Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
その冊子に真剣に目を通しているブルーをよく見るようになったのは、数週間前から。
思念で全て済むというのに読書とは・・・・と、ジョミーはブルーの新たな一面を知って嬉しかったものだ。
しかし、その様子が『読書』という感じではないと思ったのはここ2~3日。ページの行ったり来たりを繰り返し、確認をする様子は真剣そのもの。 ジョミーが訪れるとすぐにやめてしまったが、内容と思しきものを復唱していることさえあった。 何をそんなに真剣に・・?と問うと、「なんでもない」「大したことではないよ」との一点張り。
ブルーのことだ。地球についての重要な事柄なのだろう・・・。彼が隠すのなら、とジョミーも深く追求はしなかった。
意外な答えがわかったのは、その翌日。子供たちからあるものを貰った時だった。
「ジョミー、明日ね、シャングリラのみんなでジョミーが来てくれたお祝いをするの!」
「お祝い・・?」
「うん。だからね、はいこれ」
いつも以上に元気いっぱいのニナの言葉に続き、笑みを浮かべるカリナから渡されたのは一通のシンプルな封筒だった。 中を開けると、招待状と書かれた一枚の紙。
「『祝・次期ソルジャー候補決定!ジョミーマーキスシン歓迎祭・・・明日正午より、艦内劇場スペースへお越し下さい』・・・・・・ってなにこれ・・?」
紙に書かれた文章をそのまま読むと、目を輝かせる幼い二人。
「私たち頑張って、明日のために一生懸命練習してきたんだからっ」
「だから、ジョミー。明日は絶対見に来てね」
「練習って・・・一体なんの招待状なんだ?」
ニナとカリナは顔を見合わせて微笑んだ。
「「劇よ!」」
(ああだから・・・)
そう聞いた瞬間、ここ数日のブルーの妙な態度に合点がいった。
「カリナとニナからこんなものを貰いましたけど」
「そうか、もう渡したんだね」
簡素な招待状を突き出すと、青の間の主は驚いたかい?と微笑んだ。
「驚いたというか・・・なんというか・・・・・なんでまた、って感じなんですけど」
アルテメシアを旅立って1年。
すっかりシャングリラでの生活にも、ソルジャー候補生としての訓練の毎日にも馴染んでいたジョミーは、今更の歓迎会に首をかしげた。
「少し前、長老会議で君の話題が上ったんだ。訓練の成果や生活態度についての報告だったのだけど。丁度それを聞いていたら、そういえば君の歓迎会をしていなかったと思い至ったんだよ」
「はあ」
「僕がその場で発議してみたら、みな面白そうだとなかなかの食いつきを見せてね。どんどん話が膨らんで、今に至るというわけさ」
我ながらいい議案を出した、と満足げに会議を振り返るブルー。当のジョミーは呆れた笑みすら浮かべながら言った。
「・・・長老会議って・・・いつもそんな下らないことばっかり話し合ってるんですか?」
「下らないとは失礼な。艦内行事運営も立派な仕事の一つだ。ちなみに演劇はエラとブラウの案だよ。機関長などからは宴会という案も出たのだが・・・女性はやはり感性が豊かだね。君は立ち寄ったことがあるかな?この艦には、映像資料を視聴する劇場用のスペースを設けているのだが、彼女たちはそれを利用しない手はないと言ってきたんだ」
会議の成果を子供のように目を輝かせて話す彼に、ジョミーは本題に移った。
「・・で、あなたは何の役をやるんですか?」
「おや、ばれてしまったのか」
「ばれますよ、そんな不審な行動していたんじゃあ」
「これでも台詞の少ない役を貰ったんだけどね。前日だというのに四苦八苦しているよ」
そう言うと、ブルーは枕元に隠していた冊子をごそごそと取り出した。 思念で読み取り、情報として蓄積させればこんな苦労は不要なのだが・・・それでは雰囲気が出ないというエラ女史の強い要望で、古代地球における『台本』の暗記という形式をなぞることになったのだった。
