実習生が来た! |
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実習生セルジュ・マツカを加えた4角関係(?) |
キース先生の事情 |
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キース先生に振って湧いたお見合い話 |
さよならお隣さん |
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キース先生に振って湧いた異動話 |
「早く早く!遅刻しちゃう」
「待ってよ~」
「こら、危ないから廊下は走らない」
「「はーい」」
移動教室だろうか、昼休みを終えてばたばたと眼前を駆けていく女子生徒たちに注意すると、ブルーは窓の外を見つめた。
もうすぐこの学園に来て二度目の桜の季節を迎える。
その頃には隣に彼がいない生活が当たり前になっているのだろうか・・。
キースの異動。
ブルーはずっと前から、近いうちにこんな日がくるのではと思っていた。
若手の教師は比較的異動が多く、何年にもわたり同じ学園に留まることこそ稀だ。それにキースの様な有能な若手教師ならば、他校に行っても適応させやすい。
キース自身のキャリアアップにも繋がる今回の異動に、ブルーは素直に彼を祝福していた。
例え環境は変わっても、自分たちは繋がっている。そういう自信があった。
マンションを引っ越すというキースの言葉を聞くまでは。
何か真意があってのことなのだろうか、ブルーにはわからなかった。
ただ、何気なく告げられたあの一言に、ブルーは自分たちを繋ぐものが、根底から覆された気がしたのだった。
別れると言っているわけではないのだから、離れていても、付き合いを続ければいいだけの話だ。でも・・・。
(・・・隣町といっても、そんなに時間がかかるわけじゃないのに・・。それに・・部屋が狭いなんて、とってつけたみたいにさ・・・)
(どうして今なんだよ・・?)
ずっと隣にいるものだと思っていた。
ずっと隣にいられるものだと思っていた。
そういう感覚は甘いのだろうか。
溜息を溢しながら、次の教室へと向かっていると、会談の踊り場で先程の女子生徒たちが騒いでいた。どうやら忘れ物をしたようで、そのうちの一人が慌てて階段を駆け下りてきた。
「そんなに慌てて。足元、気をつけるんだよ」
階段を上るブルーが声をかけるや否や、女子生徒はブルーの目の前で足を滑らせてしまった。
「きゃっ」
「!あぶない・・!」
彼女を受け止めたブルーだったが、そのはずみで自身もまた段差に足をとられる形になった。
手に抱えていた答案の束が舞い散る。
少女を抱えたブルーの体が、まっすぐに階段下へと引き寄せられる。
世界が逆さまになると同時、白と黒の、映画のコマ送りの様な景色がゆるやかに流れていくのが、ブルーにはわかった。
命の危険を感じると、人の脳というのは情報を迅速に送るべく一切の色をなくすことがあるという。
これがそうなのだろうか。
ああ、こんなことならもっと日ごろから鍛えておけばよかった。
きっとキースなら、こんなヘマはしないのだろうな・・。
(キース・・)
スローモーションの世界でぼんやりとそんなことを考えながら、ブルーは腕の中の生徒だけは守ろうと思った。
ごつりと鈍い音がして、ブルーの意識はそこで途切れた。
女子生徒の悲鳴が遠くで聞こえた気がした。