実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
「やあ、おはよう」
「?・・ああ」
明くる日。買い出しに出かけようとしていたブルーが扉を開けると、外出しようとしていた矢先のキースと鉢合わせした。
「キースも買い物?」
「ああ、食糧調達」
「奇遇だね。僕もなんだ」
「お前はレトルトと酒の補充じゃないのか?」
「ひっどいなぁ、僕だって最近は自炊を心がけてるんだよ。そうだ、今日僕の手料理食べさせてあげようか」
「・・いや、当分遠慮しておく」
「何で?」
「悪い予感しかしない」
並んでマンションを出ると、ブルーはふと気づいてキースの部屋のあたりを見上げた。
「キース、あれからお姉さん泊まったの?」
「いや、すぐに帰った」
「そっか・・今日もいるなら、また君の小さい頃の話聞きたかったのにな」
「・・あの女、お前に何を話したんだ?」
「ん~・・秘密」
「・・」
「それより、お姉さんの用事ってなんだったの?」
「・・・大したことじゃない」
「・・そう」
予想通り、キースは何も教えてはくれない。
家の中の込み入った話なのかもしれない・・そう自分に言い聞かせると、ブルーは気を取り直して別の話題を振ってみた。
「そうだ、来週末・・明けておいてよね」
「来週末・・?」
「あ・・都合悪い?」
「・・いや・・大丈夫だが」
その割には目が泳いでいるような気がしないでもないが・・まあいいかとブルーは話を進めた。
「キース、僕らも夏休みしようよ」
「?」
「海か山か悩んだんだけどね、やっぱり夏と言えば海かなって思ってさ。場所は決めてないんだけど、近場で・・海の見える宿で一泊・・なんてどうかなーって・・」
「・・・」
「・・駄目・・かな?」
「・・いいんじゃないか」
「!本当に!?」
「ああ・・」
渋るだろうと思っていたキースがOKしてくれるとは、正直あまり期待していなかっただけに、ブルーはこれ以上ないくらいに嬉しかった。
いつも互いの仕事の都合もあり、二人揃ってどこかに行くということがまず皆無だったため、喜びもひとしおである。
「じゃあ、僕が場所決めていい?宿も」
「ああ、お前に任せる」
「楽しみだね、来週」
「おい、腕を組むな、馬鹿」
「えへへ」
仕方のない奴だと呆れたように微笑むキース。
その心の内の葛藤など、ブルーは知る由もなかった。
キースの元に、絶縁状態だった祖母から連絡があったのはその日の夜のことだった。
『元気そうですね、キース』
「何の用だ?」
『随分と嫌われてしまったものですね・・』
「・・・」
声色だけ聞けば、家を出た時より少し弱っただろうか・・。
幼い頃に両親が離婚。その後片親で自分や姉を育ててくれた父が亡くなったため、キースにとってこの老婆は親代わりのような存在であった。キースとて彼女に情が全くないわけではないのだが・・・どうしても従えない部分はある。
『来週の土曜、久しぶりに皆で食事をしようと思いましてね』
「食事・・?」
『私もそう長くない身。私の死後、フィシスやあなたに残すべきもののお話など、親族を集めて今のうちにしておこうということです』
「・・・」
・・・なるほど、そういう手でくるのか。
親族の食事会だと聞かされて行った先が、自分の見合いの席。つまりはそういう騙し討ちである。フィシスから事前に話を聞かされていなければ、何も知らずに赴いていただろう。
祖母は特にキースの返事など聞かず、迎えに車をよこすと言って一方的に電話を切った。
自分の死後の相続や遺産をちらつかせれば、こちらがのこのこ顔を出すとでも思っているのだ。そういうところが、キースが彼女を嫌う一番の理由だった。
『楽しみだね、来週』
ブルーの笑顔がキースの脳裏をかすめて消えた。