Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
きっかけはこの一言だった。
「ついに抜かれてしまったね」
「何がですか?」
ブルーは平らにした右手を頭の上にかざすと、それを平行にジョミーに向けて動かした。以前は空を切ったその手は、今ではジョミーの瞳を前にして停滞した。 一連の動作に、ジョミーは何を指しているのか納得したようにああ、と答えた。
「でも、背だけじゃないですよ」
「ん?」
「サイオン抜きなら筋力だって、あなたよりずっと上です」
「それはどうかな。身体的に虚弱だといっても、僕は最強のミュウと呼ばれた男だよ」
ずっと、という開きのある表現に思わずブルーがそう返すと、ジョミーは、悪戯っ子が悪戯を思いついたような笑みを浮かべて言い放った。
「なら、試してみますか?」
「?」
『みんな、見てるかい!かねてから、この船には娯楽が足りないって声があったからね。今日はレクリエーションの一環で、新旧ソルジャー、どちらが強いかをアームレスリングで決めるよ!』
『ちなみに、この勝負の模様は艦内放送により、シャングリラ中の通信用モニターに映し出されます』
艦内通信モニターに向けて、威勢のいい声を送ったのはブラウ航海長。常ならブリッジの長老席にいる彼女だが、今は通信席に座して艦内放送を行っていた。 対照的に落ち着き払った声で補足をしたのは、ブラウと同じく、いつもなら長老席にいるはずのエラ女史だ。
『実況はこのあたし、航海長ブラウが』
『せんえつながら、わたくしエラが解説を努めさせていただきます』
『花も恥らう女長老コンビでお送りするよ!』
モニターに向けてウィンクするブラウの一方、そのすぐ後ろ、ブリッジ中央に設置されたテーブルセット=即席試合場で、肩を落とす者がいた。
(・・・どうしてこんなことに・・)
ブルーはすっかり様変わりしたブリッジを見回すと、そればかり考えていた。 通常なら整然と仕事に就いているブリッジクルーたちの姿が、今日はどこにもない。 みな、この艦を上げた余興のために暇を与えられたのだ。
残っているのは、通信席の二人。何か仕事を任されたのか、いつもの長老席で発声練習をするゼル。 その隣で航路の確認をしているハーレイ。(彼は唯一仕事をしている) そしてテーブルセットにかける自分と・・・・・・。
「どうしたんですか?僕はいつでもいいですよ」
テーブルを挟んだ先、向かい合わせに座る満面の笑みのジョミーに恐る恐る問いかけた。
「ジョ、ジョミー・・本当にやるのか?」
「今更何言ってるんだよ。ノリノリだったのはブルーじゃないか」
「それはそうだが・・・・・」
どちらの筋力が強いか、力比べをしよう、ということになった。 その手段がアームレスリングというところまではよかった。 久しくない経験に、ブルーも多いに賛成した。 しかし、どうせやるなら審判や観衆も欲しいと、ブリッジに顔を出したのが致命的なミスだった。
「面白そうだねぇ。そうだ、これを一つ、余興にしてみないかい?みんなも喜ぶよ」
このブラウの言葉に、確かに食いついたのはブルー自身だった。
そんなに大げさにやっちゃうの?と渋るジョミーを説得し、艦内放送を使っての中継も、新鮮で面白いと思った。
だが、状況は一変した。
「けど、勝ち負けを競うだけなら、面白みがないね。そうだ・・今日、船倉の整理をしていたら、こんなものが出てきたんだよ。 負けた方は罰ゲームに、これを着るってのはどうだい?」
そうして、ブラウが出してきたのは、ウサギの耳が生えたカチューシャと、露出の高いレオタード。 そして、網模様のタイツとピンヒールだった。 昔、若いミュウが宴会芸に使っていたという衣装(男性用)は、つまりはバニーガールという名のそれだった。
「往生際が悪いよ、ブルー」
・・・罰ゲームの話を聞いて以来、それまで渋っていたジョミーが態度を一変させた。 対照的に、ブルーは気分が悪くなったとブリッジから退出しようとしたが、目の色を変えた彼と、面白がったブラウによって強制的に現在に至る。
「な、なら・・勝負の前に提案があるんだが・・」
「?」
先ほどは虚勢を張ってしまったが、肉体的に元々健康体かつ若いジョミーと、元々虚弱で長く年を重ねてきたブルーとでは、勝負は目に見えていた。
「せっかくここまで大きな騒ぎになったわけだし、僕らの1対1といわず、ペアを組んで勝ち抜きにしてはどうだろう?」
もう戦うしかないのだと意を決したブルー。
あんなものを着せられてなるものか・・!
