Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
学校生活にも、生徒会の仕事にも慣れて半年が経った。
委員会の呼び出しは頻繁で、僕はその度にあの人を知った。
でも、知れば知るほどあの人は遠くにいるような気がした。
当初、ブルーは僕の一挙一動に過敏だった。
何気ない会話に傷ついた顔をしたかと思えば、また何気ない会話で喜んだ。
そんな時のブルーは決まって、僕の反応に一喜一憂しているというよりは、僕を通して別の人間を見ているように見えた。
ブルーを見つめながら、僕もまた、日常に違和感を感じ始めていた。
目の前に深い霧がかかっている。
ずっと前から霧はそこにあったのに、ブルーに出会ってから初めて気付かされた。
この世界が、今ここにいる僕が、まるで偽物のように思えてきたんだ。
そしてその霧は唐突に晴れた。
ジョミーは自室にいた。
机の上に置いた目覚ましの秒針が、かちかちと音を立てていた。
ジョミーは規則的に動く針の先をぼんやりと見つめていた。
そろそろ用意をしないといけない時間だ。
今日は放課後に委員会がある。
今日は長老たちに訓練をつけてもらうんだっけ。
・・あれ?
嫌だな。
文化祭が近いから、また雑用に忙しくなりそうだ。
眠い講義も嫌だけど、訓練は訓練でゼルが怒りっぽいんだよな。
???
力のコントロールは相変わらず上手くいかないし、怒られてばかりだけど・・・でもいつかきっと、あなたを地球へ連れて行くよ。
ブルー。
目覚ましの音がけたたましく鳴り響いた。
ジョミーはすかさず飛び起きた。
「僕・・・」
ずっと夢を見ていた。
どこまでが夢で、どこからが現実だったのかわからない夢だった。
「・・ブルー・・」
学生服の彼ではなく、藤色のマントを纏った戦士の姿が脳裏に浮かんだ。
「・・そうだ、僕・・あなたとの約束を・・」
果たしたんだ。
でも、あなたを連れて行くことはできなかった。
ジョミーは窓を開けた。
各部屋の換気に取り付けられた小さな窓から校舎と夜明けが見えた。
僕は何をしていたんだろう?
あなたとまた、この地球で出会えたのに。
あなたは僕に、また会えたねと言ってくれたのに。
ジョミーは逸る気持ちを抑えて、サッカーグランドへと向かった。
そうだよ、ここは地球。
地球の学校で、僕は学生なんだ。
ブルーは僕の一個上で、この学園の生徒会長。
ジョミーはなんだか変な感じだと笑いながら、グランドまでの道のりを駆け抜けた。
見るもの全てが輝いて見えた。
やっと思い出したんだ。
今までごめんね。
また会えたね。
早くブルーに告げたかった。
朝練を終えたジョミーは、逸る気持ちを抑えて校舎へと向かった。
いつもの授業風景が懐かしくもあり、新鮮でもある。
午前の授業がようやく終わると、ジョミーは今にも溢れてしまいそうな歓喜と高揚を胸に生徒会室を訪れた。
「ブルー・・!」
「?やあ、ジョミー。そんなに慌てて、一体どうしたんだい?」
会長席で昼食を取っていたブルーが、飛び込んできたジョミーをくすりと笑った。
室内にいた執行部の生徒の視線がジョミーに集中した。
「えっ・・ええと・・」
なんて言えばいいのかな・・。
久しぶり!
思い出したんだ!
・・なんか違うな。
そんなに軽く言っちゃっていいのかな。
ていうか、こんな人が大勢いる場所で言うことじゃないよな。
うーんと・・。
いざブルーを前にすると、どう告げていいものか途端に迷った。 視線を泳がせたジョミーは、ブルーの足元にいる物体とふいに目があった。
「!?・・」
「あ、駄目だよ出てきちゃ」
「な・・・何・・それ???」
「何って?・・見てわかるだろ、猫だよ」
真っ黒の痩せた子猫を抱えると、ブルーは彼か彼女かわからないそれを膝に乗せた。
「そ・・それはわかりますけど・・何で生徒会室に猫なんか連れ込んでるんですか・・?」
「そう、それなんだよ。そこでちょうど君に仕事を頼もうかと思っていたところだったんだ」
まさか君から出向いてくれるとは思わなかった、とブルーは子猫を撫でながら話を始めた。
ブルーはジョミーがここに来た理由を問うことなど、すっかり忘れているようだった。
相変わらずだ、とジョミーは嬉しくなる。
初めてここで出会ったブルーは、僕になんて言った・・?
『また、君に会えるなんて・・』
ブルーは全部覚えていたんだ。
僕が思い出す以前も、ずっと。
何を焦る必要がある?
