実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
「え・・?」
突然の告白に、ブルーは驚いた表情でジョミーを見た。
「大人になったんです。あの頃よりずっと。だから僕とのこと・・考えてくれないですか?」
「・・・ジョミー・・」
予想通り当惑した様子のブルーを見つめながら、ジョミーはその内心で、彼の記憶がこれをきっかけに戻ればいいと思惑を巡らせていた。
自分が最も愛しいと思う人間が誰なのかを思い出せば、必然的にキースについての記憶も戻るのではないか。
そんな発想から、ジョミーはブルーに揺さぶりをかけるために偽りの告白を行ったのだ。
勿論、断られることを前提にして。
「いいよ。寄り、戻そう」
「へ?」
意外にあっさりとした返事と思惑に反するその内容に、ジョミーは思わず間の抜けた声を出してしまった。
「あ、あの・・ブルー・・先生?・・何・・言ってるんですか?」
「・・何って?君の告白に対する返事だけど」
「ど・・どうしてそうなるんですか?」
「どうしてって・・君とのこと、僕もずっと後悔していたから。今なら前と違った関係が気付けるような気がするし、前向きに考えてもいいかなと思って」
「だ・・駄目ですよ!前向きに考えちゃ!」
「??何が駄目なんだい・・。告白してきたのはそっちなのに、不思議な事を言うんだね」
こうなってしまっては、逆に揺さぶられていたのはジョミーのほうだった。
すっかり吹っ切れていたはずなのに、ブルーの言葉にうっかり流されそうになる自分がいる。
「だ、だって・・ブルー先生には他に好きな人がいるじゃないですか」
「・・好きな人・・?・・」
わずかに曇ったブルーの表情の変化を、ジョミーは見逃さなかった。
「じゃあ聞きますけど・・先生、今僕のこと・・好きなんですか?」
「・・・・好きだよ」
「ジョミーのことが・・好きだよ」
(違う)
ジョミーの中で、それまで燻っていた未練にも似た感情が、途端にしぼんで消えていった。
何かが決定的に、違う気がした。
好きだと言われても、ちっとも嬉しくない。
(・・だって)
「・・嘘だ」
「嘘なんかじゃ・・ないよ」
「じゃあ、どうして泣いてるんですか?」
「・・・え・・?」
それまで浮かべていた笑みとは裏腹に、ブルーの頬には一筋の雫が零れていた。
ブルー自身、自分の涙の理由がわからないようで、流れ落ちる粒に触れては呆然とそれを見つめていた。
「ブルー先生、思い出して下さい。・・・あなた、誰のことが好きで・・僕を振ったんですか?」
「誰って・・・」
「離れて行くのが嫌で、現実逃避して記憶失っちゃうくらい好きな人は誰ですか?!」
「一体何のこと・・」
必死の問いかけにも、ブルーはわからないと繰り返すだけ。
業を煮やしたジョミーは、苛立つ感情のままに言葉をぶつけた。
「・・そうやって、いつまでも逃げてればいいですよ。でも、逃げ道にされるこっちはたまんないんですよ・・」
「・・ジョミー・・?」
「僕のこと好きだなんて言うブルー先生・・嫌いです」
そう一方的に吐くと、ジョミーは踵を返して病室から足早に出て行った。
思えば彼にここまで強い口調で怒りを露わにしたのは初めてだったかもしれない。
付き合っていた頃は、喧嘩の一つもしたことがなかった。
無意識に自分が彼に合わせていたのか、彼が教師として一歩引いた目で自分を見ていたからなのか・・ぶつかり合うことをお互いしなかった。
自分たちに欠けていたものがようやく見えた気がして、ジョミーは緩んだ涙腺からこぼれ落ちる粒を拭った。
「すいません、なんか、全然力になれなくて」
ごしごしと服の袖で顔を擦りながら、病室の入り口の脇に立つ人物を振り返った。
「・・・いや」
キースは事の一部始終を聞いていたようだった。
動かぬ表情の中にわずかに動揺が見て取れたものの、深く事情を聞こうとする気配はなかった。
「あーあ、かっこ悪いなぁ」
「・・・悪かったな」
「別に、キース先生に謝ってもらうことなんてないですけど」
「・・そうだな」
「それよりなんとかしてください、あの頑固者」
「ああ・・わかってる」
(わかってないから。
あんたがブルー先生の気持ちわかってなかったから、こんな事になったんじゃないのか?)
・・と、思わず浮かんだ憎まれ口をジョミーは腹の内に飲みこんだ。
今はただ、すれ違うこともぶつかり合うこともできる二人の関係が、羨ましくも微笑ましかった。