Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -2-

「し、失礼します。あの・・社会科の実習の打ち合わせに来たのですが」
「ああ、こっちだこっち」


放課後の職員室。
緊張の面持ちで扉をくぐったリクルートスーツの若者に、手慣れた様子で教員が手招きをしている。二週間後に始まる教育実習に備えて、学生が担当の教員との打ち合わせに訪れているのだ。
初々しい先生の卵を遠目で追いながら、ブルーはしみじみと隣人に語りかけた。

「懐かしいな~。僕らもあんな頃があったよね」
「そう昔のことではないがな」
「・・・」
「何だ、その顔は」
「いや、キースが実習生の時ってなんだか想像できないなーと思って。僕がここに来たばかりの時も、てっきり君はベテランの教員かと思ってたんだもん」
落ち着いていたという意味か、若さが足りないと言いたいのか、どうせその両方なのだろうと踏んでキースもまた嫌味で返してきた。
「・・俺はお前が教師だということが信じられなかったな。酔っ払い」
「まだ言ってるし。もう忘れてよ」

キースの部屋の玄関前に居座ったあの日から一年。
ブルーは散々な時期の自分を振り返って、笑い話にできるまでになっていた。
だがもし隣にいなかったのがキースでなかったら、自分は今頃こんな風に笑っていられたのだろうかとふと思う。

ありのままの自分を受け入れてくれたキース。
ずっと優しく見つめていてくれたキース。
そういえば僕は今まで自分のことばかりで、出会った日以前のキースのことをまだ何も知らない。

「・・あのさ、キース」
「?」
「後輩の実習生って・・」

そう問いかけた瞬間、入室してきた別のリクルートスーツの若者が、こちらに視線を合わせた。

「キース先輩・・!」
「?」

若者は嬉しそうにこちらに―キースの机の傍に駆け寄ってきた。
淡いブラウンの髪と目がとてもきれいな少年だった。


「お久しぶりです・・先輩。この学校の教師だったんですね」
「久しぶりだな、マツカ。まさかお前が教職を取るとはな」
「はい、・・あ。でも・・ここだけの話、まだ企業と迷っているんですが・・」
「馬鹿正直な奴だな。そういうことは思っていても実習先では言わないものだ」
「す・・すいません」
「俺は構わないが、生徒や他の教師の前では言わないようにするんだな」
「はっ、はい」

恐縮そうな少年に、笑みを浮かべるキース。
自分意外の人間に、こんな風に率直に優しい顔をするキースをブルーは見たことがなかった。隣の席で二人のやりとりを傍観していたブルーは、そこでようやく口を開いた。

「キース先生、彼が・・?」
「ああ、さっき話した後輩だ」
「はっ、はじめまして。国語科の教育実習にきましたジョナ=マツカといいます。キースせんぱ・・先生とは、大学のゼミでお世話になりました」
「そう。僕は理科教師のブルー」

よろしくねと言うと、少年は幼さを残した顔に愛らしい笑みを浮かべた。
少しおどおどとした仕草に、なんだか無性にかまってやりたい衝動に駆られる。まるでリスかマウスか・・小動物のような子だなとブルーは思った。
なるほど、こんな可愛い後輩ならキースの鉄仮面も笑顔になるわけだ。

「僕は一年の担任だけど、わからないことがあったら聞いてよ」
「あ、ありがとうございます」

早速実習についての打ち合わせを始めたキースとマツカ。
彼らの邪魔にならないようにブルーも自分の仕事に戻ろうとしたが、二人の親しげな様子にどうも集中できない。早く自分の担当する実習生が来ないだろうかと思っていたところ、受話器を片手に前方の席の教師が声をかけてきた。

「ブルー先生、お電話ですよ」
「え、僕にですか?」
「ええ、セルジュ=スタージョンという子からです」
「?セルジュ=スタージョン・・・?」

誰だったかな・・と一瞬考えて、ふと手元の実習生名簿に同じ名があることに気付いたブルー。自分の担当の実習生だとようやく理解すると、慌てて教師から受話器を受け取った。

「はい、もしもし」
『ああ、ブルー先生ですか』
「うん、そうだよ。どうしたのスタージョン君、今日打ち合わせだったよね」
『それなんですけど、急に面接が入って行けなくなったので。また都合のいい日連絡するってことでいいですか』
「・・え?・・・え~っと・・そっか。会社の面接だったら仕方ないね。わかった。じゃあまた僕宛に連絡ちょうだい」

面接頑張ってね、と言ってブルーは受話器を受けっとった教師に返した。
自分は教師一本の進路だったためよくは知らないが、彼やマツカのように就職と実習の両方で悩む学生が今の時期非常に多忙なことは間違いない。
が、・・・土壇場でキャンセルした割に、態度の大きい実習生だと思ったのは気のせいだろうか。
あの謙虚そうなマツカを見た後だから余計にそう感じたのかもしれない。
隣の席を振り返れば、まだ先輩の顔をしたキースと彼が話しこんでいた。

なんだか胃のあたりがむかむかする。
新学期が始まって忙しかったら、疲れているのかもしれない・・ブルーはそう、自分に言い聞かせた。

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2004.2.22 開設