Memory of a pain |
---|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
1 2 3 |
同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
---|
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
---|
1 2 3 4 5 |
アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
---|
1 2 3 4 5 6 7 |
キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
---|
前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
---|
1 2 3 4 5 |
アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
ブルー。
お前に会いたい。
「少し前に出て行ったんだよ。生徒会室じゃないかな」
「・・そう・・ですか」
真っ先に向かった三年の教室に、ブルーの姿はなかった。
彼のクラスメイトに礼を言うと、キースは助言通り生徒会室へと急いだ。
『二人してこの世の終わりみたいな顔してたから』
直前にブルーにも会ったという、ジョミーの言葉が蘇った。
ブルーを傷つけた。
あの日、自分が言い放った言葉が原因だとはわかっていた。 記憶を取り戻した衝動で、いわれない言葉を彼にぶつけた。
謝りたい。
でもそれだけじゃない。
漠然と、それとは別にもっと伝えたいことがあると思う。
だが心に伝えたいものはあっても、どう形にすればいいのかがわからない。
ただ、会いたかった。
しかし、辿り着いた生徒会室で会長の椅子は空だった。 室内では、執行部の生徒が慌ただしく動いていた。
「失礼します。あの・・」
「君、丁度いい!外で会長を見なかった?!」
「・・いえ」
こちらから問いかけようとしていた事を、逆に聞かれてしまった。 常とは違う室内の様子にキースは役員の生徒に問い返した。
「どうかしたんですか?」
「それが、さっき会長が来られたんだけど・・」
やはりブルーはここにいたのだ。
「急に・・生徒会長を辞めるって言いだしたんだ。まだ任期は半年以上あるのに・・」
「・・・」
『会長選を前倒しするか、副会長に兼任してもらうかは放課後話し合いをしよう』
それだけ告げると、ブルーは部屋を出て行ったのだと言う。
なんとか考え直してくれないだろうかと頭を抱えた男子生徒は、このことは外にはまだ漏らさないでくれと念を押してきた。
キースは当惑する生徒会メンバーをよそに、生徒会室を出て行った。
職務を半ばで放棄するなど、ブルーの性格を思えば考えられないことだ。 だが、彼が何をしたいのかキースはすぐにわかった。
キースとの接点を断つ。
学園を辞めることができないなら、せめてとでも考えたのだろう。
昼休みは残り僅かだ。
先ほどの話では、放課後になればブルーが生徒会室に来ることはわかった。
闇雲に彼を探すより、放課後に出直す方が賢明とも思える。
だが、それでは駄目だと心が訴えた。
今でなくてはいけない。
今、ブルーに会わなければいけないような気がする。
もう教室に戻って行った可能性は高い。
けれどもう一つだけ、キースはブルーの向かう先に心当たりがあった。
キースは駆けた。
ブルーと、初めて出会ったあの場所へ。
階段を駆け上がると、屋上へと続く扉を勢い良く開けた。 日の光の眩しさに目がくらんだ次の瞬間、キースはようやく見つけた。
さらさらと銀糸が風に揺れていた。
大きく響いた扉の音に、ブルーは振り返らなかった。
「ブルー・・」
立ち尽くすキースを振り返らないまま、ブルーはぽつりと呟いた。
「・・週が明ければ、僕は君の前から忽然と姿を消す・・・」
「・・」
「本当はそうしたかったんだけど、学校を辞めるわけにはいかないから・・」
振り返ったブルーが微笑んだ。
「今の僕にはね、両親がいるんだ。二人とも、優しくてとても温かい人たちなんだ。急に学校を辞めるなんて言って、困らせるわけにはいかない」
僕は平気だよ。
その笑顔は、必死に語ろうとしていた。
「・・でも・・安心していい。僕はあと1年で卒業するし・・もう君の前には・・現れないようにするから」
道を間違えた。
本当は別の道に行くべきだったのに、君と同じ方向へ行ってしまった。
だから引き返して、正しい道に行かなくては。
僕たちは、決して同じ道を歩いてはいけなかったのだから。
キースの耳に、ブルーのそんな声が聞こえた気がした。
「ごめんね」
「何故・・お前が謝るんだ・・?」
「僕がいると、キースが苦しむ。実際・・僕はキースを苦しめた」
「それは・・違う」
苦しんでいた。
いや、今でも苦しい。
だが、ブルーがいたからそうなったわけじゃない。
全て自分が招いた。
キース自身が、キースを苦しめた。
「俺は自分の弱さを・・お前に当たった。お前のせいにしようとした・・」
「キース・・」
「・・すまない」
キースの謝罪に、ブルーは違うと首を横に振った。
「・・・・僕はね・・キース。・・最初は君に、思い出して欲しいと思っていたんだ。記憶を取り戻した上で、あの頃と違う関係が気づけたらって・・君の気持も何一つ考えずに、夢ばかり見てた・・」
「夢・・?」
夢から覚めるように。
ジョミーもまた、記憶を取り戻した時のことを同様の表現で語っていた。
