Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
横たわるブルー姫、そしてすすり泣く小人たち。長い暗転ののちに現われた光景に、ジョミーは思わず見入ってしまった。 色鮮やかな花々が敷き詰められた棺の中で眠る彼は、そのどれにも勝る美しさをたたえていた。
しかし、今はそれに見入っている場合ではない。 それというのも、ジョミーはこの『白雪姫』の演目を知ってから、クライマックスに登場するであろう『ある役』を誰が演じているのか・・内心気が気ではなかったのだ。
その役は、この童話では言わずと知れた美味しい役どころだ。 最後に出てきながら、白雪姫の唇はおろか心までも奪ってしまうとは何事か。 ジョミーもブルーが姫役でさえなければ、こんなにもこの童話のこの役を憎く、そして恐ろしく思ったりはしなかっただろう。
(~~~・・・・一体誰が・・・・王子様役なんだよ・・・!?)
とはいっても、目ぼしいミュウは既に脇役で出きったはずだ。長老たちはどうやら裏方に回っているようだし・・。 一体誰が・・・?ジョミーが舞台上を凝視していると、いよいよその瞬間が近づいた。
どこからともなく聞こえる、軽やかな蹄の音。
すると白馬に乗った、やや不釣合いな褐色の男が登場したのだった。
「その美しい方は・・・一体・・?」
『そこに現れたのは、ガニメデ王国のハーレイ王子でした』
ジョミーは本日二度目、折りたたみ椅子から派手に転げ落ちた。
「・・ブルー姫です」
「私たちが帰ったら、死んだように眠ってしまっていたの」
問いに答えたのは小人Aリオと、小人Cカリナ。二人の言葉を受けたハーレイ王子は白馬から降りると、棺のブルー姫にその手を伸ばした。
「ブルー・・・美しい人よ・・・私があなたの眠りを覚まして差し上げましょう」
そういう役どころなのだ。これは演技なのだ。台詞に書いてあることを言っているだけなのだ。
そう、自分に言い聞かせるジョミーだが、やっぱり腹が立つものは腹が立つ。
(くっそ~~・・・・なんだって、よりによってキャプテンが・・・!誰だよ、この配役決めたの・・!?あ~~!ブルーのほっぺに手を・・・!キャプテンちょっと調子に乗りすぎじゃないか?)
こんなことなら、事前にブルーにもっと突っ込んで話を聞いておいて、自分が王子役をやればよかった。そう後悔しきりなジョミーだったが、もはや後の祭りだった。 ハーレイ王子は今まさに、その愛の口付けによりブルー姫を眠りから覚まそうとしていた。
(落ち着け・・僕。フリだ。演技だ。いくらなんでも、そこまではなしないはずだ)
本来女装するはずのブルーの役が男装の麗人になったのだ。当のブルーがまず、口付けなど許すはずがない。
(耐えるんだ、ジョミー=マーキス=シン・・!)
君は客席で楽しんでくれ。
そう言ったブルーの言葉を思い出し、飛び出したい、妨害したいという思いを必死で抑えるジョミーだった。
一方、舞台上のハーレイは違和感を覚えていた。
(ん・・・?)
眠るブルーの頬に手を添えたものの、いざ顔を近づけると彼からすやすやと寝息が聞こえてきたのだ。
(これは・・・・・)
頬をつつくと、姫は「ぅん・・」と頭を傾けた。
(ま、間違いない・・・。本当に眠っておられる・・・!)
「お、おお、美しいブルー姫よ・・!!」
おおっぴらに起こすわけにもいかず、彼が起きるように、できるだけ補聴器に近づいて大きな声で台詞を言った。
(ソルジャー、ソルジャー!起きて下さい、本番中です!)
