Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
白熱のアームレスリング対決から一夜明け、シャングリラは元の平静を取り戻していた。
ただ二名のミュウを除いて。
「今日一日は、何をするにもその格好で頼むよ」
にんまり、という表現がよく似合う笑みを浮かべたブラウに、戦いに負けたジョミーペアは、互いの格好を見比べ顔を引きつらせた。
人目につかぬように、とブラウに連れられ船倉で着替えたそれ。
肌に密着する、という点では「普段着てるミュウの制服とさして変わらないさ」と彼女は言ったが、そんなはずは勿論なかった。
素材の悪いブリーフを履いているかと思わせる股下の不快感。 予想より重く、長時間つけていれば首が懲りそうなウサギ耳のカチューシャ。 網目のタイツは無駄に空気を通し、足元は色んな意味で心許ない。 そして歩く度にかくかくするバランスの悪いピンヒール。
着せようとすることに夢中で気がつかなかったが、こんなにも機動力に欠け、何よりこんなにも自分が情けなく思えてくるコスチュームだったのか、と ジョミーは改めて、先日ブルーが死に物狂いだった意味がよくわかった。
『二着あるなんて、聞いていませんでした・・・・』
何故私まで・・という顔をしたリオは、ジョミーとお揃いでバニーにされた犠牲者だった。
「あたしは『負けたほう』って言ったんだから、当然のことさ」
「連帯責任だ、リオ」
『・・・はあ・・・・・』
その点では容赦のないソルジャーの顔を見せるジョミーに、リオは二つ返事で仲間に加わった、24時間前の自分を悔いた。
「ていうか、なんで航海長が仕切ってんの」
「おや。言っておくけど、あたしが決めたんじゃなくて、1日着ろっていう指定はソルジャーブルーのものだからね」
「ブルー・・・」
「じゃあ、あたしはブリッジに戻るよ。ソルジャーシンもリオも、早くそれぞれの仕事につきなよ」
バァイ、と手を振り去っていくブラウ。 暫く間をあけたあと、呆然と立つ二人はもう一度互いの格好を見合わせた。
『「この格好で?」』
長い一日がようやく終わりを迎える頃、ジョミーは普段のソルジャー服を片手に、青の間を訪れた。 部屋の主は事前にジョミーの気配を感じていたようだが、やはりその姿には一瞬目を見開いた。 そして見てはいけないものを見たように、さっと視線を逸らしたのだった。
「もう着替えてもいいですか?」
「・・・わざわざ来なくても、思念で聞けばいいじゃないか」
いいんじゃないか?と逸らしたままの目を泳がせて、他人事のように答えるブルー。 当てつけのように、ジョミーはその場で着替えをはじめた。
「何もここで着替えなくても・・・」
「このまま部屋に戻って、途中で人目につくのもウンザリなんで」
そう言いウサギ耳を外すと、ジョミーは苦難の一日を回想した。
ブリッジに立てば声を殺して笑う長老たち。
さらに各部署に指示をすれば、モニター越しに笑われる始末。
勿論、通路を歩けば、失笑と生暖かく見守るような思念にさらされる。
『ソルジャーブルーのほうがよかったわ』などという声には、全くだ・・と肩を大きく落とした。
ほとんどのミュウは遠巻きに見ていたが、親しい者たちにばったり会った時などはさらに居たたまれない。 彼らは他のミュウ同様に、そ知らぬフリをする訳にもいかないせいか、一応声をかけてきてくれた。 現に、キムやカリナには「に・・似合ってるぜ」「す・・素敵よジョミー」などと笑いを堪えながら言われた。 そんなことを言われては余計に惨めになってしまう。
仕方なく移動をテレポートのみにしたが、そう何度も多用できるわけもなく。 結局疲れて通路を歩いていると、同様に疲れた様子のリオとかちあってしまい、 「二匹になったぞ」と仕舞いには周囲から爆笑が起こった。
「ブラウから一週間という案も出たが、やんわり却下してやったんだ。むしろ僕に感謝したまえ」
航海長、あの人鬼だな・・・。そう思いつつ、すっかり着替えを終えたジョミーは、ブルーに向き直ると脱ぎ去ったコスチュームをちらつかせた。
「よかったら差し上げましょうか?」
「結構だ」
「まあ、いいです。負けは負けですし。第一、恥ずかしさで言ったら、あなたのやった事程じゃあないし」
「・・・・・・」
思い出したくないことだったのだろう。ブルーはシーツを頭から被り、寝の体勢に入った。
「僕に直接聞きはしなかったけど、みんな噂してたなぁ。僕があなたとどういう関係なんだろう、とか。どこまで進んでいるんだろう、とか」
「・・・・・・」
変わらずシーツを被ったブルーを横目に、ほくそ笑むジョミー。そのまま彼の元に歩いて行くと、ベッドの淵に腰掛けた。
「一つ聞きたいことがあったんです。いいですか?」
「・・・答えたくないと言っても聞いてくるんだろう」
シーツ越しから、少し篭ったむっとした声が返ってきたが、ジョミーは構わず続けた。
「僕以外が相手でも、同じ手を使いました?」
「・・・・・さあ、どうかな」
「ちゃんと答えて下さい」
急に真剣な様子のジョミーに、シーツをずらして目の下までを除かせたブルーが答えた。
「・・使わないよ」
「・・・・」
「あんな馬鹿な手に引っ掛かるのは、君くらいなものだ」
「・・・ふーーん」
いぶかしむような声と視線を投げたのもつかの間、次の瞬間、ジョミーはブルーを覆うシーツの中央をつかんで、がばっとそれを剥ぎ取った。
「・・・!」
案の定・・・・・・顔を真っ赤にしていたブルーに、ジョミーは満足そうに笑みを浮かべて舐めるように彼を見た。
「な、なんだ、その目は」
「別に」
「自惚れてもらっては困る。君だからああした、というわけじゃない」
「そうですか。なら、そういう事にしておきます」
首だけを斜めに倒して、顔を覗き込んでくる嬉しそうなジョミー。ブルーはこれ以上見せまいとそっぽを向いて、そして思った。
いつから僕は君に敵わなくなったのだろう、と。
Fin
◆おまけ◆
一方、ハーレイはというと、相変わらずブルーとの『絶交』が続いていた。
定時報告をしても無視が続き、時には寝たふりをされたこともあった。
日常業務に支障をきたしますので、と訪れる度に懇願と謝罪を繰り返した。
そうして何日かが過ぎた頃、ようやく視線を合わせてくれたブルーから渡されたのは紙とペンだった。
筆談しろということらしい。
「どうすれば許していただけますか?」と書いて渡すと、ブルーは心なしか、楽しそうに文字を綴った。
その日から一週間。
ウサギ耳をつけてブリッジに立つキャプテンの姿が、シャングリラ中の笑いの的になったのだった。