彼は必死だった。
「僕は別にかまわないけど・・」
「なら決まりだね。ハ、ハーレイ・・!!」
一人黙々と仕事をしていたキャプテンを慌てて呼ぶ。 お呼びですか?・・とやって来た彼の手を掴むと、ぐいと引き寄せて腕を組んだ。
「さ、さあ、僕はハーレイと組むから、君も誰か好きなミュウを選びたまえ」
ジョミーの眉間にシワが寄った。 しかし、ブーイングは別の場所から上がった。
「『おーっと、ソルジャーブルー!いきなり汚い手に出てきたよ!』
・・・・・・ちょっとあんた、一体幾つになるんだい?まったく、大人気ないねぇ」
『キャプテン以上に体格のいいミュウはこのシャングリラにいません。ソルジャーシンが誰を選んでも、ソルジャーブルーが圧倒的に有利でしょう』・・でも、ソルジャーらしいですね」
私見を述べつつも、それぞれの仕事をするブラウとエラ。一体、誰の発言のせいでこんな手段を用いなければならないのか。 一声くらい、実況席のドレッド頭に抗議の声をあげようかと思ったものの、ジョミーの冷ややかな視線により、それは阻まれた。
「ふぅん・・・・そういう態度に出るんですか。いいですよ、別に。なら、僕はリオを選びます」
そう含みを込めて言うと、ジョミーは目を閉じて意識を集中させた。まだブリッジに来ていないリオを思念で呼んでいるようだ。 暫くして昇降口から現れた彼は、モニターを通して中継を見ていた所だとジョミーに話すと、選んでもらい嬉しいような、少し困ったような表情を浮かべた。
「悪いね、リオ」
『いいえ。でもいいんですか?私ではキャプテンはおろか、ソルジャーブルーにも太刀打ちできませんよ』
「勝ち負けは気にしなくていいよ。リオに先に戦ってもらう間、意識を重ねてシミュレーションをしたいんだ。
それには、いつも一緒の君がやりやすいからね」
『何か作戦がおありなのですね』
その言葉にジョミーはどうかな、と笑みを浮かべた。しかし内心では、激しく宣言していた。
(・・ブルーのバニー姿、どんな手を使っても見てやる・・!!)
一方のブルーといえば、ジョミーから届いた強烈な思念に、眩暈さえ覚えていた。
「先攻はどうやらリオのようだ。いいか、ハーレイ・・・何が何でも勝て」
「はあ・・・。」
罰ゲームの話をすっぽり聞いていなかったハーレイは、いつになく、なりふり構わないブルーの様子に首をかしげていた。
「一体どうしたというのです?・・・私まで巻き込まれて。ブラウの言い分も、最もですよ」
その言葉に、ブルーは驚いたように彼を見ると、「聞いていなかったのか」と耳打ちをしてきた。
(あれを見ろ、ハーレイ)
「・・?」
ブルーの控えめに出された指は、実況席・・否、通信席にいるブラウ・・・の横の物体を指した。
(あれは・・・。ああ、確か・・30年ほど前に若者が酒の席で着ていた妙な衣装ですか)
ウサギの耳に、尾。そして本来なら女性が着るであろう、肌に密着した奇抜なデザインのボディスーツ。 そしてそれに連なる、大きな網目のタイツとヒールの高い靴が目に飛び込んできた。
(あれがどうかしたのですか?)
(もし負ければ、僕はあれを着ることになってしまう・・!)
「・・・!!」
一瞬、あの衣装を着たブルーを想像してしまいそうになり、頭を振るハーレイ。 昔、酒の席で笑いを取ろうとした青年は痛々しく可笑しかったが、ブルーが着るとなると話は別だ。
似合われるかもしれない。いや、似合う。似合うに違いない。
この美しい人が・・あの衣装を・・・・・正直・・・・見てみたい・・・・。
そんな思念が漏れてしまったのか、それとも顔に出てしまったのか、ブルーは釘を刺すように言ってきた。
「ハーレイ、もし負けるようなことがあれば・・・・絶交だ」
「・・・!」
「信じているよ」
「わ、わかりました。全力を尽くします」
常のように穏やかな口調ながら、目の笑っていないブルー。
これはいつになく本気のブルーだ、(そんなに着たくないのですか)とプレッシャーを感じていると、実況席のブラウが吠えてきた。
「もう相談は済んだかい?通信を見てるミュウたちから催促がきてるんだ。そろそろおっぱじめるよ!」
かくして、シャングリラ中を巻き込んだ熱い戦いが、今始まったのだった。