Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
この男は危険だ。
執拗に鳴り響く胸のシグナルを押し殺し、キースは腕に抱えていた人質の子供を空中高く放り投げた。
「受け取れ・・!」
「・・・!!」
先刻まで、突き刺すように自分を見ていた紅い瞳が鮮やかに見開かれる。 反射のように飛び出した男を尻目に、キースもまた、もう片方の腕に抱えていた人質の女ごと疾走した。
「ブルー・・!」
女の叫びに構わず、壁沿いを駆け抜けながら非常用ハッチのボタンを押し、キースは目的のギブリに辿り着く。少し遅れて聞こえてきた鈍い摩擦音に振り返れば、なんとか幼いミュウをその腕に収めたソルジャーブルーと目が合った。
蔑むようなその視線に、キースの中でシグナルが再び鳴る。
恐れ、か
いや、違う。
鮮烈な紅と不可解な感情に浸ったのは一瞬のこと。続けざまに搭乗口の開閉ボタンを押したキース。
しかし、反応はまったく予想外のところから来た。
低い電子音とともに視界が一気に暗転した。
「なに・・・?」
一瞬、サイオン能力やその類のものを仕掛けられたのかと思ったが、そうではない。 格納庫全体の照明がダウンしたのだ。
全くふざけている。
ここに来る前に見たミュウたちの慌てた様子が目に浮かぶ。他の区画でなにやら問題を起こしているようだった。 だからこそ、自分は容易にここまで来られたのだが・・・恐らく、そのなんらかのトラブルの影響で配線が飛んでしまったのだろう。
大きく動揺などしなかったものの、唐突に漆黒の闇に落とされたキースは、自然と腕に込めた力を弱めてしまっていたようで― ―ふいに、拘束していたはずのミュウの女がするりと離れていった。
「・・・・・・!?」
「っ・・・逃がすか!」
「いや・・!」
暗闇にまだ目が慣れないキースはがむしゃらに手を伸ばした。一方のフィシスは、元より光を映さない瞳が有利に働いたのか、 伸ばされた腕を振り切り、それきり気配を消してしまった。
「・・・・!」
女への執着などない。ただ、人質がいなければ・・・・・・いくらこの艦内が混乱していようとも、宇宙に飛び出た瞬間、船ごと撃墜されてしまう。
より深くなる闇の中、キースは逃げた彼女の気配を追った。
瞳は慣れてきたものの、照明代わりになるものなど皆無のこの格納庫では、見えないのも同じだった。
歩みを進めていくと、ふいに何かに触れた気がした。闇雲にそれに手を伸ばすと、予想通りの感触が返ってきた。
掴んだのは何者かのか細い手首。
間違いない、捕まえた。
キースはそう確信し、口角を上げた。
一瞬たじろいだ相手に構わず、捕らえた腕を強引に引っ張ると、先刻から口を開けて待っていたギブリに乗り込んだのだった。
格納庫の電力が回復したのは、ギブリが轟音で飛び立った直後だった。その場に残されたフィシスは、呆然と開け放たれたハッチを見つめていた。
「あの人は・・・わたしを連れ去るつもりではなかったのかしら・・?」
急な停電で、するりとキースの腕を逃れた彼女。
彼が自分を追っていた気配はあったものの、幸運にも再びその腕を捕まれることはなく、フィシスは格納庫の隅にたたずんでいた。
なにか妙な違和感を覚え、彼女は周囲に人の気配を捜した。ふと数メートル先に微力なサイオンを感じ、その場所に手を伸ばす。 幼児特有の柔らかな、しかし冷たい肌の感触に、それが時を凍らせたトォニィだと認識した。
おかしい。
格納庫には、この子の気配しか感じられない。
「・・・ブルー?」
先程まで彼を抱えていたはずの青年の姿が、そこにはなかった。
一方。
まだほの暗い操縦席に駆け込んだキースは、エンジンを始動させたあと、瞬時に船を自動操縦に切り替えた。
なすべき事を終えた彼は、そうしてようやく手を引いていた者の姿をかえりみた。
そして硬直した。
強く握った右手は、相変わらず線が細い手首を捕らえていた。それは間違いない。
しかし、眼前にいたのはあの長い金糸を持つミュウの女・・・・・・・・ではなく、銀の髪と紅い瞳を持つミュウの始祖であった。
あちらはあちらで、捕まれた腕とキースの顔を見比べながら、二つのルビーに困惑の色を浮かべていた。
「・・・何故貴様がここにいる?」
「・・君が連れてきたんだろう」
見つめ合ったまま暫しの沈黙が訪れ、彼らは互いに思った。
(・・・間違えたか)
(・・・間違えたな)