彼の言葉を聞いて、キースの中で何かがずっと引っかかっていた。
記憶の目覚めは、確かに真の現実の始まりかもしれない。
だが、それまでの自分がまるで夢を見ていたかのようだとは思わない。
「でも君と過ごすうちに、僕は夢と現実の区別がつかなくなったんだ。いつの間にか、僕はその夢から覚めるのが怖くなった」
「・・俺といた時間は、夢だったと?」
「・・そうだよ。本当は・・最初から・・いつかは覚めるってわかってた」
キースの見た悪夢。
過去の記憶。
確かに、自分たちにはあれこそが現実なのかもしれない。
だが、現実がそれだけではないこともキースは知っている。
ブルーに出会った。
ブルーに惹かれた。
決して夢なんかじゃない。
「記憶なんて・・ただのきっかけにすぎなかったんだ・・」
屋上を取り囲む柵を強く握りしめ、ブルーは顔を背けた。
震える声色はブルーの心そのものに思えた。
キースはブルーの傍へと歩いた。
「目が覚めたら・・僕は僕で・・。君は君で・・・何も変わらない」
「違う」
「違わない・!」
「違う!!」
「っ・・何が違うって言うんだ?!・・何一つ僕らは変わらない・・変わらなかったじゃないか・・!!」
次の瞬間。
キースは背を向けたブルーの細い体を、抱きしめていた。
「・・キー・・ス・・?」
抱きすくめられたブルーが、どんな顔をしているのかは見えなかった。
ブルーは振り向かない。
だが、包んだ身体が少なからず動揺しているのはわかった。
「あれから、ずっと・・・考えてた」
「・・・」
「俺自身のこと・・お前のこと・・昔のこと・・」
腕の中のブルーは、キースから逃れる素振りもなく、ただ静かに言葉を聞いていた。
「一つだけわかった・・」
「・・多分俺は・・お前に許してほしいわけじゃないんだ・・」
償い方を知らないから、責められると思うと怖かった。
償ってもいないなのに、許されることも望まない。
「だったら何が望みなのか考えた。その時・・一番にお前の顔が浮かんだ」
今のキースには、それが現実だった。
「だから俺は・・例えお前が俺を憎もうとも、許そうとも・・・この手を離すつもりはない」
「・・・キース・・」
「・・お前が離せと言うまで、離さない」
抱きしめる腕に力を込めたのと、キースの手にブルーが触れたのとは同時だった。
「わかってない・・」
「キースは・・何にもわかってない・・」
「・・?」
「僕が・・・いつ、君に言った・・?」
この手を離せと、ブルーは言わない。
本当はずっと、この手を掴んでくれる日を待っていた。
見上げてくる瞳が雫を溢して訴えた。
「・・・言わないよ」
「・・ブルー・・・」
「・・・言う・・もんか・・」
重ねられた手を、もう片方の手で捕まえた。
解けないように、キースはブルーのその手をしっかりと握りしめた。
一夜明け、キースが生徒会室を訪れると、室内はいつもの平穏を取り戻していた。
ブルーは結局辞意を撤回し、生徒会長の任期を全うすることにしたらしい。
兼任を免れた副会長が泣いて喜んでいた。
「・・飽きないな」
キースは屋上へ行くと、給水塔から覗く足の持ち主に声をかけた。
「そっちこそ」
それまで寝転がっていたブルーが、おもむろに起き上った。
「痛みが消えた?」
「うん」
ブルーの隣に腰かけると、キースは確かめるように彼の赤い瞳を見つめた。
ブルーの右目。
かつてキースが撃った右目。
キースはあの雨の日を境に、記憶を夢見ることはなくなっていた。 ブルーもまたあの日以降、右目に痛みは現れないのだという。
「・・あれ・・本当に単なるストレスだったみたいなんだ。・・僕、一人であれこれ考えて・・誰にも自分の記憶のこと言えなかったから・・。そういうのが全部、ここにきちゃったんじゃないかな」
「・・そうか」
キースが夢を見なくなっても、ブルーの右目の痛みが消えても、きっと二人の痛みの記憶は消えることはないのだろう。
でも、それでもいいとキースは思う。
今更向き合うことも、ましてや逃げることもできないから。
この痛みを抱えてたままで、これからもずっと。
「・・僕は物心ついた時から、多くのことを覚えていた。だからかな・・皆は前を向いて生きているのに、ずっと自分だけが後ろを向いて生きているような気がしてた。誰も持たないもう一つの記憶があることで・・この宇宙の中で僕は一人きりみたいに思えたときもあった・・」
「・・・」
「・・でも、今はキースがいるから」
例えどんな記憶でも、どんな過去でも。
傍にいてくれることが、打ち明けられることが今は何より嬉しいよとブルーは微笑んだ。
「ブルー・・そのことなんだがな・・」
「ん?」
もう一人、その感情を分かち合える人間がいる。
そう言いかけて、キースは少し前に教室で話をした友人の顔を思い浮かべた。
「・・いや、何でもない」
「?なんだよ・・気になるじゃないか」
「なら気にするな」
「~~??・・キース、僕に何か隠してる?」
「何も隠してない」
「嘘だ」
引き下がらないブルーに、キースが顔を背ける。
そんなキースを追って、ブルーが顔を覗き込んだ。
「教えて」
「知らんな」
「ふ~ん・・」
不満げなブルーが、いいよとそっぽを向いた。
「教えてくれないと・・・」
「と・・?」
「キスするから」
羽のような口づけが、キースへと落とされた。
ねえ、キース。
右目の痛みがなくなって、少し寂しいって言ったら君は呆れるかな。
僕は欲張りなんだ。
満ち足りていても、もっともっと君を感じていたくなる。
だから、どんなちっぽけな欠片でも、僕は刻んでいきたいと思う。
今度は痛みではなく、君との今を。
Fin