Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
「メンバーズとは、つくづく爪が甘いのだな。これで騎士気取りとは・・・笑わせる」
「・・・・・・!」
先刻キースが投げた言葉を、お返しとばかりにそっくり返してきた男。 鈍く黒光りする銃口は、色素の薄い風貌に不釣合いだった。
二人の立場は完全に逆転していた。
キースは向けられた銃口を気にしながら、背後のジョミー=マーキス=シンを横目で省みた。 彼は今余計な手を出してはブルーの邪魔になると踏んだのか、直接動いては来なかった。 しかし、キースの動きにいつでも対応できるように、いつの間にか浮遊をやめた両足を地に着けると、隙なく身構えていた。
一方、ブルーは握り締めた獲物がブレを起こさないよう、空いた左手を拳銃の側面に添えた。
正直、銃火器の扱いに関して知識は薄かった。
ソルジャーとして、抜きん出たサイオン能力を振るってきた彼にとって、この300年、人間の扱う銃火器などは所持したこともなければ、ましてやその銃口を誰かに向けたことなど皆無だった。しかし、向けられて来た回数は伊達ではない。
血なまぐさい経験も、役に立つものだな。
ブルーはこれまで人間が自分にしてきたように、上部に反り返った金具を添えた親指で引き下ろした。 そしてターゲットへ標準を合わすべく、重心を前方に傾けた。
その時だった。
突如ぐらりと揺らいだ視界に目を細める。 それと同時に、ブルはー全身から力が抜けるような感覚に襲われた。
いけない、無茶をしすぎた。
当然といえば、当然の結果だった。
15年という永い眠りから覚めたばかりのこの体。起きぬけに感じた、まるで自分の体ではないような酷い倦怠感は、僅かな時間の経過で薄れていった。
しかし、サイオン能力の眠りは身体の疲弊を確実に証明していた。
何故思念波すら感じぬ程にまで落ちたのか。ブルーは薄れ行く意識の中、理解した。
その力を駆使するための最低限の体力が、この体に残っていない。使えば確実に命を縮める。
それがわかっていて、自分の体はセーブをかけていたのだ。
―爪が甘かったのは・・・僕の方、か。
そう思った時には、もう遅かった。握り締めた銃がするりと手から零れ落ちる。 そして次の瞬間、彼の体は重力に引き寄せられるまま、大きく傾いた。
「「ブルー・・・!!」」
その刹那。
ジョミーは新緑の瞳を見開き、彼に駆け寄った。
地球の男との対峙などすっかり忘れ、「間に合え・・・・!」そう願い瞬間的に大きく手を伸ばした。
しかしその手が届かないうちに、ブルーの体は保護された。
「・・・?」
予想していた衝撃が来ない。
鍛えられた筋肉の感触。補聴器越しに脈打つ鼓動。
誰かの胸に抱きとめられたとわかるまで、そう時間はかからなかった。 朦朧とした意識の中、ブルーは自分を支えるその腕の持ち主を見た。
なぜ・・・?
紅い瞳が戸惑いに揺れた。
ブルーを抱きとめたのは、他でもない、キースだった。
見開かれたアイスブルーの瞳が、男の動揺を物語っていた。 抱きとめたキースもまた、抱きとめられたブルー以上に自分の行動に驚いていたのだ。
「・・・・・」
「・・・・・・」
腕に込められた力は、先程まで自分を押し付けていたような乱暴なものではなかった。 肩に置かれた右手は少し強く、腰に添えられた左手は壊さぬよう、しかし、崩れぬように・・・ それぞれでブルーの体をしっかりと支えていた。
触れる胸から流れ込んできた感情は、自分を気遣う温かみを帯びたもので。 元より抵抗の力さえ残っていなかったが、僅かに零れた心地よい感情に、ブルーはそうしようという意志さえ起こらなかった。
見上げた瞳は、地球の大気の色。
その深い青に包まれるのは、悪い気がしない。ブルーはほんの少しだけ、そう思った。
一方、キースもまた先程までの挑発を帯びた色とは違う、弱く儚い紅玉の瞳を見つめた。 それと同時に、支える体の軽さに酷く驚いた。
まるで重さを感じない。羽でも持っているかのようだ。
これが本当に、戦士と呼ばれた男なのだろうか。
本当に、伝説と呼ばれたミュウなのだろうか。
ブルーという男の相対する側面を見たキースは、一際強く鳴り出した胸の中の警笛に眉を顰めた。
(うるさい)
(お前は邪魔だ)
このまま時が止まっても、悪くはない。
そう思う、自分がいた。
しばし沈黙のまま、二人は互いに見詰め合っていた。 傍で見ていたジョミーは完全に頭が真っ白になっていたようで、ぽかんと口を開けてその状況を見ながら、ただただ立ち尽くしていた。
『少佐、いつでも大丈夫です・・!』
「・・・!」
どれほどそうしていたのだろうか。
テレポートのためのサイオン集中を完了したマツカの言葉に、キースははたと我に返った。
そして元の鉄仮面に戻ると、腕に抱いていたブルーを容赦なく突き飛ばした。
それまで立ち尽くしていたジョミーもまた、マツカの一言に我に返ったのだろう。
彼はすかさず、突き飛ばされたブルーをその両手で受け止めた。
「っ・・・・・やれ、マツカ!」
『はい・・!』
了解の返事とともに、光の粒子がキースを包み込んだ。
次の瞬間、彼の体は二人のミュウの前から姿を消したのだった。