実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
職員室に戻ったブルーは、採点途中の小テストの答案を鞄の中に詰め込むとそそくさと学校をあとにした。
今日はもう・・何も考えたくなかった。
きっと見間違いに決まっている。もしくは、何か理由があるに違いない。
・・そう自分に言い聞かせながらも、ブルーは先程見た光景が目に焼き付いて離れなかった。
キースにとってマツカはどういう存在なのだろう・・。
そういえばマツカと一緒にいる時のキースは、いつもブルーが見ている彼とは少し違う気がしていた。
もしかしたら、自分の知らない何かが二人にはあるのだろうか・・。
一端ぬかるみにはまるとどんどん深みへ沈んでいくのが自分の悪い癖だとブルーはわかっていた。
だが、今回ばかりは悪い方向へ考えられずにはいられなかった。
明日からどんな顔をしてキースに会えばいいのだろう。
真相をキースに聞いてみようか・・いや、答えてくれなかったらどうする・・?
そんな風に葛藤をしながら駅までの道のりをぼんやり歩いていた時だった。
ふいに後ろから何か衝撃を覚えたと同時、脇を掠めるようにスクーターがすれ違っていった。
「?」
手元を見ると、先程まで右手に持っていたはずの鞄がなくなっていた。
前を走る白いスクーターのドライバーの手にそれらしきものを見つけて、ブルーは何が起きたのかをようやく認識した。
「!?・・・ど・・泥棒っ!?」
今朝の朝礼で教頭が注意を促していたひったくり犯。
自分は今まさにその被害に遭ったのだと気付くと、ブルーは無我夢中でスクーターを追いかけようとした。
「ちょっと待って・・!!僕の財布・・っていうか・・・答案・・・!!」
あの中には自分の現金やカード類は勿論だが、採点途中の答案用紙が入っている。
生徒たちが頑張って書いた答案。
ブルーは何よりも、それを死守しなければと必死で走った。
その時だった。
「どうしたんですか?」
「?」
振り返ると、二輪に乗った青年がゆっくりとこちらに近づいてきた。
フルフェイスのメットを被ったその人物にブルーは一瞬戸惑ったが、メットの隙間から除く生意気そうな三白眼の目元には見覚えがあった。
「・・スタージョン・・君・・?」
「そうですけど。そんなに急いで、何かあったんですか?」
「・・鞄・・・あ・・あのスクーターに持ってかれた・・」
「ええ!?やばいじゃないですかそれ!」
ブルーが力なく前方を指さすと、既に先程のスクーターは豆粒大になっていた。
普段無愛想な彼でも、こんな風に年相応に驚くことはあるんだな・・などと息切れしながらブルーが感心していると、セルジュは慌ててバイクを停車させ、被っていたメットを外してブルーに押しつけた。
「ちょっとこれ被って下さい」
「え?」
「いいから早く!被って乗って!」
セルジュの剣幕に押され、ブルーはヘルメットを被ると彼に促されるままバイクの後ろに乗った。
「しっかり捕まってて下さい」
「?」
どこに?・・と問う前に、エンジン音とともにバイクが動き出した。
ブルーはとっさにセルジュの腰にしがみついてしまった。
い・・一体これはどういう状況なのだろう。
展開の早さについて行けないブルーは、とにかく自分が振り落とされないようにするだけで精一杯だった。
相当スピードが出ているのだろう。普段通勤に通っている道がまるで別物のように迫っては過ぎていく。
「スクーター、あれですか?」
「?」
曲がり角を二つほど折れたところで、前方に先程のスクーターがはっきりと目視できた。右肩には確かに先程ブルーから奪った鞄をかけていた。
「そ、そう!」
「このまま大通りに出るつもりか・・・しっかり捕まってて下さい。飛ばしますよ」
「え?!ちょ・・ちょっと」
少し油断していたブルーは、再びセルジュにしがみついた。
今はとにかく、振り落とされないように彼の言う通りにするしかない。
スクーターはセルジュの読み通り、駅前の大通りへと出て行った。僅かに遅れて後を追う形で二人もまた通りへと出る。
追跡劇は順調だが、ふとブルーはある懸案事項に気付いた。
「そ、それより、ヘルメットもう一個ないのかい?」
「え?・・何か言いました?」
ヘルメットと爆風に遮られ、上手く言葉が伝わらない。
ブルーはこれでもかというくらい声を大にして言ってやった。
「ノーヘルメットはまずいって!!」
「メット一個しかないんですよ!大丈夫、すぐにあんな奴追い抜いてやりますよ」
追い抜くことが当初の目的ではないのだが・・・。
無鉄砲さに呆れながらも、その一個のヘルメットを自分に与えてくれた優しさ、そして行動力にブルーは思わず感心してしまった。普段クールに見える彼でも、こんなに熱い一面があるのだ。
しかしブルーの予想通り、豆粒大だったスクーターにすぐ傍まで迫ったところで、セルジュたちの乗るバイクにも迫りつつある者がいた。
『そこのバイク、止まりなさい』
「げ!?」
「・・ほら!言わんこっちゃない・・!」
けたたましいサイレンとともに、後方から警察の大型バイクがセルジュたちの追跡を開始し始めた。
「もういいから、スタージョン君!一旦止ろう」
「駄目です。先生の大事なものなんですよね?」
「う・・うん」
「なら、何が何でも取り返しましょう」
「スタージョン君・・」
「それに、今更警察に説明してる間なさそうですし。・・もう少し飛ばしますよ。捕まってて下さい!」
「ええっ??!」
背後から聞こえるサイレンと警告の声。
日常と余りにかけ離れた体験に、驚きを通り越してなんだか思わず笑い出しそうになる。
キースとマツカの只ならぬ様子を見てしまったこと、さらには鞄をひったくられたことさえ頭の中から吹き飛んでしまった。
もう、なるようになってしまえ。
加速するスピードに、ブルーはぎゅっと腕に力を込めた。