Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

実習生が来た! -11-

「あ・・あの、その辺にしておきません?」
「何が」

空のジョッキを物足りなさそうに眺め、追加をオーダーしようとしていたブルー。
幾度かその光景を傍観していたセルジュだったが、数十分前とは明らかに違うブルーの様子に、流石に待ったをかけざるをえなかった。

「の・・飲み過ぎですって、ファミレスで・・ほら、目すわってるじゃないですか」
「だぁいじょうぶ。ビールなんてお酒の内に入らないから」

ブルーはけたけたと愉快そうに笑うと、近くにいたウェイトレスを呼んだ。

(・・駄目だこの人・・・完全に出来上がってる・・)

ブルーの普段の飲酒の量など、セルジュには知る由もない。
だからやたら飲みっぷりの良い彼を見ても、どの程度自分が飲めるかを把握してきっと飲んでいるのだろうな・・と思っていた。
しかし、そんなことはなかったのだ。

(成人したての学生じゃあるまいし・・・)

セルジュは目の前のご機嫌な酔っ払いを見て溜息をつくと、なぜもっと早くに彼を止めなかったのかと悔やんだ。

「おねーさん、ビールおかわ・・」
「お冷でいいです!お冷下さい!」

ジョッキを差し出していたブルーの手を押さえて、セルジュは駆けつけてきたウェイトレスに慌てて水を頼んだ。

「ちょっと、何言ってんの・・君」
「それはこっちの台詞ですよ。もう飲まないで下さい。明日学校じゃないですか」
「飲むな飲むなって、君が付き合うって言ったんじゃないか。あれはウソだったのかい?・・教師になろうというものが、そんな中途半端でどうするんだい?」
「・・す、すいません」

なんというタチの悪い酔い方をする人なのだ・・。
まさかこんなことになるとは思わなかったセルジュは、軽率に返事をしてしまったことをかなり後悔した。

バイクを置いて歩いて帰るつもりだったが、この様子ではブルー先生が自分の家まで歩いて帰れるかどうか・・かなり怪しい。タクシーを捕まえて、彼だけでも送り届ける必要があるな・・などと考えていると、思わぬ至近距離でブルーと目が合った。

「な・・なんですか」

眉をひそめた彼が、これでもかというくらい身を乗り出して自分の顔を覗き込んでいる。

「やっぱり・・ちょっと似てるかな」
「・・?誰にですか・・?」
「誰って・・・」

何か嫌なことを思い出したのか、急に不機嫌を顔に出すブルー。そんな彼の様子にピンときたセルジュは、思わず地雷を踏んでしまった。

「・・先生の、恋人にですか?」
「・・あんな奴・・もう恋人じゃない!」

空のジョッキを勢いよくテーブルに叩きつけるブルー。
食事を楽しんでいた周囲のカップルや家族連れが一斉に彼らのテーブルに注目した。
・・と同時に、先程頼んだ水を持って気まずそうにウェイトレスがテーブルに来た。

「よ・・よくわかんないですけど、とりあえず水でも飲んで落ち着いて下さい」
「・・・うん」

意外に素直に水を飲むブルーに拍子抜けしつつも、セルジュは彼の心をここまで乱す恋人とはどんな人間なのか少し気になった。それが自分に似ていると言われると、なおさら気になってしまう。

当初、ブルーに散々反抗していたセルジュだったが、別に意図してそうしていたわけではなかった。むしろもっと友好的に接したかったのだが、彼の顔を見るとどうしても素直にものが言えなかった。
実習の打ち合わせをすっぽかしてしまった点も本当は謝ろうと思っていたが、なかなか言い出せないまま生意気な実習生の仮面を被ってしまった。

それもこれも、ブルーが教師として非常に甘いタイプで優しい人間だったから・・つい天邪鬼な反応をとってしまったというのが本音なのだが、いつの間にかそれ以上の理由があることに、セルジュ自身もまた気付いていた。

「つまり先生は、その恋人に振られたんですか」
「!・・ふ・・振られてなんか・・!」
「じゃあ、浮気でもされたんですか?」
「・・・」

図星だったのか、ブルーはコップを抱えて押し黙ってしまった。
なんだか悪いことを聞いてしまったな・・と思いつつも、セルジュはこんなに優しいブルーを裏切るような『恋人』への嫌悪感から、ついつい口を滑らせてしまった。

「そんな奴、別れちゃえばいいじゃないですか」
「え・・」
「そ・・それか・・先生も、別の誰かと浮気しちゃうとか」
「誰と・・?」

否定も肯定もせずに、きょとんとした表情でブルーがセルジュの顔を覗き込む。
こういうシチュエーションで酔っ払い相手に言うのはどうかと思いながらも、セルジュは勇気を振り絞って言った。

「お・・俺とか」
「・・・」

一瞬目を丸くしたブルーが、ぷっと吹き出した。

「それ、いいかもね・・あははは!」
「・・・・」

完全に冗談だと受け取られた上に、今日一番の彼の笑いのツボにはまったようだった。

「あの、ブルー先生・・そろそろ出ましょう・・送りますから・・」
「もう?・・二軒目行こうよ」
「いや・・もう、勘弁して下さい」

下手な下心はやめて、とにかくこの酔っ払いを無事に送り届けよう。
大きく肩を落としたセルジュだった。

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2004.2.22 開設