実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
それから数日。
結局キースは見合いの席に行くことになった。
勿論、見合いをするためではなく、直接祖母に会って断りを入れるというのが目的である。
だがそう上手くいくのだろうか・・・。
話を聞いたブルーが内心案じていると、キースはこんなことを言ってきた。
「明日はお前も来てくれ」
「え?」
そして見合い当日。
キースの言葉に従って、迎えの車に乗って連れてこられたのは高級ホテルのロビーだった。
「あ・・あのさ、キース・・何で僕まで・・」
「断るのには、それなりの理由が必要らしいからな」
「理由って・・」
これからキースが何をするのか気付いたブルーは、自分を指差して目を丸くした。
「正気?」
「何か問題でもあるのか?」
「いや・・あるといえばあるし・・ないといえばないんだけど・・本当にいいの?」
「いいんじゃないのか」
キースはどこか楽しげで、吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
大胆というか・・なんというか・・・。
なんだか馬鹿みたいな話だ。
そう思いながらも、ブルーもまたこの状況を楽しむことに決めた。
見合いの席には、既に親族が向かい合って席についていた。
皆が揃ったところを見計らって、キースはあえて遅れて入室した。ブルーもまた、緊張しながらその後ろについて行く。
「遅いではないですか、キース。一体何をしていたのですか」
名目上は親族の集まりだが、見合い相手という来賓を待たせたことについて、老婆は随分と立腹していた。
「早く席につきなさい。お客様に失礼ではないですか」
「こちらの方々は?・・今日は親族の集まりだと伺いましたが」
「ええ、これから私たちの親族となる方たちですよ」
キースの問いに、老婆は悪びれることもなく答えた。
その直後、手前に腰かけていた女性がぺこりと会釈をしてきた。
恐らくこれが見合い相手なのだろう。確かにそう悲観するほど不細工ではないが・・・。
いつぞやの姉の言葉を思い出し、キースはくすりと笑った。
そのフィシスといえば、祖母の隣で事態を静観していたものの、キースの背後のブルーに気付くと親しげに声をかけてきた。
「あら?ブルーさんじゃありませんか」
「ど、どうも・・こんにちは」
「今日はどうしてこちらに?」
「えーっと・・」
訳を話す前に、老婆の鋭い視線がブルーに向いた。
「・・?このような席に、部外者を連れてくるとは何ごとですか!」
ヒステリックに叫んだ彼女に、キースは整然と答えた。
「部外者ではありません」
「?」
「彼は私の恋人です」
キースから紹介され、ブルーはぺこりと頭を下げた。
勿論、その場にいた全員が目を丸くしたことは言うまでもない。
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それから見合いの席がどう混乱したのかは、二人の退室直後にかかってきたフィシスからの電話でありありと伝わって来た。先方は無礼を通して呆れ返り、キースのお婆さんといえば、ショックのあまり倒れてしまったらしい。
とうに家路についていた二人は、先程までの騒動が嘘のように、呑気に電車に揺られながら話していた。
「大丈夫かな?」
「簡単に死ぬような婆さんじゃない」
「・・お姉さん、なんか言ってた?」
「・・俺たちのことは最初から感付いていたらしい」
「本当に?」
「ああ。見合いの話をお前にしたのはカマかけだったようだな・・あの女」
「そっかぁ・・」
だとしたらフィシスはこういう結果も予期していたのだろう。
むしろ見合いを潰すために、弟を後押しするために、ブルーに話をした・・。
なんというか、大人しそうに見えて中々の策士である。
流石にキースのお姉さんだな、とブルーは改めて思った。
「それにしても・・キースには参った」
「あれぐらいはっきりやらんと、また同じ手を使われてはたまらないからな」
「こんなことやらかして・・あとから僕、お婆さんに命狙われたりしない?」
「その時は俺が守ってやる」
「・・・」
「何だ?」
「・・・キースって、たまに恥ずかしいこと平気で言うよね」
「?」
鈍行でガラガラの車内でなければ、顔を真っ赤にして他人の振りをしているところである。
ブルーはあたりを見回してまばらな乗客を確認すると、キースの肩にこつん、と頭をのせた。
「でも・・嬉しかった」
「・・・」
顔を見なくても、言葉を聞かなくても、キースが照れているのがわかった。
「・・あのさ、この間言ったこと・・なかったことにしてね」
「何のことか忘れたな」
キースが傍にいる。
確かなものは、それだけで十分なのだとブルーは思った。
その時、車窓を眺めていたキースが呟いた。
「海か・・」
「?・・」
窓の外には、一面青々とした空と海が広がっていた。
「ほんとだ・・」
ブルーがぼんやりとそれを眺めていると、キースが何かを促すように腕でつついてきた。
「次、降りるぞ」
「え・・」
「俺たちも・・夏休み、するんだろ」
「・・キース」
ブルーは大きく頷いた。
窓の外では相変わらず、きらきらと光る水面が青く澄み切った空を映している。
綺麗だね。
そう言うと、隣でキースが微笑んだ。
そんな当たり前のことが嬉しくて、ブルーもまた笑みを返した。
これからも二人で、色んな景色を見ていけたらいいね。
Fin