Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
そしてあいつが、この学園に来た。
新学期の初日。
いつもの朝練の最中、ふいに視線を感じて僕はあいつを見つけた。
心臓が跳ねる、っていうのはああいう時のことを言うんだろうな。
僕が生徒会室に入ってきた瞬間のブルーも、きっと同じ気持ちだったに違いない。
どう声をかけようか迷う前に、僕は足元のボールをあいつに向けて蹴っていた。
「ノアのグラウンドはここより広い?」
これでも、僕なりにあいつを試していた。
「いや、こちらのほうが広いかな」
一瞬驚いたように僕を見たけど、返ってきたのは笑顔だった。
「やっぱり!惑星ノアからの転校生だ。僕はジョミー。君と同じ2-Bのジョミー=マーキス=シンだ」
「キースだ。キース=アニアン」
蹴り返されたボールを受けとって、僕は確信した。 キースは、何一つ覚えていなかった。
「キース!早く行かないと購買のパン売り切れるぞ」
「・・いや、俺はいい」
弁当包みを出してきたキースを見て、ジョミーは度肝を抜かれた。
キースはノアの親元を離れ、一人暮らしをしているからだ。
「??そのお弁当・・・まさか・・」
「・・俺が作った」
悪いか、という視線を受けたジョミーは、少し間を置いて腹を抱えて笑った。
「・・そんなに笑うことか?」
「っ・・・ごめん、ごめん・・つい」
「失礼な奴だな」
包みを開けるキースの手元を、ジョミーはまじまじと見つめた。
「キース、あのさ」
「断る」
「いや、まだ何も言ってないし・・」
「大体お前の言いそうな事はわかる」
「~~・・・ケチ。ちょっとだけでいいんだけど。おかず一個。いや、一口でいいから!ていうか、今日のおかず何?卵焼きとかある?」
「さっさと購買に行け。馬鹿」
呆れたキースの表情に、ジョミーはまた笑った。
キースは、かつてのキース=アニアンではなかった。
いや、もともと彼はこういう人間だったのかもしれない。
言葉が少なくて不器用だけど、とても優しい人間。
キースが来て、僕は改めて自分の決断は正しかったんだと思った。
再会を喜ぶためだけに、僕たちはここにいるわけじゃない。
もう一度出会うために、ここにいるんだ。
ブルーとは真っ先に引き合わせた。
一緒に笑える日が来ればいいなと思ったから。
それからの事は僕もよく知らない。
僕はてっきり、僕にそうしたように、ブルーが今のキースとも上手く向き合うと思っていた。
実際そう見えたんだ、あの時の二人は。
「行くぞ」
「・・うん。・・じゃあね、ジョミー」
二人は僕の予想をはるかに越えて親密さを増していた。
こればかりは意外だった。
元々合わない二人ではなかったのかもしれない。
正直、ブルーをとられたと思わなかったわけじゃないけど、あいつにならいいかなとも思った。
負け惜しみかもしれないけど、僕がブルーを想う気持ちって、そういうのとはまた違うんじゃないかと思う。
気がかりだったのは、キースの記憶だった。
キースは僕のように、いつか突然記憶を取り戻すんじゃないかと思った。
「どうしようかなぁ~~~・・・・・」
シャーペンの尻をかちかちと押しながら、ジョミーは居残りの課題とは別の問題に頭を悩ませていた。
蘇った記憶と向き合うのはキースだ。
現にジョミーは向き合って、自分なりに答えを出した。
ブルーもそうだと思う。
ブルーとキースの関係は、ジョミーが考えた以上に親密なものとなった。
だから二人の距離が近ければ近いほど、過去の記憶が影を落とすような気がしてならなかった。
「あ~~~~誰かに相談したい!・・・・・って・・僕が考えることじゃないけど」
限度を超えて伸びた芯がぽきりと折れた。
それを転がしながら、ジョミーは一人教室でうなっていた。
週が明け、ジョミーは重たい瞼を擦りながら朝練へと向かった。 ブルーと会ったのは、ちょうど寮を出たばかりの時だった。
「?あれ。おはよ、ブルー。こんなに早くどうしたの?」
「・・あ・・ああ。おはよう、ジョミー。・・ちょっとね、いつもより早く目が覚めちゃったんだ。天気もいいし、散歩でもしようかと思ってさ・・」
「ふぅん・・」
空を見上げたブルーは、ジョミーから顔を背けた。
ほんの一瞬だったが、ジョミーは身逃さなかった。
二つのルビーに宿った光は虚ろで、僅かに垣間見た表情はまるで世界が終ってしまったかのような空虚を纏っていた。
それでもいつも通りを装うブルー。
どうやったらここまでブルーの顔を曇らせることができるのか、心当たりは限られていた。 体調が悪いのかと聞いてみたものの、ブルーからは大丈夫の一言しか返ってこなかった。
ブルーは僕には何も打ち明けなかった。 だから僕はそれ以上追及しなかった。
僕が思い出したと伝えていれば、何か話してくれたのかな。
ほんの少しだけ、ううん・・・・かなり、僕は揺れた。
あの人が、今までどんな想いで二つの記憶を抱えて生きていたのか、その時やっとわかった気がしたから。
それでも、考えを変えるつもりはなかった。
告げないことを決めたのは僕だ。
それに・・例え伝えていたとしても、ブルーは僕に話してくれなかったんじゃないかなとも思うしね。
歯がゆい思いを抱えたまま、ジョミーは練習を終えて校舎へと向かった。
その途中、偶然見つけた友人の背を叩いた。
それこそ、いつも通りに。
だが、振り返った彼は面白いくらいにブルーと同じ表情を浮かべていた。
ジョミーは改めて、彼が原因だと確信した。
同時に、思わず彼の顔面を一発殴ってやろうかと思ったが、なんとか踏みとどまった。
二人の間に何があったのかは薄々わかった。
ブルーは僕に打ち明けなかった。
キースも何も言わない。
僕が口を挟んでいいことではないのかもしれない。けど・・放っておくわけにもいかなかった。
僕は意を決して、キースに全てを話すことにした。
全て話終えた後、校舎へと向かったキースの背を見て僕は安堵した。
・・と同時に、ほんの少し羨ましくも思った。
僕とは別の答えを出したキースへの想いなのか、それともやっぱりただの嫉妬なのかは今でもよくわからない。
ちなみにあの後の僕といえば、あいつが置いて行ったお弁当を食べて(これがまた美味しかったんだ!)、そのあとしっかり怒られた。
翌朝、昨日とうってかわって穏やかな表情のキースが僕に聞いてきた。
「本当に、言わなくていいのか?」
「?」
「俺が口を挟むことじゃ・・ないのはわかっているが」
「いいんだ」
「しかし・・」
「キースは答えを出したんだろ?キースが決めたように、僕も決めたことがある」
本当は、時々・・言いたくてうずうずする時もある。
でも。
やっぱり。
再会を喜ぶために、過去を懐かしむために、僕はここにいるわけじゃないと思うから。
キースはキースで感じることがあるに違いない。
ブルーだって、きっとまた別の考えを持っているんだろう。
僕は・・。
僕は、過去と決別したい。
この記憶が色あせないうちに、心の奥にそっとしまっておきたいんだ。
それは僕にとっては過去でも、現実でも、夢でも、ましてや思い出でもない。
決して手に入ることはない、もう一つの今・・かな。
「これが僕の答えなんだ」
力強く言った決意の言葉に、強がりと迷いはゼロってわけじゃないけど。
そんな感じで、僕は今を生きてる。
Fin