実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
室内に鳴り響く目覚まし時計のアラーム。
いつにも増して深い眠りから覚めたキースは、急かすようにピッチを上げ始めたその音をとりあえず停止させた。
「・・?ブルー・・」
一夜を共にした隣人の姿が見えない。
不思議に思いながらリビングに向かうと、珍しく早起きをしていた彼が、これまた珍しくリビングに立って調理をしていた。
「あ、おはよう」
「・・何をしてるんだお前は」
「え?・・えっと・・朝食の支度・・」
がりがりと音をたてながら、トーストの焦げ目をナイフで削っていたブルー。そしてその背後では、ベーコンエッグと思しきものを乗せたフライパンが煙を上げていた。
「・・・そっちも焦げてるぞ」
「え?あ!・・あっつ!」
「・・・」
なんともいえず、溜息と笑みが零れたキースだった。
「朝っぱらから化学実験か・・」
「ち、違うって・・もう、文句言うなら食べなくてもいいし」
焦げの残ったトーストとベーコンエッグの表層を食べながら、声を殺して笑うキース。
珍しく彼より早起きしたため、普段しないことをやってみたブルーだったが、お前には向いていないと一蹴される始末。
折角の仲直りのあと、甘い朝のひとときを演出したかったのだが・・・上手くいかないものだ。
少し凹んだブルーだったが、確実に美味しくないであろうそれを口にしてくれているキースの優しさがまた、嬉しかったりもする。
「そういえばさ・・昨日、セルジュと会ったの?」
「・・ああ」
「・・・」
「何だ?」
「いや・・なんか、変なことなかったかなぁと思って・・」
付き合いを知られたことは大した問題ではない。
彼はそうお喋りではないし、そんなことを他に漏らすようなタイプの人間でもない。
それよりも・・・・
自分が眠っている間、キースとセルジュがこの部屋で遭遇したという事実を、ブルーはすっかり失念していた。昨日の状況をよくよく自分に置き換えて考えてみると、キースとしてはかなり不快な出来事だったのではないかと思ったのだ。
「・・・別に何も」
「そっか・・ならいいんだけど」
自室に帰ったら眠っているキースと、その傍にマツカがいたとしよう。
もし自分なら、あらぬ誤解に拍車をかけ、絶望に打ちひしがれるに違いない。これはどういうことだと、マツカに詰め寄ることだってあるかもしれない。
キースはその点、大人だな・・。
しみじみ思ったブルーだったが、それはすぐに覆されることとなった。
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「おはよ」
「・・ああ」
キースに遅れて出勤したブルーは、既に仕事をしていた彼と視線を合わせると、意気揚々と朝礼前の仕事に取り掛かり始めた。
今日で教育実習も折り返し。
この一週間、色んな事があったなぁと振り返っていると、いつものように職員朝礼に合わせて実習生たちがぽつりぽつりと職員室に入ってきた。
「おはようございます」
「あ、おはよう・・スタージョンくん・・?」
昨日のお礼を言わなくては。
そう思って見上げたセルジュの顔・・・・ブルーは自分の目を疑った。
彼の左頬には、誰かに殴られた様な痛々しい青痣がくっきりと出来ていた。
「ど・・どうしたの!?・・それ」
「・・・え・・えーっと」
言葉に詰まるセルジュに、ブルーは嫌な予感を覚えて隣の席を見た。
一瞬視線を合わせたキースが、何食わぬ顔でそっぽを向いた。
ま・・まさか!?
その態度で確信したブルーは、キースに慌てて詰め寄った。
(・・ちょ、ちょっと!)
(・・・何だ?)
(・・・も・・もしかしてあれ、君がやったの・・?)
(・・十分手加減はしてやったつもりだ)
いけしゃあしゃあと言うキースに、ブルーは開いた口が塞がらない。
どこが大人だ!
ていうか、やっぱり変なことがあったんじゃないか!
(なんてことしてくれるんだよ!この野蛮人!)
そう罵るブルーだが、心のどこかで冷静さを欠いたキースの態度が嬉しくもあった。
自分ばかりがマツカにやきもきしていたと思っていたが、そうでもなかったらしい。
(てゆーか・・そういうことされると僕が気まずいんだけど・・どうするんだよ、実習あと1週間もあるんだよ?)
(知らんな。元はお前の撒いた種だろ)
(勝手に殴ったのは君じゃないか!)
なおも小声で言い争いをしていると、セルジュが声をかけてきた。
「あの~・・いいですか?」
「な、なに!?」
慌ててセルジュに向き直ると、彼は鞄から茶封筒を取り出してきた。
「・・・これ、立て替えありがとうございます」
「?」
彼から封筒を受け取ったブルー。
中身を確認すると、いくばくかのお金が入っていた。
「これって・・昨日の違反金?別にいいのに・・」
「いえ、変に借り作るの嫌いなんで」
「そう・・。・・なんか・・・ごめんね。色々・・あの後迷惑かけたみたいで。よく覚えてないんだけど・・・ほんとごめん」
キースの分も謝ってみたブルーだったが、セルジュはさして怒っているような様子でもなく、むしろ穏やかな表情をしていた。
「・・・別にいいですよ。謝ってもらわなくたって」
「でも・・」
「手を出そうとしたのは事実なんで」
「?」
「今は太刀打ちできそうにないですけど・・・もうちょっと男を磨いて出直して来るつもりなんで。その時は・・・出世払い、期待してて下さい」
「うん・・?」
何やら意味ありげに笑みを浮かべたセルジュ。
とりあえず返事を返したものの、彼の言葉の意図するところと、自分のすぐ隣でキースが彼を睨んでいたことには全く気付いていないブルーだった
Fin