Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

キース先生の事情 -6-

「ブルー先生、何かいいことでもあったんですか?」
「え?・・そう見えます?」
「ええ、見えます」

声をかけてきたスウェナがくすりと微笑んだ。
そんなに僕、浮かれてるのかな・・?
普通に自分の席で仕事をしていたつもりだったが、週末の旅の計画でついつい顔が緩んでしまっていたようだった。

キースとの初めての旅行。
行き先の候補はいくつかピックアップしたが、そこに至るまでの交通手段など、考えることは割とある。一応二人とも免許は持っているが、ブルーは筋金入りのゴールドペーパードライバーだし、キースもマイカーを持って運転慣れしているタイプというわけではない。
長距離の車の移動が必要な場所より、やはり電車で行ける場所だろうか。
後でキースにも聞いてみようかな、とブルーは隣の空席を見つめた。

2年は受験対策のため、夏期講習と銘打っては夏休み中でも午前中に何コマか授業を行っている。そのため、1年の担任の自分と違ってキースの仕事量は格段に多いのだ。
多忙なキースにも楽しんでもらえるような旅にしよう。
そんなことを考えながらも、楽しい旅の計画につい笑みを浮かべてしまうブルーだった。


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キースはその後も補修授業や会議の関係で多忙を極めたようで、ブルーは生憎、学校では彼と話をする時間がとれなかった。
帰ってからでもいいか、と先に家路についたブルーは、マンションの手前まで来たところで後ろから声をかけられた。

「こんばんは、ブルーさん」
「?・・」
声をかけてきたのは、キースの姉のフィシスだった。

「やあどうも、こんばんは」
「先日は美味しいコーヒーとお菓子をありがとうございます。とても楽しいティータイムでしたわ」
「いえいえ。僕も貴女とお話ができて楽しかったですよ」
ぺこりと頭を下げるフィシスに、ブルーもまた丁寧に頭を下げた。

「今お帰りですの?」
「ええ。僕は早めに帰宅できたのですが、キースはまだ学校ですよ」
「そうですか・・」

やはりキースに何か用があったのだろう、少し考え込んだフィシスにブルーは鞄の中からキースの部屋の合い鍵を出した。
「今日も上がって待っていけばいいじゃないですか」
「でも・・勝手に入ってあの子、また怒らないかしら?」
「今に始まったことじゃないですから、大丈夫ですよ」
そう微笑むと、ブルーはフィシスをキースの部屋へとエスコートした。


「熱いですから、気をつけて下さい」
「ありがとうございます」

キースの部屋のリビングで再びコーヒーを振る舞われると、フィシスはブルーの顔をじっと見つめてきた。

「何か僕の顔についてますか?」
「い・・いえ・・」
そわそわとしながら何か考えていたフィシスが、意を決したように口を開いた。

「・・実は・・・ブルーさんを見込んで、あの子のことでお尋ねしたいことがあるのですが・・」
「?・・どうぞ、僕でわかることでしたら何でもお答えしますよ」
「キースのお付き合いしている相手がどのような女性か、ご存知ですか?」

・・・・・・えーっと・・・・。
突然の問いに、ブルーはどう答えてよいものかと心底当惑した。

付き合っているのは女性ではなくて男性で、しかも自分だとは到底言えない。
ブルーは別に構わなかったが、キースはきっと困るのではないかと思った。
現に、彼が自分との付き合いを彼女に告げていないことがその証明だろう。
勿論・・キースがそのような話を積極的にするタイプにも思えないが・・。

以前も少し感じていたが、自分たちの関係を表立って告げられないという事実が、ブルーはどこか寂しいことのように思えた。

「さあ・・流石に僕も付き合っている女性のことまでは・・」
「そう・・ですよね。ごめんなさい、変な事を聞いてしまって」
「いえ・・それより、キースの恋人がどうかしたんですか?」

それまで穏やかな笑みを絶やさなかったフィシスが、急に深刻な表情で話し始めた。

「これはわたくしどもの家の・・少々立ち入った話になるのですけど・・聞いていただけますか?」
「ええ、僕でよろしければ」
「その・・・キースのことなのです」
「キースが、どうかしたんですか?」
「祖母があの子に黙って、お見合いを決めてしまったのですわ」
「お見合い・・?」

「ええ、祖母は会社を経営しておりまして・・この会社は本来父が継ぐ予定のものだったのですが、病気でわたくしたちが幼い頃に他界してしまったので、高齢の祖母が未だ経営の主導権を握っているのです。祖母は収益を得るためならば、手段をいといません。これまでもそうやって会社の規模を大きくしてきました。そのため、このお見合いも家業のための政略結婚が一番の目的なのですわ」

「そう・・なんですか・・」

お見合い?・・結婚・・・?
話にまるでついていけない。
これは現実なのだろうかと思うような単語がブルーの頭の中をぐるぐると回った。
キースにお見合いの話・・・・その事実より、ブルーはそんな大事な話をキースの口から何一つ聞かされていないということが、何よりもショックだった。

「あの子は何故か隠そうとしていましたが、どうやら既に心に決めた方がいるようですわ。でしたら是非、お婆様に引き合わせるべきだと促しに来たのですが・・」
「・・・そういう関係では、ないんですよ・・きっと」
「・・え?」
ぽつりと溢した本音を拾われ、ブルーは慌てて取り繕った。
「あ・・いえ、まだそういう段階の関係ではないのかもしれませんね・・その・・お付き合いしている女性と」

なんだか自分が、すごくみじめに思えた。

何も聞かされていない。
何も知らなかった。
これは自分にも関係のある話なのに、そうだと言えない。
キースもまた、それを言おうとしない。いや、言えるはずもない。


僕たち・・・これで本当に恋人って言えるんだろうか・・?

今までキースの目に自分がどう映っていたのか、ブルーはわからなくなった。


「その・・・お見合いというのは・・いつなんですか?」
「今週末ですわ」

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2004.2.22 開設