実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
「それじゃあみんな、また二学期に会おう。夏休みだからって勉強ばっかりしてちゃ駄目だよ。休みのうちにしっかり遊んでおくように」
「「はーい!」」
今日は一学期最後の日。
古株の教師が聞いていれば眉を吊り上げて怒りそうな言葉を笑顔で送ると、生徒たちは大きく手を上げてブルーに笑みを返してきた。
(夏休みかぁ・・僕もどこか遊びに行こうかなぁ)
勿論、夏休みがあるのは生徒だけで、教師には関係のない話だ。
だが、生徒が学校に来ないということで彼らのおもりから解放され、授業の準備に追われないだけでも、教師にとっても気の休まる期間であることは確かだった。
(キース・・どっか連れて行ってくれないかなぁ。海がいいかな・・いや、山もいいなぁ)
そんなことを考えながらぼんやり廊下を歩いていると、職員室の扉の脇に立っている彼を見つけた。
「キー・・・」
「・・だから、俺は帰るつもりはないと言っているだろ」
駆け寄ろうとしたブルーだったが、キースは誰かと電話をしている最中だった。口論とまではいかないものの、露骨に不快感を表したキースの声や表情・・何よりいつになく真剣な眼差しに、ブルーは酷く近寄りがたい印象を受けた。
「勘当でも何でもしろと伝えてくれ。・・じゃあ切るぞ」
ぼうっとその様子を見ていたブルーは、いらいらと携帯を切ったキースと目があった。
「・・・遅かったな、ホームルーム」
「え・・?あ・・うん・・課題の配布が多くて・・。2年は、終わるの早かったんだね」
「ああ。教科ごとに事前に渡していたものが多かったんだ」
「そっか」
まるで何もなかったかのようにキースは平静を装っていた。そんなキースの態度が不自然で、ブルーは聞いてはいけないと思いながらも話を電話に戻してみた。
「・・あのさ、キース」
「?なんだ」
「・・さっきの電話なんだけど・・」
「大した用事じゃない」
「・・そう」
お前には関係ない。
視線をそらしたまま返された返事は、そう言われたに等しいものだった。
(帰るとか・・勘当とか・・・あまりよくない話みたいだけど、もしかして親御さんと話をしていたのだろうか?)
キースの両親。キースの実家の話。
学生時代は寮生活で、大学からずっと一人暮らしをしているとは聞いたことがあったが、彼の生い立ちなどブルーは勿論聞かされてはいない。
誰にだって言いたくないことはあるだろうし、触れて欲しくないことはある。
家庭の事情に関してのことならば、確かに自分の立ち入るべき領域の話ではないだろう。
だが、話に触れることさえ許そうとしないキースの態度は、ブルーにとって少し寂しいものだった。
彼と付き合い始めてから1年。
ブルー自身、この25年間の人生全てをキースに話してきたわけではない。進んで話そうとも思わない。だから勿論、キースについても全てを知ることが大切だとは思っていない。
(でも・・・何か悩みがあるなら相談ぐらいはしてくれてもいいのにさ・・)
今までずっと、キースには助けられてばかりだった。
だからいつか自分がキースに何か返してあげることができれば・・とブルーは内心思い続けてきた。
「おい、何ぼさっとしてる」
「?・・え、ああ、うん、何でもない」
「昼飯、久しぶりに外でどうだ?」
「いいね。キースの奢りで」
「甘えるな。割り勘だ」
「はいはい」
(・・キースの方から、話してくれるのを待とう)
ブルーは前を歩く広い背中を見つめた。