実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
例の電話の件から、特に変わったこともなく毎日が過ぎていった。
キースの態度もまた普段と変わらぬものだったが、あの件に関して何か話をしてくれるというようなこともなかった。
事態が動いたのは、夏休み最初の週末のことだった。
比較的早い時間に仕事を終えたブルーは、いつものようにマンションの自室へと帰る途中だった。
「・・?」
ふと、通路の先を見るとキースの部屋の前に見知らぬ女性が佇んでいた。
とりあえず素知らぬ顔をして自室の鍵を開けようとしたブルー。ついつい気になり横目でちらりと隣の部屋のほうを見ると、女性と目が合ってしまった。
「こ、こんばんは」
「・・こんばんは」
女性は品のある物腰で挨拶を返してくると、携帯電話を片手に誰かと連絡を取ろうとしていた。しかし電話は一向に繋がらず・・ディスプレイを見つめて彼女は溜息を落とすにとどまった。
ブルーは鍵を開ける手を止めたまま、再び彼女を凝視していた。
雪のように白い肌に整った顔立ち。そして何より腰まで届く程の長く美しい金糸の髪が印象的だった。
この女性は・・キースとどういう関係なのだろう・・?
部屋を知っている以上は、それなりに親しい間柄だとは伺えるが・・。
「あの・・何か?」
「えっ」
流石に視線に気付いた女性が、ブルーに恐る恐る問いかけてきた。
「あ・・えっと・・その部屋の人に何かご用ですか?」
「・・?ええ、そうですけど」
「だったら、まだしばらくは帰らないと思いますよ。彼、今日は会議が長引いているみたいだから」
余計なお世話と思いながらも、ブルーは結局素通りをやめて口をはさむことに決めた。
「あの・・あなたは?」
「申し遅れました。僕はキースと同じ学校の教師で、ブルーと言います」
「まあ、あの子の同僚の方でしたの」
知り合いと聞いて、彼女の瞳から僅かな警戒の色が消えた。
「フィシスと申します。いつも・・弟がお世話になっております」
「いえいえ・・こちらこそ弟さんにはお世話に・・・」
?
・・・今、彼女はなんと言った?
キースを弟と呼んだ彼女の顔を、ブルーはまたまた凝視してしまった。
「キースの・・お姉様・・?」
「はい」
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「どうぞ」
「あ・・ありがとうございます」
ふるまわれたコーヒーと茶菓子、そしてブルーの顔を交互に見つめて、フィシスは少し驚いたような・・不思議そうな顔をしていた。
「あの・・」
「はい?」
「部屋の鍵を渡しているなんて・・あの子、本当に貴方を信頼しているのですね」
「さあ・・どうでしょうね」
何と返していいかわからず、ブルーは笑って誤魔化した。
あのまま彼女を放っておくわけにもいかず、かといって自分の部屋に招くのも初対面の女性に対してどうだろう・・と思った末、ブルーはキースから預かっている合い鍵を使うことに決めたのだった。
ここはあくまでキースの部屋であるため、勿論先程のコーヒーと茶菓子も彼のキッチンからブルーがくすねたものである。
しかしそう見えない程に慣れた様子で弟の部屋にいる青年に、フィシスは感心にも似た感情を覚えたのだった。
「あの子に貴方のような友人がいるなんて・・わたくし、姉としてとても嬉しく思いますわ」
「そんな・・」
合い鍵を渡す程仲の良い弟の友人・・いや、親友に目を輝かせるフィシスに、ブルーは少々複雑な心境であった。
友人ではなく恋人です、と言えばこの女性は一体どんな反応をするだろう。
もちろん告げるつもりはなかったが、どこで綻びが出るかわからないため、ブルーは早々に退散することにした。
「では、僕はこれで失礼します。キース、早く帰ってくるといいですね」
「あら、もう行ってしまうのですか?」
「え?」
「学校でのあの子がどんな風か、是非聞かせて下さいな」
「え、ええ?」
ああ・・・やはりあの時、素通りすべきだったのかもしれない。
そう思っても、時すでに遅しである。
ややこしいことにならないといいけどなぁ・・と思いながらも、ブルーはしばし彼女とティータイムを過ごすことになった。