そうだよ、今でなくたっていい。
いつだって、言う機会はある。
ブルーも僕も、ここにいるんだから。
「捨て猫を拾って、寮で密かに育てていた女子生徒がいてね。鳴き声に気づいた隣の部屋の生徒が生徒会の書記の子だったんだ。見過ごすわけにもいかないし、かといって教師に報告するとすぐに保健所に連絡をとってしまうだろうし・・ということでね。とりあえず僕が預かることにしたわけ」
「だからって・・匿うにも生徒会室はまずいでしょう」
「そこで幅広い君の人脈を利用・・いや、使わせてもらうべきだと思っていたところだったんだ」
「はあ・・」
「ということで、ジョミー。この子の飼い主を探してくれ」
「これも・・・生徒会の仕事ですか?」
「ううん、僕個人のお願い」
そう言われれば、断る選択肢などジョミーにはなかった。
サッカー部と委員会関係、あとはクラスメイトと他のクラスの生徒にもあたってみた。
飼いたいと言う生徒はかなりいたが、家族の許可を得た上でそれでも面倒をみたいと言う生徒を見つけるには数日を要した。
ジョミーの努力の甲斐あり、結局同じ学年の女子生徒が子猫の飼い主に決まった。
「ジョミー、本当にありがとう。君のお陰だよ」
「いいですよ、別に。今度、学食で一番豪華なランチ奢ってくれれば。あとおやつに焼きそばパンも」
「焼きそばパン・・おやつなの?」
カレーパンもです、とジョミーが付け加えるとブルーは笑った。
「よかったね、ほら、君もジョミーにお礼を言わないと」
黒猫はきょろきょろと辺りを見回しては、よちよち歩いたり虫をつついたりと一人で遊んでいた。
校庭のベンチにかけた二人は、飼い主となった女子生徒を待っていた。
テニス部に所属している彼女の部活がもうすぐ終わる。
その頃にこの子猫は引き渡す約束だった。
「ああ・・名残惜しいな。ジョミー、やっぱり僕らで飼おうか。寮でこっそり」
「何言ってるんですか。本末転倒じゃないですか」
「日替わりで互いの部屋で飼えば可能かもしれないよ。実は名前も決めてたんだよ」
「無理です。絶対ばれます。・・一応聞きますけど・・何なんですか?」
「クロ」
「・・・まんまじゃないですか」
「じゃあ君ならどう名づけるんだ?」
「・・クロ」
「君こそまんまじゃないか。真似しないでくれ」
「ていうか、それしか思いつかないんですよ」
くすくすと二人は笑い合った。
不思議な気持ちだった。
かつての僕はずっと、あなたの後ろ姿を見つめてた。
今こうして、あなたは隣に座っている。
僕が思い出したと告げたら、この距離はどうなるのかな。
子猫の飼い主を捜しながら、僕は「また会えたね」の一言をいつどう告げようかそわそわしていた。
いつでも言えると思っていた。
それは今も変わらない。
でも、僕はやめようと思う。
ブルーは、最初は記憶の中の僕を見ていたんだろう。
だから近くにいるのに、遠くにいるような気がしてた。
目が合ったのに、他の誰かを見ているように見えた。
でも今は、ちゃんと目と目が合う。
ブルーは、ブルーの記憶の中にいる僕を探すのをやめたんだ。
少なくとも、自分でそう決めたんだ。
僕はあなたの決意を尊重したい。
だから僕も、僕の記憶の中にあなたを探すのはやめにするよ。
それに、今のあなたはとってもいい顔をしているから。
そんなあなたに余計な枷を作りたくない。
何にも考えず、何にも囚われずに今を生きてよ。
僕は変わらず、あなたを見てるから。
だから、このままでいいよね。
ただの学生のあなたも。
その隣にいるただの僕も。
ジョミーの密かな決意から、また半年が経とうとしていた。
「最初の番号は『3』だ」
力いっぱい宣言したブルーに、ジョミーは溜息をついた。
「・・・で、あとは?」
「うん、先生から聞き出せたのはそれだけだよ」
「何?『僕に不可能はない』とか言ったくせに、たった一桁??」
「これで1000通りの無謀な挑戦が、100通りの可能な挑戦になったんじゃないか」
「どっちにしたって無茶だよ・・ていうか、誰が試すの100回?」
勿論君だ、と微笑むブルーに、ジョミーはもう一度溜息をついた。
『ねぇ、ジョミー。屋上の給水塔の上、あそこは見晴らしがよくて、読書や昼寝をするのにはもってこいだと思わないかい?』
このブルーの一言がそもそものきっかけだった。
屋上には生徒は侵入できない。
扉には立ち入り出来ないように南京錠がかけられている。
ただし貯水タンクの点検で、月に1度教師が業者をともなって鍵を開ける日がある。
逆に言えば、その時以外は屋上には誰も近づかない。
南京錠の番号さえわかれば、自分たちの楽園にならないかな。
一見幼稚とも思えるブルーの発案に、ジョミーは乗った。
彼らしくないと思いながらも、らしいと思う。
短い三学期が、もうすぐ終わる。
ブルーは三年に、そしてジョミーは二年になる。
まだ肌寒い屋上に足を踏み入れた二人は、給水塔の上に上った。 南京錠の残りの番号は、扉を開ける教師の後方から気付かれぬようにジョミーがのぞき見て手に入れた。
「さぶっ・・・や・・やっぱり、もっと温かくなってから来たほうがよかったんじゃない。ブルー、もう戻ろう」
身震いしたジョミーに、ブルーはもう少しと言って空を見上げた。
「そうだ・・新学期、転校生が来るんだって?」
ゴミでも入ったのかな。右目をしきりに気にしながら、ブルーが答えた。
「・・早いね。もう知ってるんだ」
「どんな奴?」
「・・惑星ノアから来るんだ」
「へえ。名前は?」
「・・キース。・・キース=アニアン」