Novel迷惑な隣人

教育実習生編

実習生が来た!
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?)

お見合い編

キース先生の事情
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キース先生に振って湧いたお見合い話

完結編

さよならお隣さん
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キース先生に振って湧いた異動話

さよならお隣さん -8-

二人揃って病院へと向かったキースとジョミーだったが、ブルーの病室を目前にして、キースは歩みを止めた。

「お前だけで行って来い」
「入らないんですか?」
「俺がいない方が話が弾むだろ。正直な話」
「またそんな卑屈な・・・いいんですか?話弾み過ぎて、寄り戻したりしちゃうかも」
「・・・・」
「いや、冗談ですよ?」
途端に険しい顔をしたキースに、ジョミーは苦笑いを浮かべながら入室した。


「こんばんは」
「ジョミー・・?」
一番奥のベッドの上で本を読んでいたブルーが、少し驚いたようにジョミーを見た。
体調は勿論、退院準備もまた万全のようで、既にベッドの傍らには帰りの荷物が綺麗にまとめられていた。

「驚いたな。君まで来てくれるなんて」
「驚いたのはこっちの方ですよ。ブルー先生が心配で、授業の内容が全然頭に入らなくて」
「それはいつものことじゃないのかい」
「そうでしたっけ」

あはは、と笑い合った空気はとても自然で。
まるで初めから、ただの親しい教師と生徒だったかのように錯覚するほどだった。
恐らく互いにそうあろうと努力しているからなのだろうが、そんなやりとりを出来るまでに・・確かに自分は立ち直り、彼は吹っ切れた。
ジョミーはいたって穏やかな気持ちで、かつて好きになった人と話をすることができた。

「それよりすいません、お見舞とか全然用意してなくて」
「そんなこと気にしなくても、君が来てくれただけで嬉しいよ。ここへは一人で?」
「え・・いえ、キース先生が・・・」(そのへんに・・)

開けっ放しの扉を振り返るものの、キースの姿は見えなかった。
(入ってくればいいのに。めんどくさいなぁ)
ふとブルーに向き直ると、彼は扉の先を険しい表情で見つめていた。

「そう、キース・・先生も・・・来てるんだ」
「あ、はい」
それまで緩やかだった場の空気が、一気に冷え込んだ気がした。

「あの・・先生、キース先生のこと・・忘れちゃったって本当ですか?」
「・・君までそんなことを言うのかい」
「ご、ごめんなさい」
(すごい・・本当に忘れてるんだ・・キース先生のことだけ)

不謹慎だと思いながらも、ジョミーは人間の記憶の神秘と言うか、ブルーの突拍子もない症状に感嘆せざるを得なかった。

「何度言われても、思い出せないし・・知らないものは知らないんだ」
「そう・・ですか」

これ以上地雷を踏まずに別の話を切り出したいところだが、自分の本題はそこなので踏まずにはいられない。
どんな荒治療でもいい。彼の記憶を掘り返して、取り戻してもらう。
そのためにジョミーはここに来た。
彼の記憶を取り戻す役目は、何より自分がうってつけのような気がしたからだ。

「でも・・まさか僕を振ったことは忘れたりしてないですよね?」
「・・・」
「あ、前の学校の時のことじゃなくて・・ほら、去年この学校に来たばかりの時に」
「・・なんの・・こと・・・?」
明らかな動揺を見せたブルーは、知らないというよりは何かに怯えているようにも見えた。

(やっぱり、そこからの記憶がないのか・・・・いや・・)

「忘れてるならいいです。もう一度告白するまでですから」
「?」
にっこりと微笑むと、ジョミーは笑顔を保ったまま続けた。

「覚えてます?ブルー先生。僕たちがだめになったのって・・結局は僕がまだ子供だったから。どうしようもないくらい子供だったからですよね。・・あなたを困らせるだけ困らせて、酷い別れ方をさせてしまった。ずっと・・・後悔してました」
「・・・それは・・僕もさ。僕だって、大人じゃなかった。ううん・・変に大人ぶろうとして、君の気持を真正面から受け止められなかった」
「今はどうです?」
「え・・?」

ジョミーの意外な問いに、紅い瞳が揺らめいた。


結果がわかっている告白をするというのも、おかしなものだ。
でもどうしてだろう。
あなたになら何度だって、振られてもいいと思えてくるんだから。

そんな自分に内心苦笑しながらも、ジョミーは道化になる決意を固めた。


「ブルー先生、僕と寄り・・戻しません?」

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2004.2.22 開設