Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
「これでシャングリラ王国は私のものです・・!」
スモークとともに登場した魔女・フィシスに、ミュウの女神の面影は微塵もなかった。 彼女は普段着用している淡い色のドレスから一変、黒いドレスに、黒い羽のついたファーをまとっており、 いかにも魔女ですといった風貌だった。 さらに、意外な演技の上手さもまた、その魔女ぶりに拍車をかけた。
(うふふ・・・今日までアルフレート相手に読み合わせをした解がありましたわ)
(イメージのよくない役なのが残念ですけれど。みなの視線を集めて、舞台に立つというのはあまり悪い気はしませんね)
内心、スポットライトを浴びる快感を覚えてしまったミュウの女神フィシス。王座にかけていた彼女が、ふとそばにあった大きな鏡の前に歩いていった。
「鏡の精、出てきなさい」
「お呼びですか、フィシス様」
すると鏡の中から、鏡の精・アルフレートが現れた。正確には、大道具の鏡にアルフレートの思念体が投影されたのなのだが。
『フィシスは、とても美にこだわる魔女でした。そのため、鏡の精に世界で一番美しいのはだれか?と問いかけることが日課になっていました』
「鏡よ、この世で一番美しいのはだれです?」
「フィシス様。それは・・・・・・・・・・・・フィシス様です」
「・・・・なんですか、その間は?」
「・・・・・・申し訳ございません、わたくし、今までよかれと思い、嘘をついておりました」
「嘘・・・ですって・・?」
「はい・・・・・実はここ16年ほど前から・・・」
言葉に詰まる鏡の精に、思わず詰め寄る魔女フィシス。
「では、もう一度聞きます。この世で一番美しいのは誰です・・?」
「・・・フィシス様、それは・・男装の麗人、ブルー姫です」
「・・!」
「そのブルー姫はどこにいるのです・・?」
「はい、この城の近郊の森で、小人たちとともに生活しているようですが・・しかしフィシス様、わたくし個人としてはフィシス様が一番お美し・・・!」
がしゃん。
その瞬間、大鏡は無残にも粉々に砕け散った。 どさくさに紛れて告白した鏡の精めがけて、魔女の拳が炸裂したのだった。
「見ていなさい・・・ブルー姫・・」
不吉を誘う効果音とともに、真っ赤に染まり暗転していく舞台。 色んな意味で恐怖を感じた客席の思念を受け、監督と脚本家兼・ナレーターは舞台裏で重い口を開いたのだった。
「エラ、鏡を割るシーンなんて・・・あったっけ??」
「いえ・・。アルフレートの台詞からお二人とも、全部アドリブです」
場面は変わり、再び7人の小人たちの小屋の前。
小人Bへの怒りもようやく冷めつつあったジョミーは、再びのブルーの出番を心待ちにしていた。
すると、ここは本来の童話通り。
舞台下座から、黒いフードにすっぽり身を隠した魔女フィシスが現れた。
手に持った籠には、いくつかの艶のいいリンゴが入れられている。
(確か・・魔女が白雪姫に毒リンゴを売りに来るんだっけ。ブルー・・ちゃんと演技できるのかなぁ・・)
冒頭の一言、二言の出番とは一味違う、恐らく劇中で最も白雪姫の台詞が多い場面だ。だが、客席のジョミーの心配をよそに、ブルー姫は饒舌だった。
「美しいお嬢さん、リンゴはいりませんか?」
「リンゴ・・?おいしそうだね、いただくよ。リオが帰ったら剥いてもらおう」
「いえ、今すぐにお食べになられた方が、風味がいいと思いますよ」
「今かい?しょうがないな・・・なら、君が剥いてくれないかな。僕は不器用なんだ」
「・・・・・・・」
「ああ、ウサギの形にしてくれ」
『少し我儘なブルー姫に、魔女は仕方なく持っていた果物ナイフでウサギリンゴを作ってあげました』
ナレーションの入るあたり、脚本に書かれてあることなのだろう。しかし、ブルー姫の要求はエスカレートした。
「ど、どうぞ」
「・・手づかみなのか?フォークがほしいな」
「・・・・・・」
なんとか作ったウサギリンゴを差し出した魔女が、その言葉に思わず硬直する。ジョミーもまた、引きつった笑みを浮かべたのだった。
(・・・・・演技っていうより)
(これ・・・)
(・・・・・素じゃない?)
案の定、舞台上の二人はひそひそとこんな会話をしていた。
(ソルジャー、そのような台詞はありませんよ)
(しかしフィシス、手が汚れてしまうよ。君はすぐに袖に下がるからいいが、僕はこれから汚れた手のまま寝てしまうんだよ)
(いい大人なのですから、それぐらい我慢なさって)
渋々といった様子で、ウサギリンゴを手にとって食べるブルー姫。
一口食べきったところで「うっ」と小さく唸ると、リンゴを手放し、その場にどさりと倒れてしまった。
しかし倒れた瞬間、打ち所が悪かったのか彼から「いた、」と声が漏れた。
観客から気遣うような思念と、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
ジョミーは大きなため息のあと、思わず顔に手を当てた。
(ああもう、見ているこっちが恥ずかしいよ・・・・・)
一方、舞台上の二人。
(ブルー、いけませんわ。ここは静かに倒れなくては)
(す、すまないフィシス。・・・・・は!?・・・僕の右耳の補聴器を知らないか?どうやら先ほどの衝撃で外れて飛んでしまったらしい)
(さ、さあ・・近くにはありませんけれど・・それより私、次の台詞がありますので)
フィシスはやんわりブルーを無視すると、自分の仕事に戻った。
「「これで世界一美しいのは・・わたくしただ一人・・!」」
舞台は再び赤く染まり、緩やかに暗転した。 その間、裏方のミュウ全員がブルーの補聴器を必死になって探したのは言うまでもないことだった。