実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
職員会議の長引いたキースがマンションに帰ったのは、夜もすっかり更けた頃だった。
(・・?開いている)
扉の鍵が開いていることに、いつものようにブルーが来ているのだろうと何一つ疑わずに部屋に入ったキース。ふと靴を脱ごうとした矢先、ブルーの靴とは別に、女物のそれがあることに気付いて目を丸くした。
「!・・・まさか」
キースが慌ててリビングへと足を踏み入れたその瞬間。
「「おかえりなさい~!」」
クラッカーでも飛んできそうな程の陽気な男女の声が彼を迎え入れた。
案の定、室内にはブルーと・・姉のフィシスがいた。テーブルの上にあるコーヒーと茶菓子、そして自分の学生時代の卒業アルバムを見つけてキースは思わず叫んだ。
「貴様らっ・・・人の部屋で一体何をしている!!」
「何って・・お姉さんに君の昔話を色々と」
「お話していたのですわ」
どういう成り行きでこうなったのかは知らないが、(いや、ある程度は想像できる。どうせこの女が玄関前で張り込んでいたところで、ブルーの奴が声をかけて合い鍵を使って部屋で待つように言ったに違いない)
完全に意気投合した二人が自分をネタにあれやこれやと昔話に花を咲かしていたかと思うと、怒りと羞恥で今にも目の前のアルバムを燃やしてしまいたくなったキースだった。
「~~~~・・ブルー!お前か!人の部屋の物を勝手に持ち出すな!」
「そ、そんなに怒んなくても・・・でも、高校時代の君初めて見たんだけど、可愛いね」
「そうでしょう。この頃はまだ可愛げがあったのですよ」
「今は『こんな』ですけどね」
「仰る通りですわ。まったく、どこで間違ってしまったのやら・・」
「・・・・」
厄介な二人が仲良くなったものだとキースは軽いめまいを覚えた。
「ブルー、何故この女を部屋に入れた?」
「だって、こんな時間に女性を外で待たせるなんてできないだろう」
「ふん・・気にかけてやることはない。こんな時間に来る奴のほうがどうかしてる」
「まあ?相変わらず憎たらしいことしか言えないのですのね、その口は。ブルーさんのような紳士になれとは言いませんが、実の姉に向かって『この女』とはなんですの?」
互いにふん、とそっぽを向いた姉弟に呆気にとられながらも、ブルーは一応仲裁に入ってみた。
「まあまあ、お姉さん・・キースもさ、久しぶりに会うなら仲良くしようよ。そうそう、お姉さんね、君に何か大事なお話があるそうなんだよ」
「どうせ大した話じゃないだろ」
「大したお話だから、電話ではなくてこうして直接訪れたのです。でなければ、わざわざ好んで貴方の顔を見るためだけにやって来ませんわ」
真夏だというのに、冷ややかな空気が室内に漂った気がした。
「え・・えーっと・・・じゃあ、僕はこれで失礼します」
自分の部屋ではないが「ごゆっくり」とフィシスに笑みを投げると、ブルーはそそくさと自室へと戻った。これ以上棘のある会話の応酬を聞いていると、こちらが疲弊してしまう。
(それにしても、キースにお姉さんがいたなんて・・知らなかったなぁ)
最初はキースの姉と聞き動揺したものの、実際話してみるとフィシスはとても初対面とは思えない程話しやすい女性だった。
キースの前ではあんな態度をとってはいたが、先程まで話をしていた様子からは弟への心配と愛情を十二分に見てとることができた。一方のキースも、ただ素直になれていないだけのようにも思える。
ああ見えても、本当は仲の良い姉弟なのではないだろうか。
(キースが弟かぁ・・・意外だけど、ちょっと可愛いかもしれない)
もっと色々、お互い知らない事があるのだろうな。
そう思いながらも、初めて見た弟の顔をしたキースが新鮮で、少し嬉しいブルーだった。