しかし規則的な寝息は変わらず、ただ穏やかに眠るブルー姫がいた。
このままでは劇が停滞してしまう。 しかし、だからといって揺り起こしたりするとそれこそ台無しになる。
(し・・・仕方がない。・・・申し訳ございません、ソルジャー。お顔に失礼いたします)
心の中で謝罪をしながら、ハーレイは筋書き通り口付けを決意した。
勿論、唇は避けて、頬に軽く。
何かしら接触を図れば、ブルーも目を覚ましてくれるかもしれない。
こんな方法で起こすのは心苦しいのだが・・・・。
しかし、眠るブルーに顔を近づけたその瞬間、きめの細かい白雪の肌・・・そして長い睫毛に縁取られたまぶたが目に飛び込んできた。
そこには舞台用に少し化粧が施されていたため、元の美しい彼の魅力を倍増させていた。
(・・・・!)
その瞬間、ハーレイの中で何かが音を立てて糸が切れた。 手を添えた頬に寄せるはずの彼の唇は、いつの間にかブルーの桜の花びらのような唇に吸い寄せられていた。
「私の口付けで・・・・目を覚ましてください」
「「!?」」
場内がざわめく。 キャプテンの真剣な眼差しを目の当たりにした観客のミュウたちから、口々に『本当にするのでは・・?』という思念が巻き起こった。
その時だった。
「「そのキスちょっと待ったぁあ!!」」
あと少しで互いの唇が触れる・・・というところで、観客席から痺れを切らした少年の叫びが聞こえた。 まだ慣れないサイオンを使い浮上すると、彼は赤いマントを翻し舞台に乱入してきた。
『ジョミー!・・・劇が台無しになってしまう、早く観客席に戻りたまえ!』
ハーレイの思念での語りかけをまったく無視し、舞台に現われたのは次期ソルジャー候補。降り立った舞台上で少し何か考えるようなそぶりを見せた後、彼は言い放ったのだった。
「僕はアルテメシア王国のジョミー王子だ!ブルー姫は僕のものだ!!」
その言葉に、舞台裏で控えていた長老全員がズッコケた。
(な・・・なにをやっとるんじゃい・・あやつは・・)
(困ったことを・・・なんとかナレーションでカバーしてみましょう。エラ女史・・?)
(ああ・・・私の脚本が・・・・・・私の練りに練った演出が・・・・・)
(あはは、なんだか面白くなってきたじゃないかい)
面白い展開になったと騒ぐ客席のミュウたち。はたで見ていた小人たちの反応もまた、多種多様だった。 アドリブ満載の進行にリオやキムなどの年長組と少年たちは呆れた笑みを浮かべ、カリナやニナをはじめとする少女たちは、シナリオにない心ときめく展開に目を輝かせた。
その時、火花を散らす二人の間で、ようやくブルーが目を覚ました。
「ん・・・・・・・もう出番かい・・・?」
「ブルー・・!」
なんだか本当にうとうとしてしまったが、ハーレイが舞台に出ているということは、自分の番なのだろう。ブルーはそう暢気に自己完結した。
(次の台詞はなんだったかな・・・ええと)
事前に手のひらに書いていた文字を見る。
「ああ、君が助けてくれたんだね。ハーレイ王子」
「え、ええ。そうです、ブルー姫。私の愛があなたを・・・」
「いや、違うな。僕の愛がブルー姫を眠りから覚ましたんだ!」
ジョミーは半ばやけくそだった。 芝居とはいえ、ブルーの相手役を自分以外が演じるのはやはり我慢ならない。 これはもう、開き直ってとことんまでやるしかない。
「ジョ、ジョミー・・・?どうして君がここに・・」
「ジョミーじゃないです。ジョミー王子です」
「言うにことかいて君は・・・!」
「それはこっちの台詞だ!だいだいキャプテンこそ『王子』って柄じゃないじゃないか!『従者』か『下僕』の間違いだろ!」
「し・・失礼な!言っておくが、王子役はソルジャーブルーが選んだのだぞ・・!」
「そうなの?!なんで僕に一言言ってくれないんだよ・・!」
「君は観客じゃないか、ジョミー。それに白馬に乗るハーレイなんて、きっと面白可笑しいと思って・・」
「ブルー・・・・」
何気に酷いことを言うブルー姫に、ショックを受けるハーレイ王子。 そんなやり取りに、あっけにとられながらも客席からはどっと笑いが起こった。
一方、舞台裏では長老たちが舞台の混乱に、諦め半分の溜息をついたのだった。