Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -9-

「・・成程。事情はよくわかったよ」

カーチェイスならぬバイクチェイスの末、ブルーたちは警察署にいた。
セルジュは見事スクーターに追いついて泥棒から鞄を取り戻してくれた。しかし、同時に追いついてきた警官にひったくり犯もろとも捕まる羽目になった。

調書を取るため連れて行かれた警察署で、ブルーは必死に事情を話した。
その必死の説明と盗まれた鞄が物証となり、この一件を学校に連絡されることだけは避けることができた。その代わり、セルジュの制限時速オーバーとノーヘルメットの違反が揺らぐことはなかった。

「事情はよくわかったけど・・・違反は違反だからね」
「あんた達、犯人検挙に協力してやったっていうのにそれが被害者に対する・・・っ!?」

机の陰でセルジュの足を思い切り踏むと、ブルーは深々と頭を下げた。

「この度は本当に、ご迷惑をおかけいたしました」
「・・・・・」

痛みに顔を歪めていたセルジュも、ブルーに続いて渋々頭を下げる。

「・・まあ、次からは何かあったら自分たちで追いかけるんじゃなくて、警察に言うんだよ」
「はい・・本当にすいませんでした」



警察署からの帰り道をとぼとぼと二人で歩いて行く。
ふと隣を見ると、バイクを引きずるセルジュが釈然としない顔をしていた。

「足・・ごめんね。い・・痛かった?」
「・・いえ」
「ほっ・・ほら、あそこで余計な事を言ってしまったら収集がつかなくなりそうだったし・・」
相変わらず不機嫌な表情のセルジュ。そんなに彼の自尊心を傷つけてしまったのだろうかと焦るブルーだったが、彼からは意外な言葉が返ってきた。

「ブルー先生が謝ることないってのに・・」
「え・・?」
「なんか、逆に迷惑かけたみたいで・・すいません」
「・・・・・」
初めて聞く彼の謝罪の言葉に、ブルーは思わずぽかんとしてしまった。
珍しくしおらしい顔をしているセルジュが少し可愛く見える。なんだか今日一日で、彼の見方が随分変わった気がした。

「違反金も・・建て替えありがとうございます。すぐに返しますから」
「いいよ。出世払いってことにしとくから」
「でも・・」
なおも申し訳なさそうな顔をしたセルジュに、ブルーは改めて礼を言った。

「それより鞄・・取り返してくれてありがとう」
「い・・いえ、・・中身、ちゃんと入ってました?」
「うん、全部ちゃんと入ってたよ。財布も、テストの答案も無事だった。スタージョン君のお陰だよ」
「そうですか。ならいいですけど・・」

しばしの沈黙が二人の間に流れた。
耐えきれず、ぷっとブルーは吹き出してしまった。
「?」
「あはははは」
「・・・なんか俺、おかしかったですか」
「おかしいよ・・だって・・途中まで映画みたいだったのに・・」
「??」
「もう・・すっかり不良息子の母親の気分だったよ」
「ひどい言い草ですね」

声をあげて笑うブルーに、毒気を抜かれたセルジュもまた続いて笑った。初めて見る彼の笑顔は意外と人懐っこく、可愛らしく思えた。

「ありがとう、スタージョン君・・。僕・・なんだか君のこと少し誤解していたみたいだ」
「?」
「今日は本当にありがとう・・」

最初は全く合わない相手だと思っていたが、やはり誰にも長所はあるものなのだ。彼はそれが人よりわかりにくいだけなのだろう。
ブルーが再び感謝の意を告げると、セルジュは少し照れた様子でいえ・・と下を向いた。

「あの、」
「ん?」
「・・セルジュでいいですよ・・。呼びにくいだろうし」
「うん」

なんだかどんどん彼との距離が縮まっていくようで嬉しい。
短い実習期間の中で次第に堅い師弟関係を育み、最後には涙の別れ。
やはり担当教師と実習生とはかくもこうあるべきなのだとブルーは思った。

「そうだ、セルジュ。夕食はもう食べた?」
「いえ・・まだですけど」
「なら、一緒にどう?奢るよ」
「え・・・」
「都合、悪い?」
「い・・いえっ・・」
「でも、さっきの罰金であんまりお金ないから期待しないでね」

再び二人は声をあげて笑い合った。

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2004.2.22 開設