Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
なんだ・・・?
ここは、どこだ・・?
見たことのない無機質な空間に、キースはいた。 眼前には臙脂の衣裳(軍服だろうか?)を纏った自分の姿。 そしてその自分に銃をつきつけられ、膝を突く血塗れの男。
あれは・・・俺・・?
今の自分より、少し年を重ねているのかもしれない。 その顔は紛れも無くキース自身だった。 状況から察するに、数発発砲を受けたのだろう。 痛みに俯く相手の男の顔は依然として見えない。
・・・いや、違う。俺じゃない。
客観的に見せられる光景に、これは夢なのだと自覚する。
『 』
軍服の自分が男に向かって何か言葉を発している。しかし、それを聞き取ることはできない。
瞬間、男が自分を見上げたが、誰かはわからなかった。
男には顔がなかったのだ。
顔の無い男と、それを殺そうとする自分。 タチの悪い夢を見ているだけだ、そうキースは自分に言い聞かせた。
なのになんだ・・?このざわざわとした感覚は・・。
この光景を、この場所を、この男を・・・
俺は知っているのか・・?
緩やかに引かれたトリガー、同時に響いた鈍い音。
その瞬間、世界は一変して真っ白になった。
ああ、夢から覚めるのだ。
遠くで聞こえてきたのは、いつもは煩わしいはずの目覚めを促す電子音。 キースは夢と現実の狭間でその音にひどく安堵していた。
「それでは、生徒会執行委員はキースアニアンに決定です。これで全ての委員選出が終わりましたので、今日決めた委員の者は放課後それぞれの委員会の指示に従って下さい」
新しい学年の始まり。どの教室も、その日の午後は委員選抜の時間にあてられていた。
生徒の立候補制に基づき、希望者が希望する委員枠に手を上げ、一名のみなら即決定。重複すれば、拍手の数で投票を行うというもの。責任の擦り付け合いのクラスもあれば、内申点稼ぎの熾烈な戦いを繰り広げるクラスも少なくない。ある意味、生徒の協調性と自主性が最も問われる年度最初のクラス行事だ。
「そうそう、キース。あなたは生徒会室へ行くように。会長から指示があるでしょうから。しかし、あなたが手を上げてくれて助かりました。毎年この執行委員だけはなり手がいなくて、放課後まで授業を延長してしまうことが多々ありましたから」
「やりがいを感じただけです」
担任のエラは至極ほっとした、という様子で教室を後にしていった。
彼女の心配も無理は無かった。
生徒会執行委員。
仕事内容は生徒会の関わる年中行事全てのサポートと、所属クラスとの情報のパイプ役。
聞こえはいいが、要するに生徒会選任の雑用係と使い走りのことである。
他の委員会は活動日も招集もその委員会特有の繁忙期に絞られてくる。例えば、体育委員なら、体育大会の前後が最も忙しいが、あとはそれほどでもないということだ。
しかし、執行委員は違う。生徒会の人手の足りない全ての仕事の補佐に回されるため、活動日も召集も他の委員会と比べ、頻繁になる。
さらに追い討ちはその任期の長さ。一般の委員ならば任期は1期。一学期に勤めを行えば、二学期には任期が切れ、また選抜が行われる。だが、幅広い生徒会の業務を把握しないまま執行委員がそう頻繁に変わっては業務にならない。そのため、執行委員の任期は生徒会長と同じ1年に設定されている。
それら全ての事情により、生徒会執行委員は生徒に最も避けられる委員職になっていた。
「・・おめでとう、キース。これで晴れてブルーの奴隷だな」
「・・・どういう意味だ?」
声をかけてきたのは、体育委員になったジョミー。
「僕も去年この委員やったから・・わかるんだよね。もう、こき使われて死ぬかと思ったんだから。まあ、僕はキースと違って押し付けられたクチなんだけど」
「去年?」
「そう、でないと僕が会長の、しかも先輩のブルーとあんなに仲良く話しできるはずないじゃん」
「そうか・・」
「安心した?いや・・しかし、キースがこんなに分かりやすい奴だとは思わなかったな・・まさかブルーをね・・」
「・・冗談もたいがいにしろ」
怒り半分で視線をやった割には、やはりにやにやと嬉しそうなジョミー。
憎たらしいので、キースは彼の秀でた額に思い切り曲げた中指をはじいてやった。
「っ!たぁー!!・・・・・・ご・・ごくあくにん・・」
「そうかもな」
「せいぜいブルーに振り回されろ!」
恐らく振り回された経験があるのだろう、額を抱えたジョミーの罵声が教室を背にしたキースに飛んだのだった。
生徒会室へ向かいながら、キースは今朝の夢を思い出していた。
キースはこれまであまり夢を見ない性質だった。見ても何を見たのか大概忘れてしまっているし、覚えていても酷く断片敵で意味を成さないことばかり。
それが今朝はどうだろう。
今でも鮮明に思い出すあの光景。
やけにリアルな銃声で、確かに夢の世界は終わりを告げた。
しかし、キースの朝は目覚めと共に急激に訪れた罪悪感と後悔で始った。
俺じゃない。
あれは、夢だ。
現実ですらない。
今日何度目かの自分を納得させる言葉を終わらせると、辿り着いた観音開きの扉の前に立ち止まった。
自分の事を、覚えているだろうか・・?
