Memory of a pain |
---|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
1 2 3 |
同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
---|
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
---|
1 2 3 4 5 |
アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
---|
1 2 3 4 5 6 7 |
キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
---|
前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
---|
1 2 3 4 5 |
アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
「キース、今日は委員会ないんだろ?だったらうち寄れよ。今日はママが美味しいパイを焼いてるんだ」
過剰に微笑むジョミーと上手い話にはたいてい裏がある。これはキースがごく最近気付いたことだ。
「・・・補習の課題なら手伝わんぞ」
「そこをなんとか・・!神様、仏様、キース様!」
目の前で両手をぱん、と合わせて懇願するジョミー。彼は決して頭が悪いわけではない。
サッカー部の遠征や試合による欠席、それに加え、本来勉強に使う労力を全てそちらに費やしていることが主な成績不振の原因だった。
現にいましがた、ジョミーは試合で欠席した授業の代わりとして、ゼル先生に特別に課題を突き付けられたばかりだった。
「大体、理数の問題集ならまだしも、歴史の課題なんてどうやって手伝わせる気だ?」
「それは、キースが僕の筆跡を真似て歴史用語の書き取り練習を10回ずつやってくれれば・・」
「寝言は寝て言うんだな。だいいち、俺はこれから約束が・・・」
キースがそう言いかけると、放課後の教室特有の騒ついた空気が一変した。
水を打ったような静けさの中心にいる人物の姿を認めると、キースはばつが悪そうに頭をかき、ジョミーは入室してきたばかりの彼に声をかけた。
「ブルー!どうしたの?珍しいね、2年の教室に来るなんて」
「ん、ああ。ちょっとね」
「?ちょうどいいや。ブルー、これからうちに来ない?ママのアップルパイがあるんだ」
さすがに歴史の書き取り練習をブルーにさせる気はないようで、ブルー相手には単純にお茶に誘うジョミー。ブルーはその傍らで帰り支度を整える人物を横目で見た。
「ごめん。今日は先約があるんだ。また今度誘ってくれないかい」
「そっか。うん、またね。ん?先約・・?」
「・・・おい、そろそろ行くぞ」,/
鞄を肩にかけ、背を向けたキースがチラリと振りかえる。誰に向けての言葉なのか、周囲を見回したジョミーがまさか?・・・とすぐ横のブルーに視線を落とした。
「・・うん」
今まで見たことのない可愛らしい返事をするブルーを、ジョミーは茫然と見て、そして悟った。
「え?なに?もしかして・・・そういうこと?」
間の抜けた声をあげるジョミー。
問いには答えず、キースはただ、いつもの軽口を捨てていった。
「書き取り練習、せいぜい頑張るんだな」
廊下に出てすぐ、ジョミーの驚嘆と罵声が教室から聞こえてきたのだった。
屋上で口付けを交わし、想いを告げてから一月。
緩やかに過ぎる日々の中で、二人はごく自然にその距離を縮めていた。
「言ってなかったんだ?」
「・・わざわざ報告することでもないだろ」
誰に何をと言わずとも、先程の教室でのジョミーの間抜け面が二人の脳裏に浮かんでいた。
できることなら言いたくなかったというのが、キースの本音だった。
今日が週末でよかったのか、悪かったのか。休みが明ければ確実にブルーとの関係を問いただされ、ひやかされるに決まっている。勿論、先程の間抜け面の友人にだ。
