から金属音が聞こえた。

「これだな」

取り出したそれには、愛らしい鳴きネズミのぬいぐるみがついていた。
この人らしいな、と思わず笑みを溢したセルジュ。幸い、鍵の本体には号室を示しているのであろう、502と書いたシールが貼ってあった。

全く、手のかかる教育係がいたものだ。
セルジュはブルーを背負うと502号室へと向かった。



「失礼しまーす・・・」

セルジュは部屋に辿り着くと、恐る恐る鍵を開けた。
部屋の主は相変わらず自分の背中で爆睡しているため、何も恐縮することはないはずなのだが、なんだが妙に緊張してしまう。

セルジュはブルーを一旦玄関で降ろすと、とりあえず靴を脱がせた。

「・・ここに・・置いとくのはまずいよな・・やっぱり・・」

ここまで入ってしまったら、部屋まで送り届けるのが礼儀というものだろう。
自分も靴を脱ぐと、セルジュは再びブルーを背負って廊下の先へと進んだ。

「うわ・・・」
初めて訪れたブルー先生の部屋。
セルジュ自身、親元を離れて一人暮らしをしているが、やはり社会人のそれは全く異なるのだなと改めて思った。

広々としたリビングには、高級そうな・・それでいてシンプルな家具が整然と並んでいた。
大きなAV機器、中央に悠然と据えられた重厚なカウチソファ。
余計なものを一切排除したその空間は黒を基調としており、部屋の主のセンスとこだわりが感じ取られた。
ある程度経済力のある大人の男の部屋・・・それがセルジュの持った感想だった。

「・・・けっこう・・良い部屋住んでるんすね」

ブルー先生のイメージから若干そぐわない気もするが、意外に硬派な面もあるのだなぁと思いながら、セルジュはリビングを抜けた先へと進んだ。

予想通り、リビングの先は寝室になっていた。
仕事場も兼ねているのであろう、大きな仕事机の奥にさらに大きなベッドを見つけて、セルジュはおぶっていたブルーをとりあえずそこへ寝かせた。

「はぁ・・・確かに、送り届けましたよ・・」

すやすやと眠るブルーに声をかけると、セルジュは一息つくべく床に腰をかけた。
リビングに引き続きモノトーンで統一された室内をぐるりと見渡すも、塵一つ落ちていないことに思わず感心した。男の一人暮らしで、なかなかこうはならないものだ。
部屋を見ればその人の性格がわかるというが、これだけきっちりとした部屋に住んでいる人間がこの有様なのだから、わからないものだ。
セルジュはしばし、眠っているブルーの顔を眺めていた。

「これじゃあ・・どっちが面倒みてるかわかんないですね」

初めて会った時は、その『いかにも優しい先生像』が鼻についた。
けれど一緒に過ごすうちに、そのまま見た目通りの人間でもないということがわかった。
優しさだけでなく、教師としての芯の強さと包容力・・・その両方を兼ね備えた尊敬に値する人。しかしその反面、こちらが心配になるほど抜けた所もあるし、隙も多い。

血相を変えて原付を追いかけていたブルーの姿を思い出し、セルジュはくすりと笑った。
まさか本当にひったくりに合うとは思わなかったが、あの出来事がなければこんな風に彼の寝顔を拝むこともなかったのだと思うと、少し得をした気分だった。

上手く言えないが、気になるというか・・放っておけない人だ。

「じゃあ俺、帰りますね。おやすみなさい」
「・・ん・・」
「?」

立ち去ろうとしたセルジュだったが、何時の間にか服の裾をブルーに掴まれていた。
だが彼が目覚める様子はなく、無意識にそうしているのだとすぐにわかった。

「行ってほしくないんですか?・・俺に」

それとも、誰かと間違えているのだろうか・・?
先程までの彼の様子を見る限りではでは、きっと後者なのだろう。
なんだか少し悔しくなって、セルジュは眠るブルーに唇を寄せた。

もし自分なら、あんな風に荒れさせたりしないのに。

傷つけたりしないのに・・。


「ブルー、いるのか?」
「?!」

あと数センチというところで背後から聞こえた男の声に、セルジュは慌てて後ろを振り返った。
黒髪の長身の男が、驚いた様子でこちらを見ていた。

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2004.2.22 開設