本当を言うと、ジョミーの言葉の通りだった。 誰もがなりたがらない執行委員に手を上げたのは、単にブルーに近づきたかった。 惹かれたのは事実。だが、それだけじゃない。
出会いは一瞬。交わした言葉は簡単な自己紹介だけ。
それなのに・・・妙に心に何かが引っかかる。
それが一体何なのか、この扉を開けば答えがわかるかもしれない。
木製のそれを軽く二度叩けば、昨日聞いたばかりの心地のいいテノールが入室を促した。
「今日付けで生徒会執行委員になりました、キース=アニアンです」
「・・・・・」
昨日の今日だ。少し驚いただろうか?否、もしくは自分の事をそこまで覚えていないかもしれない。そんな想いを抱きながら会長椅子を見ると、当人は何が可笑しいのか・・明らかに笑いを必死に堪えていた。
「っ・・・くく・・・」
「・・・おい」
「・・・あ、ああ・・ごめんごめん。だって可笑しいんだ」
「俺の顔がそんなに可笑しいんですか?」
「ぷ・・駄目だ・・あはは・・やっぱり可笑しい」
「・・・・・」
何が会長の笑いのツボに入ったのか・・・。嫌味を言ったつもりが、はっきり可笑しいと返されたキース。今、手鏡があれば本気で覗いたかもしれない。自分は本当に何か失敗したのだろうか?そう心配すらしていると、落ち着き始めたブルーが涙目になりながらこちらを見た。
「それ、やめてくれないか?なんだか可笑しくてたまらないんだ」
「??・・何のことです?」
「っ・・敬語・・」
先日はジョミーに流され、実はついタメ口で自己紹介をしてしまったキース。後からよく考えれば不相応な真似をしたと思っていた。相手は3年。しかも生徒会長。敬語を使うのは当然のこのことだ。
「何故?」
「だって・・君はそういう感じじゃなかったから」
「?」
意味がわからない。多分、自分はそんな顔をしていたのだろう。
笑いの余韻を引きながら涙を拭っていたブルーは、一瞬、何か気付いたようにはっとしたものの、そのまま言葉を続けた。
「ああ、そうか・・・君は・・・」
「・・・?」
「・・ごめん、なんでもない。ともかくキース、僕に敬語は不要だよ。名前も呼び捨てでいい。これは会長命令だ」
「・・了解した」
「ブルー・・か」
「・・え・・」
「対照的な名だな」
「・・ああ、そうだね。この瞳の色で、青だなんて。おかしいだろう」
「・・いや、上手く言えないが・・・・お前に、良く似合っていると思う」
「・・そう・・ありがとう」
まったく、自分は何を言っているのだろう。 これではジョミーの言う通り、会長目当てで来た男以外の何者でもない。 キースはお世辞など得意でもないし、言ったためしもそうそうない。そんな言葉をかけるつもりなどなかったのに、自然と口を突いて出てきた言葉にキース自身も少し驚いた。 そして返された微笑みの幼さにも、また。
もっと知りたい。彼のことが、もっと。
けれど嬉しそうに微笑んだ二つのルビーが、ほんの少し影を落としたことまでキースは気付かなかった。