一方のブルーはふぅん、と不満げにキースを見ていた。彼はキースとは対照的に、この手のことをあまり気にしない。年上だからか、単に彼の性格なのかわからないが。だから彼といると、人目を気にする自分が随分と子供のように思えてくる。
否、自分が子供というよりは、ブルーが大人すぎるのだ。自分に対するブルーの態度は親が子をあしらうようだと思うことが、ここ一ヵ月多々あった。彼といると、まるで遥かに年が離れているかのように感じる時がある。そうかと思えば、幼い子供のような無垢な顔をふいに見せるから、つかめない。わからない。ただ・・・。
逸らしていた視線を戻すと、不敵に微笑む二つのルビー。左腕を捕まれたかと思えば、そのままもたれかかるように腕を組まれた。
「!・・」
「嫌・・・?」
見上げてくるのは甘えるような幼い瞳。拒めるはずもない。
「・・・校門までだ」
返事代わりに嬉しそうに腕を絡めるブルー。
・・・ただ、彼にはかなわない。
それだけはキースがここ一ヵ月で学んだことだった。
「しかし・・本当に行くのか?」
「君だって、隣町の図書館の方が調べものしやすいと言っていただろ」
「それはそうだが・・」
薄暗い雲がかかり始めた空を見て、もう小一時間もすれば降るんじゃないか?と眉をひそめるキース。これから彼らは、それぞれのクラスで課せられたレポートの資料を求めて二駅先の州立図書館まで足を運ぶところだった。駅から図書館までは若干の距離を要した。しかしキースの足を鈍らせるのは、天候の悪さだけではなかった。
「大丈夫。雨が降れば、君の家で雨宿りさせてもらうから」
「・・何が大丈夫だ。はなからそれが狙いだろ」
「なんだ、僕に見られてやましいことがある部屋なのかい?」
「・・・・」
校門までと言いながら、未だに組んでいた腕をようやく振りほどくと、キースは返す言葉もなくそそくさと歩みを進めた。 キースは何を隠そう、図書館から程近い場所にマンションを借りていた。
「えらいね、親元を離れて一人暮らしなんて」
「べつに・・。単に転校の時期が悪くて、学園寮に入り損ねただけだ」
キースはノア学園から編入試験を受けてこのシャングリラ学園へ来ていた。
彼の両親は惑星ノアで仕事をしているため、キースは学園の支援を受けながら地球で一人生活していた。キースのもといたノア学園は、惑星ノアにおいては勿論、数多の星の学校の中でも飛びぬけた進学校だ。シャングリラ学園もまた、地球では名門の学校ではあるが学力的にはそれにやや劣る。
何故レベルを落とすようなところへわざわざ?と問われたことは数知れないが、キース自身、そのことに上手く答えられないでいた。
「君も変わり者だよね。ここへ編入するというと、強豪のサッカー部目当ての生徒ばかりなのに。だから僕も最初、君はてっきりサッカー部に入るのかと思ってたんだけど・・またどうしてここへ?」
サッカー部とキースという取り合わせがおかしかったのか、くすくすと笑うブルー。
むっとしながら、キースは数知れず問われたそれに、いつもどおり漠然と答えた。
「さあな、俺にもよくわからない」
「わからないのに編入試験受けたのかい?」
「・・・・・・笑うなよ」
「?」
いつもならそれで終わるはずの回答だが、ブルーが相手ならまた話は別だった。
誰にも、親しい友人のジョミーにすら明かしていない本音をキースは思わず吐露した。
「・・シャングリラ学園のポスターがノア学園にあったんだ」
「生徒募集のやつかい?」
「ああ、地球を背景にした・・」
「あ、あれ、僕が考えたんだよ。なかなかいいセンスだろ。・・それで?」
「・・あの地球に」
「?」
「・・・・・・呼ばれている気がした」
「・・・・・」
暫しの沈黙の後、忠告を無視して笑い出すブルーに、キースはやはり言うんじゃなかったと羞恥に染まる顔を押さえた。
「・・キースって、時々・・可愛いよね・・」
「っ・・降らないうちにとっとと行くぞ」
キースはぷいとそっぽを向くと、少し遅れるブルーの手をつかまえて駅へと急いだ。
(・・ねぇキース・・どこまで覚えてる?)
後ろのブルーが何か呟いたが、雨雲の運んできた強風にかき消された。
きっと自分をからかうための言葉だと、キースは改めて聞き返すことはなかった。