Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
キースが欲しかった。
彼の全てが欲しかった。
出来ることなら、繋がった身体から彼の記憶全てをも奪い去ってしまいたかった。
キースはかつての『キース』じゃない。
では、僕は・・?
僕もまた、かつての『僕』ではないのだろうか。
過去の記憶はどれも愛おしく、懐かしく思うものばかりだ。
けれど僕は、彼に出会ってからそれを疎ましく感じるようになっていた。
ようやくわかったのだと思っていた。
過去にばかり囚われていてはいけないのだと。
今僕はここにいる僕でしかない。
キースだってきっと。
だから何も知らなければ、ずっとこのままでいられる。
だから何も知らないキースとなら、僕は共にいられる。
そう思うことこそ、過去に囚われている証だと僕は気付かなかった。
まどろみの中からブルーが目を覚ますと、隣にキースはいなかった。 夢うつつに聞こえていた雨音は止み、辺りは静寂に包まれていた。
ゆるりと重い体を起すと、鈍い痛みを感じた。 それすらブルーは愛おしいと頬を緩ませたが、ようやく視界に入ったキースは背を向けたまま、ベッドの隅に腰かけていた。 既に服を着ていた彼は、頭を抱えるように項垂れてぴくりとも動かなかった。
「キース・・?」
シーツを手繰り寄せながら、ブルーはキースの傍へと近づいた。名前を呼んでも反応を返さない彼の背に触れた。
そうしてようやく顔を起こしたキースは、ブルーが今まで見たことがないキースだった。
感情を映さない冷えた瞳で、キースはブルーを一瞥した。
「・・気安く・・触れるな」
「・・え・・・」
放たれた言葉の意味がわからなかった。
「お前はこれで・・満足か?」
「キース・・一体、何を言って・・」
「・・ソルジャーブルー」
この言葉を聞くまでは。
「・・さぞ可笑しかっただろうな」
キースは笑っていた。
他でもない、自分自身を笑っているのだと力のない瞳が物語っていた。
ブルーはただ凍りついた。
「教えてくれないか・・」
「・・」
「俺はどんな顔をして・・お前を抱いたんだ・・?どんな顔をして・・お前とともにいた?」
「答えろッ!」
キースの顔がみるみる悲痛に歪んでいくさまを、ブルーは別の世界の出来事のように茫然と見つめていた。
「ブルー・・これがお前の望みか・・?俺に記憶を呼び起させて・・お前を好きにさせて。お前は・・・苦しむ俺が見たかったのか?」
「ち、違うっ・・!僕は・・僕は思い出して欲しくなんてなかった・・」
「そうか・・やはりお前には、最初から記憶があったんだな」
「・・!」
キースは立ち上がると、窓際へと歩いた。
そうしてブルーに背を向けると、今にも消え入りそうな声でぽつりと呟いた。
「・・・出て行ってくれ・・」
「キース・・僕は・・」
「出て行け!!」
ああそうか。
自分は大きな思い違いをしていたのだ。
どんなに時を越えても、キースは『キース』で。僕は『僕』のままで。
だから決して交わることなどないのだと、どうしてそんな簡単なことに気付かなかったのだろう。
ブルーは壁に掛けてあった自分の制服を着ると、キースの部屋を出て行った。 その間、窓外を見つめるキースがブルーを振り返ることはなかった。
雨が止んでよかった。
駅はどの方向だっただろうか。
もう電車は動いているかな。
そういえば、傘を忘れてきてしまった。
雨はもう止んでいるはずなのに、ふいに雫がブルーの頬を濡らした。
失ったわけじゃない。
これは、失ったとは言わない。
最初から交わることがない二人だった。
共に過ごした時間こそが過ちだった。
だから、失ったとは言わない。
言わないのに・・・。
零れ落ちる涙を止める術を、ブルーは知らなかった。