ここ数日の成果なのか、もう随分折り目やラインのついた台本と睨めっこをするブルー。そのいつにない真剣な眼差しに、まるで試験前に問題集を見る学生のようだ・・と内心クスリと笑いながら、ジョミーは問いかけた。
「なんて劇なんです?もしかしたら、僕が知ってるものかもしれないし・・手伝いましょうか?」
しかし、眉間に(珍しく)シワを寄せるブルーから返ってきたのは、やんわりとした拒絶だった。
「いや、ジョミーのための宴なのだ。君は観客として、明日を楽しみにしていてくれ」
結局、劇の演目も、彼が何の役をやるのかも聞かされずにジョミーは当日を迎えたのだった。
午前のトレーニングを終えたジョミーは軽食を取ると、指定の時間より少し早めに劇場スペースに向かった。そこはシャングリラに着たばかりの頃に、艦内を大まかにリオに案内してもらった以外では、全くといっていいほど馴染みのない場所のひとつだった。
『ジョミー、こっちです』
「リオ?」
入り口で手招きした見知った顔に、ジョミーは彼の全身を見て少し驚いた。首まで覆った若草色のアンダー。その上にゆったりとした白のシャツ。 ズボンはアンダーと同じで、足元には短めの作りの大きいブーツを履いていた。手に持っているのはそれらと同色の・・・帽子、だろうか。
「なに、その格好?もしかして君も出るの・・?」
『ええ。私のほかにもキムやカリナ、ニナたちも』
あとビックリするような方々も出られますよ、と付け加えるリオ。 複数形なのが気になったものの、ブルーの顔を思い浮かべ、ジョミーはため息をついた。
「・・・・なんだ、僕だけが『お客さん』か・・・」
『そんなことないですよ』
「え・・?」
『あなたを特等席まで案内するよう任されました。客席はあちらです、急ぎましょう』
特等席という言葉に首を傾げつつも、リオに着いていったジョミー。 劇場に足を踏み入れた瞬間、彼が見たものは― まだ閉じられた幕を前に、びっしりと並んだ座席に座るシャングリラ中のミュウたちの姿だった。
加えてよく見れば、みな一様に、ジョミーの受け取った招待状を片手に持っていた。
「・・・・な・・・・・・・・・」
『ジョミーのための宴だ』というブルーの言葉が、頭に浮かんでは消えた。
どこが・・・!?ただのお祭り騒ぎじゃないか!
観客席は前から4列が潰されていたため、最前列は5列目になっている。 当然ながら、そこは他のミュウたちによっていち早く埋まってしまっていた。 リオは最前列からさらに下段に降りると、4列目と5列目の間の仕切りを撤去してその下の段に置き直した。
『ここです、ここがジョミーの席ですよ』
「・・・」
リオが指したのは新しく出来た最前列、4列目の中央だった。 今しがた出来たばかりの列なのだ。当然のことながら、他に座っている者などはいない。
「ねぇ・・・・・もしかして・・・・ここ・・・・僕だけ・・・?」
『ええ。ソルジャーブルーたってのご希望で』
「・・・・・」
『じゃあ、私は出番がありますので。ごゆっくり、ジョミー』
笑顔で舞台脇の非常口に去っていくリオにエールもかけ忘れ、ジョミーはしばらく呆然としたあと、ちらりと背後を見た。
後ろの座席のミュウたちが、みな何事かとこちらを見てきた。
彼らの視線は、傲慢にも最前列を一人で占領しようとする(と思われている)ジョミーの姿に釘付けだった。
(な・・・・・・)
いたたまれずに仕方なく席にかける。 しかし、込み合った客席の中ですっかり浮いたジョミーへの好奇の視線と思念は、 しばらく途切れることはなかった。
(なに考えてんだよあの人~~・・・・)
ジョミーは余りの恥ずかしさに身を小さくして、なんでもいいから早く幕が開いてくれないか、と切実に願ったのだった。