実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
校庭の満開の桜の下で、卒業式を終えた生徒たちが各々記念撮影をしている。
その隙間を潜り抜けたブルーは、つい今しがた仲間との写真撮影を終えたばかりのジョミーを見つけた。
「ジョミー、」
「!ブルー先生」
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
証書の入った筒を片手に、青年が笑顔を浮かべた。
「キース先生から聞いたよ。奇跡的に第一志望受かった、って」
「奇跡は余計ですって」
そう漏らしたジョミーが小さく「よかった・・」と呟いた。
「・・もうすっかり、思い出したんですね」
「うん」
笑みで返したものの、ブルーは自分が彼にした仕打ちを忘れてはいなかった。
「あの・・ジョミー」
「なんですか?」
「僕・・・その、お見舞いに来てくれた時、君に・・・ひどいことを・・・」
「あれ?何のことですっけ・・?僕、化学式の計算と一緒で面倒な事って忘れっぽくって」
わざとらしく、とぼけた様子のジョミー。
ブルーはそれが彼の優しさなのだとすぐにわかった。
「・・・ジョミー・・」
「面倒くさいブルー先生とお別れすることができて嬉しいですよ」
「ひどいな・・それは」
「事実ですから」
へへ、と笑うジョミーに、ブルーも同様に笑みを溢した。
「それにしても君、本当にまともに受験して合格したんだね」
「どーいう意味ですか、それ」
「前にキース先生から、君が『スポーツ推薦の話を蹴って無謀にも受験勉強しようとしている』・・・って話を聞いてはいたんだけど、推薦を蹴ってまで進路を決めるなんて、すごいなぁと思ってね」
「あのぉ、褒めるのか下げるのかどっちかにしてくれません?」
「あ、僕が言ったんじゃないんだよ。無謀って言うのは彼が・・・」
そう言いかけてはっと口を噤んだブルー。
あまり彼の前でキースのことを言うのはよくないかと思ったからなのだが、そんな自分の心情を青年はすっかり見透かしていたようで、目があった新緑の瞳は優しく細められていた。
本当に、思い出してよかったですね。
言葉には出さなかったが、青年の笑顔はそうブルーに温かく語りかけていた。
だからブルーもまた、声には出さずに彼にありがとうを告げた。
結局恋人にはなれず、教師と生徒にもなりきれなかった。
でも彼と出会えてよかった、とブルーは心から思ったのだった。
「それより、一体どこの大学に決まったんだい?」
「それは秘密です。無謀とか言ってる酷い先生には教えられないで~す」
「だからそれは僕じゃなくてキース先生が・・!」
ブルーの言葉を笑い飛ばすと、ジョミーはあっかんべをして駆けて行った。
「またね」も「さよなら」もない卒業の挨拶。
それもまた彼らしいな、とブルーは微笑んだ。
「俺が何だって?」
怪訝そうな響きのする方を見上げてみると、いつの間にかキースが隣に立っていた。
「いい先生だねって、噂してた」
「嘘つけ」
そっぽを向いたキースに、ブルーはくすくす笑った。
実際、キースはいい先生だと思う。
だって
「キース、ボタン全滅してるね。モテモテじゃないか」
「全く・・こんなもの欲しがってどうするんだあいつら。タイピンまで盗って行ったぞ」
3年生の担任だったキース。
普段ならかっちりとした彼のスーツ姿だが、今は卒業生にジャケットのボタンを全て奪われ、見るも無残な状態となっていた。
さらに今の今まで写真撮影の嵐に巻き込まれていたようで、生徒にもみくちゃにされたストレスを顔全面に出していた。
その様子にブルーが吹き出しそうになっていると、キースは思い出したようにぽつりとつぶやいた。
「・・教育大学だ」
「え?」
「ジョミーの進路先は、教育大学だ」
「・・・」
「あいつは、2年の頃からそれ一本で勉強してた」
「・・・そう」
「お前には絶対に言うなと念を押されていたがな」
まさか本当に受かるとは思わなかった、などと余計な一言を交えながら、キースはブルーの肩を叩いた。
「あいつは俺たちよりずっと強い。・・いい教師になるだろうさ」
「・・そうだね。きっと・・」
ジョミーとの様々な思い出がブルーの脳裏をよぎって掠めていった。
彼の選んだ道の先に自分がいる。
教師として、こんなに嬉しいことはない。
今度再び出会う時は、彼の指標になれるように、自信を持って彼を導ける自分でありたい。
青年の飛び立った跡を、ブルーは穏やかな気持ちで見つめていた。
自分もようやく過去から卒業できた。
そんな気がした。