Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -7-

一夜明け、先日とはうって変わってブルーの心は晴れやかだった。

「おはよう、スタージョン君」
「・・おはようございます」

職員室前ではち合わせたセルジュに笑顔で挨拶をすれば、彼はいつものように無愛想な表情で返してきた。

「今日も一日頑張ろうね」
「?・・はあ。・・・どうしたんですか」
「ん?」
「・・何かいいことでもあったんですか」
「えっ・・」
「朝から妙にテンション高いから」
「・・えー、そ、そうかな」

えへへ、と笑ってごまかすブルーだったが、ついつい口元が緩んでしまう。
ここのところ変に苛々としていただけに、昨日キースから受けた励ましが嬉しくてたまらなかったのだった。

「ブルー先生って、わかりやすくていいですね」
「そう?ありがとう」

褒められているのか嫌味なのかわからなかったが、ブルーはとりあえず前者と思っておくことにした。
これからは何でも前向きにとらえなくては。
それに、彼と言い争い以外でこんなに会話をしたのは初めてではないだろうか。

今日はきっといい一日になる。
そう感じるブルーの期待とは裏腹に、波乱の一日が幕を開けたのだった。



「えー、先生方、朝礼の前にちょっとよろしいでしょうか」

職員室で毎朝行われる職員朝礼。
今朝はやけに改まった教頭の一言から始まった。

「今朝、警察から連絡がありまして、ここのところ学校の周辺でひったくりの被害が多発しているそうです。夜道を歩いていて背後からスクーターで鞄を盗られたケースが大半だそうですので、徒歩や電車で通勤される先生方は十分に注意して下さい」

教頭が話し終えると、普段のように会議や一日の学校行事についての連絡が各教師から伝えられていく。
ブルーは席の傍で起立していたセルジュにひそひそと話しかけた。

「スタージョン君も気をつけてね。財布もそうだけど、僕らは生徒の名簿とか持って帰ったりする機会があるから」
「・・俺の心配より、ブルー先生のほうが気をつけた方がいいんじゃないですか」
「どうして?」
「なんかぼーっとしてそうだし。隙多そうだし」
「そうかなぁ・・」

セルジュの辛口の意見にもすっかり慣れたものだ。
ふと隣に視線を移せば、キースもまた実習生のマツカと話をしていた。
なんだか胃のあたりがまたむかむかとしてきた気もするが、一つ大きな壁を乗り越えた清々しさから、ブルーは特にその感情を意識することはなかった。



「うん、今日の授業も良くできていたと思うよ」

放課後、授業を終えたセルジュから実習簿を受け取ると、ブルーは彼の授業の良い点や反省点について記入してやった。実習生の出勤簿でもあり、通知表でもあるそれを記入するのは担当教員の日課であり、その日一日の最後の仕事でもある。

今日は特筆すべきことはなかったが、とても充実した一日だった。
実習簿を受け取ったセルジュが職員室を出ていった後、暫くテストの採点などを行っていたブルーだったが、ふと明日の1限目が化学室での実験だということを思い出した。

実験器具の点検だけでもしておこうかな。
既に部活の生徒たちも帰宅している時間帯の特別教室は薄暗く、あまり気味のいいものではない。多少遠回りにはなるが、ブルーはまだ照明のついていた2年の教室の脇を通っていった。

そういえばこんな時間に、誰が残っているのだろう。
明かりの灯った教室のプレートを見れば、2-Aと書いてあった。
・・確か先日、キースがマツカの授業を見に行った教室だ。

もしかしたら、二人が中にいるのだろうか。
なんとなくブルーは気になって扉の隙間から覗き込んでみた。
その直後、ブルーの目は教室内の光景に釘付けになった。

室内には予想通り、キースとマツカがいた。
教壇の上にいるキースと、その傍にいたマツカ。
キースの手が、マツカの頬に添えられ、二人の顔が限りなく近い場所にあった。
いつになく真剣な顔をしたキース。そして目を閉じたマツカ・・・。

なにがどうあってそういう状態になっているのかなど、ブルーには知る由もない。
だが、これは・・・・。

眼前のあまりの出来事に、ブルーはいたたまれずその場を走り去った。
無我夢中で廊下を走って、階段を駆け下りて・・気がついたら職員室前の廊下で息を切らしていた。
頭の中はまさに真っ白だった。

扉を少し開けたままできてしまったが・・気付かれていないかな・・。
後ろの扉だったから、きっと大丈夫だろう・・・。
いや・・・そういう問題じゃなくて・・・・。そういう問題じゃなくて・・・。

・・・・・キースと・・マツカが・・・

見間違いに違いない。
きっと・・。


ブルーは必死に、自分に言い聞かせた。

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2004.2.22 開設