Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
「ジョミー・・お前・・・」
驚愕を浮かべたキースに対し、ジョミーの反応はあっさりとしたものだった。
「やっぱり、思い出してたんだ」
「・・・ああ」
「実は今朝、お前に会う前にブルーにも会ったんだ。・・二人してこの世の終わりみたいな顔してたから、もしかしたら・・って思ってさ」
最初に出会った頃と、何一つ変わらない笑顔のジョミーがそこにいた。
お前もなのか。
キースの中で、彼への疑念が生まれる。
ジョミーがどうしてそんな顔をしていられるのか、キースには理解できなかった。
「わからないな・・」
「?」
「お前も・・ブルーも・・」
過去を知りながら傍にいたブルー。そして、友として過ごしていたジョミー。
何も知らない自分は、彼らの目に一体どんな道化に映っていたのだろう。
「俺だけか・・何も知らなかったのは」
「いや、僕の記憶のことはブルーも知らないよ」
キースの中で、もやもやと渦巻いていた負の思考が動きを止めた。
「・・知らない・・?」
「うん。言ってないから」
「何故?知ればあいつは・・喜ぶんじゃないのか・・?」
「そうかもしれないけど・・僕は言うつもりはないよ」
「・・?」
解せなかった。
かつて『戦士』と称されていたブルー。
彼の意志を継いだジョミー。
傍で彼らを見ていたわけではないキースでも、この二人が計り知れない絆で硬く結ばれていたのだろうということは、わかる。
気の遠くなるほどの時を経て、ようやく再会を果たした。
彼らは・・キースとは違う。
その記憶と喜びを共有し合わない理由などないはずだ。
「僕もね、キース。思い出したのはつい半年ほど前なんだ。ある日突然・・夢から覚めたみたいに」
「夢・・・」
「最初は僕も、告げようと思ってたんだ。ブルーに記憶があるのはわかったし・・だから思い出した時は純粋に嬉しかった。いつ言おうか、どう切り出そうかドキドキしてさ。また会えたねって・・言ってやるんだって思ってた。・・・でも、言い出すタイミングを計るうちに・・・ブルーを見ているうちに、考え直すようになったんだ。やっぱりやめておこう、って」
「解せないな・・俺に躊躇するならまだしも」
そう?とジョミーがくすりと笑った。
「僕はただブルーに・・何にも囚われずに今を生きてほしかったんだ。僕が記憶を取り戻したと知れば、ブルーはきっとあの頃の感覚に戻るかもしれない。そうなれば、しなくていい気遣いをするかもしれないし、僕への負い目も全くないわけじゃないと思う。たぶん・・そう言う風に思われるのが嫌だったんだ。僕自身。ブルーは高校生で、この学園の生徒会長で、僕の一個上の先輩で・・でも相変わらず僕の大切な人で・・それで十分なんじゃないかって思った。・・結局、今の関係を壊したくなかったのかな」
「今の・・関係を・・?」
「そ、」
ブルーに告げようとしないジョミー。
キースに告げようとしなかったブルー。
今を生きて欲しかったと語るジョミーの姿が、ブルーとだぶって見えた。
ブルーも同じ気持ちだったのだろうか。
今の関係を・・・壊したくない。
そう、思ってくれていたのだろうか・・?
「今のブルーは・・あの頃の『僕』ではきっと・・見たことのないような顔や仕草をするんだ。だから・・ブルーは僕の記憶の『ブルー』とは少し違ってるんだと思う。ブルーだけじゃない。僕やキースもあの頃とは、多分違う」
「だが・・例え違っていたとしても・・記憶は残った」
忌まわしい記憶。
苦い記憶。
忘れてしまいたい事が、沢山ある。
「ああ。だから僕はここで・・お前に会えて心底嬉しかった。・・ブルーもきっと、そうだったんじゃないかな」
「・・何故、そう言いきれる・・?」
「確かに、過去の記憶を塗り変えることはできないけど・・新しい記憶を刻んでいくことはできるだろ」
「だから僕たちは今、ここにいる・・そんな気がするんだ」
右目に刻んだ痛みと記憶を通して。
ブルーがキースの何を見ていたのか。
そして何を望んでいたのか・・・。
今ならわかるような気がした。
ブルーは、ずっとキースを見ていた。
今ここにいるキースを見つめてくれていた。
だからブルーは、最後に聞いた彼の言葉の通り・・キースの記憶が戻ることを恐れたのだ。
記憶を取り戻せば、キースはブルーをブルーとして見なくなる。
罪の意識というフィルターを通して彼を見る。
そして別れを告げる。
罪の意識からも、いつ責められるかわからないという恐怖からも逃れるために。
それはブルーにとっても、容易に予想できることだったのだろう。
あの図書館で、ブルーは過去を懐かしんだ。
しかしそれを、キースとともに共有することを拒んだ。
キースが記憶を取り戻すことを、何よりも恐れていた。
取り戻せば、今の関係が壊れると知っていたから。
キースが離れていくとわかったから。
そして結局、事態はブルーの恐れていた通りになった。
「まあ・・僕がお前に一番言いたかったことは・・今を楽しんだらどうか、ってこと。あと・・ブルー泣かすな」
指をずいと前に出したジョミー。
彼のいつになく真剣な眼差しに、キースは目の前の人差し指を見つめた。
自分はブルーの、何を見つめていたのだろう。
最初は彼自身を見ていた。
やがて、彼を通して垣間見える過去の自分を見るようになった。
ブルーは決してキースを責めない。
そんなこと、本当はわかっていた。
多分それが、キースは嫌だった。
お前が悪いと罵られ、責められることの方がどんなに楽だろう。
そうすれば、罪を罪と認めることができるのに。
贖罪の術すら見いだせないそれは、キースの背に常に重くのしかかっている。
だからキースは、ジョミーのように過去と今を切り離すことなどできない。
「一つだけ・・聞きたい」
「ん?」
「ブルーにお前の記憶があると・・知られたらどうする?」
返事を返すことなく問いかけたキースに、しかしジョミーは万弁の笑顔で返した。
「その時はその時だよ。ブルーには『何で黙っていたんだ?』って、怒られちゃうかもしれないけど・・そんなことで切れちゃうくらい、僕らの絆はやわじゃないから。・・記憶があろうとなかろうと、ね」
ジョミーの答えは、頼もしく思う反面、少し嫉妬した。
誇るべき絆など、キースは最初から持ち合わせていない。
過去を変えることはできない。
この記憶の痛みを消し去ることは叶わない。
それでも。
だとしても。
今の自分が、心の底で何を望んでいるのかはわかる。
新しい記憶を刻んでいけるとジョミーは言った。
今。
俺はここにいる。
過去に縛られ、囚われたまま。
それでもここに生きている。
未来を創る資格は・・きっと俺にも、ある。
俺は今・・何がしたい?
「悪い・・少し用事を、思い出した」
「・・そう言うと思った」
遅いんだよ、とジョミーが笑う。
彼に小さく礼を言うと、キースはグランドを背に歩きだした。
ジョミー。
俺もお前に会えてよかった。
悔しいから、口に出して言うことはやめておいた。
校舎へと向かう足が、キースを急かす。
ざわざわと、校庭の木々が音を立てている。
その真下を、やがてキースは駆け始めた。
俺は今、誰の顔が見たい?
誰と話しがしたい?
誰に触れたい?
『捕まえたいんだ』
進む先にいるであろう、彼が微笑んだ。
誰を、捕まえたい・・?