Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
地球の男が姿を消したあと、二人のソルジャーは彼の居たあたりを茫然と見つめていた。
背を向けたブルーを抱えたまま、いつの間にかその場に座り込んでいたジョミー。 同様に腰を落としていた腕の中のブルーに視線を落とすと、彼もまたゆっくりとした動きでジョミーを見上げてきた。 互いに視線を合わせたのは、燃料切れの警告音が 船内に響きはじめてからだった。
「おはよう・・・ございます」
言いたいことは、他にもあった。だが、彼が目を覚ましたら必ず一番にこう言おう。 もう何年も前から決めていた台詞を、ジョミーは微笑みとともに彼に降らせた。
「ジョミー・・・・」
一方のブルーは、僅かな瞬きを繰り返してその言葉を受けたが、久しぶりに浴びる陽光のような思念に目を細めると、彼につられるようにそれを返したのだった。
「・・・おはよう」
暖かい時間の訪れが二人を包み込んでいた・・・・
・・・・かと思われた。
次の瞬間、日の光を思わせる笑みが消え、唐突にジョミーは声を荒げた。
「っ・・・!貴方は一体、何を考えてるんですか!!目覚めたばかりの貴方があの男に連れ去られたと聞いて、僕がどれだけ心配したと思ってるんです!?
ろくにサイオンも使えないそんな体で対峙しようだなんて、無茶苦茶だ!!」
「・・ジョミー・・・」
どこか怪我でもしたのかい・・?
そう聞きたくなる程、ジョミーの顔には悔しさと痛みが浮かんでいた。
手を伸ばそうと振り返ると、大きくつかれた溜め息のあと、二つのエメラルドが恨み深くブルーを見てきた。
「・・・・で、何があったんですか?」
「何が・・というと・・?」
「決まってるでしょう。あの男と何があったんです?何をされたんです?」
「な、何もないし。何もされてないよ・・」
「「じゃあなに意味深に見詰め合っちゃったりしたんです・・!?」」
「・・・・・」
その言葉に、ブルーは一瞬何か考えたあと、目を閉じてかくりと首を傾けた。
「寝たふりするなっ!!」
「ジョ・・・ジョミー、僕は本当に疲れているんだ・・報告ならあとでするから・・」
「駄目です。聞くまで帰りません」
「・・・・・・・」
主導権はジョミーにあった。
サイオンを使うどころか、立ち上がることも億劫なブルーの体。
単身でテレポートなど出来るはずもなく、シャングリラに帰るにはジョミーを頼る他ない。
彼が帰らないと言うなら、つまりはブルーも帰れない。
―そういう風に、頑として我を通すところは変わらないな。
まだ眠りに着く前、頼りなく自分の枕元に来ていた少年の面影を懐かしむ。 眼前の青年の力強い瞳の中に、あの時の彼はもういなかった。 内心少し寂しさを覚えながらも、ブルーはジョミーの怒りの矛先を逸らすべく、それに話を持っていこうとした。
「そ、それにしてもジョミー、見ないうちに随分背が伸びたんだね。まさか追い越されてしまうとは思わなかったな・・」
「・・?ああ・・。そりゃあ、15年も経てば伸びもしますよ」
「たくましくなって・・見違えた」
「そうですか?でも体格の良さなら・・・」
「・・・・・『あの男』には負けますけど。」
嫌味で放ってやったその言葉。
ジョミーは、ブルーがさぞ困った顔をして固まっただろうと意図的に泳がせた瞳を彼に戻した。
・・・・が。
飛び込んできたブルーの顔に、思わずジョミーのほうが固まった。 彼はあろうことか、ジョミーの言葉を受けて気恥ずかしそうに視線を逸らすと、白磁の頬を桜色に染めていたのだ。
「な・・・・な・・・・な・・・・・・・」
ブルーの過剰な反応に、ジョミーは引きつった表情で口をパクパクさせた。当のブルーは、ジョミーの様子に自分がどんな顔をしているのか知ったようで、 うっすら上気した頬に手を当てると、慌てて弁解しようとした。
「・・・あ・・・、いや・・・ジョミー・・・ち、違うんだ・・・・これは、その・・・・」
ジョミーの言葉を受けた瞬間、ブルーは思わずキースの胸板に触れた感覚を思い出してしまった。
そしてその瞬間零れてきた、驚くほど温かな想いもまた。
自分は正しいことをしたはずなのに・・・・・。そんな風に助けられてしまったら、その直前の自分の行為が、なんだか酷く野蛮で恥ずかしいものに思えてきたのだ。
それだけのことだった。
そのはずだった。
なのに、ブルーは何故かそれを上手く言葉にすることができなかった。
「・・・彼が・・・あ・・・あんなことをするから・・・・」
「・・カ・・・カ レ・・・?・・・・・・あんな・・・こ と・・・?」
不可解な羞恥に、もじもじと俯くしかないブルーは、焼け石に冷水を注ぎ込んだことに気付かない。 一方、妙な発音でブルーの言葉の断片を復唱したジョミー。 浴びせられた水の冷たさに動きを止めたものの、再沸騰までそう時間はかからなかった。
燃料切れの警報音は相変わらず続いていた。
しかしその音量を遥かに上回る「「やっぱり何かあったなっ!!!」」というジョミーの叫びが、狭い船内に響き渡ったのだった。
一方―。
マツカの小型艇に無事テレポートしたキースは、船の操作を彼に任せると、簡素なブリッジをあとにした。
就寝用にあてがわれた小さな船室に入り、備え付けのベッドに腰を落とす。
少し引いた痛みの元に視線を向けると、軍服を脱いで、アンダーの袖を捲り上げた。
左肘の肉の柔らかい部分に、それはあった。
僅かな出血は凝固し、そうでない部分は紫に色を変えていた。 服の上からつけられたこともあり、歯形と言うには幾分控えめだった。
鬱血したその部分に触れてみる。
瞬間、早鐘のように鼓動が鳴った。
だから言ったのだ。
あの男は危険だ、と。
しつこいシグナルはもう鳴らない。 ただ、その正体をキースは漠然と認識した。
「・・・これでは、当分消えないな」
そうして、ものの見事に赤い果実に喰われた自分に苦笑したのだった。
Fin