Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

キース先生の事情 -4-

ブルーの帰った室内で、最初に沈黙を破ったのはフィシスだった。

「安心しましたわ。貴方が教師になると聞いた時は、耳を疑いましたけれども・・・しっかり先生をなさっているようですわね。それに良いお友達もできて・・」

「そんなことを言うためにわざわざここに来たのか?」
「・・相変わらずせっかちですわね」
「無駄話をするのが嫌いなだけだ」

キースは懐から煙草を取り出すと、ソファにかけてそれに火をつけた。

「わたくし、煙草は嫌いなんですけれど」
「ああ、知ってる」
早く帰れと言わんばかりに素知らぬ顔で煙草をふかすキースを見て、フィシスは煙を大げさに払いながら呆れたように呟いた。
「・・全く・・本当に可愛げのない弟ですこと」
「それで、大した話というのは?」
「・・お婆様が、貴方に家に帰ってきてほしいと仰っています」
「・・またそれか。電話でも言ったはずだろう、俺は帰らないと」
「貴方はすぐに切ってしまいましたけど、あの話には続きがあったのです」
「続き?」
眉を潜めると、キースは火の灯ったばかりの煙草を灰皿へと押しつけた。

「俺が会社を継ぐ気はないことは、婆さんもいい加減わかっていると思ったがな」
「ええ。それで貴方は家を飛び出したのですものね」
「だったら何故今更、俺に帰れと?」
「貴方が後継者にならないというなら、せめての孝行でそろそろ身を固めて欲しいとのことですわ。候補に挙がっているのは、お婆様と親交の深い議員の御令嬢です」
「・・馬鹿馬鹿しい。冗談も休み休み言ってくれ」
「こんな冗談を言うためにわざわざ来ませんわ。既にお見合いの日取りも決まっています」
「?・・なんだって?」

呆れて口が塞がらない、とはこのことだ。
唐突降って湧いた政略結婚の話に、キースは元より嫌悪していた祖母に対して、さらにその想いを深くした。

「・・いつだ?」
「一週間後ですわ」
「な・・」
「何故もっと早く言わなかった?・・なんて言わないで下さいね。わたくしからの連絡を無視していたのは貴方のほうなんですから。こうして直接伝えに訪れただけでも、ありがたいと思って頂かないと」
「ああ、ありがたいことだな。だったら、俺が見合いに行かないこともわかっているだろ」
「わかっていますけど、そいういうことは直接貴方からお婆様に言った方がいいかと思いまして」
「・・・」
「いずれお婆様から直接、貴方に連絡が来ると思いますわ」
「連絡?俺に何も言わず日取りを決めるあたり、『当日無理やり連れて行く』の間違いじゃないのか」

あれは高校卒業を控えた矢先の出来事だった。
教育大学進学を決めたキースの元に、考え直して家業を継げと祖母から連絡があった。断固拒否すると、その翌日・・どこから雇ったのか複数の強面の男が突然学生寮にやってきた。そして無理やり車に連れ込まれた挙句、実家へと送られた。

キースが家を飛び出して音信不通になったのはそれからである。


「・・それにしても、随分と嫌がりますわね」
「嫌に決まってるだろ。人の知らない所で勝手に結婚だの見合いだのと決められればな」
「わたくしもお相手の方のお写真を拝見しましたけど、そう悲観するほど不細工ではありませんでしたわよ」

大人しそうな顔をしてとんでもない毒を吐くこの姉であるが、勘も悪くはない。
嫌な所に気付いたなと思ったキース。ある事に話題が行かないように早々に会話を終わらせようとした。

「そういう問題じゃない。とにかく、俺は行かないからな。・・・もうこの話はいいだろう」
「あら?・・お顔はそれなりに大事かと思いますけど・・・それとも、今お付き合いしている方がいらっしゃるとか?」

やはりそこを突いてきた。

「別に」
「・・いらっしゃるのね」
「・・・」
「嘘をつく時に目を逸らす癖、直した方がいいかと思いますわ」

一枚も二枚も上手を取られ、為すすべがなくなり結局白状させられる。
彼女と話をして駆け引きで勝った試しがないキースだが、今回に限っては恋人の名前だけは知られないようにしようと心に誓った。
まさか先程茶飲み友達になった男がその恋人だとは・・気付くはずもないだろうが。

「その方、家に連れてらっしゃったらいかが?そうすればお婆様も納得なさると思いますけど」
(ブルーを実家に・・・?いやいやいや)
「それとも、結婚を前提のお付き合いではないとか?」
(確かに前提にはしていないが・・・)
「先方も乗り気のようですから、確固とした理由がない限り、このお見合いをお断りするのは難しいですわよ」

それだけ言うと、フィシスは一枚のメモを置いて部屋を出て行った。
見合いの日時と会場のホテルの住所が記載されたそれを暫く眺めていたキースだったが、すぐにくしゃりと握り潰して屑箱へと捨てた。

馬鹿馬鹿しい。誰が見合いなどするものか。

だがあの祖母のことである。
見合いをセッティングした以上、再び拉致・連行などという強硬手段に出るに違いない。
なんとか対策をたてる必要があるな・・と考えたキースだが、当のブルーに事情を説明することだけは躊躇われた。

こんな自分のごたごたに、彼を巻き込みたくはない。
何より、実家から逃げている情けない自分の現状を知られたくない。

キースは屑箱の中からゴミと化したメモを取り出すと、整えたそれを再び見つめた。

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2004.2.22 開設