Novel地球へ・・・

キース×ブルー

Memory of a pain
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番外編:隠し事
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結)
side : Jommy
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結)
風紀委員長の日課
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結)
鉄仮面の失敗
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結)
セルジュ=スタージョンの疑問
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キース×ブルー←セルジュ(完結)

ジョミー×ブルー

激闘 in シャングリラ!
前編 中編 後編 後日談
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結)
悩めるスノーホワイト
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結)

Memory of a pain -7-

図書館に着いた二人は、一旦別れることにした。

「地理学のあたりにいるよ。君は?」
「このあたりにいる」

じゃあまた、と笑みを返したブルーは本棚の奥へと消えていった。
僅かに彼の後ろ姿を見送ったあと、キースもまた出入り口付近の棚を散策し始めた。

二年と三年では課題のテーマも違う。二年の課題はレポートというよりは、読書感想文に近かった。書籍の指定もないため、キースは最新書籍の棚から興味を引く本を適当に手に取っていた。その中のいくつかを手にとっては戻し、候補が決まった頃だった。

微かに響いた低く唸るような音に、キースは窓の外を見た。
ここに来るまでに見えていた空の青が、雨雲によって埋め尽くされていた。音の元は、すっかり様相を変えたその灰色の空からだった。
じきに雷雨が来る。
少し急いだ方がいいと感じたキースは、本を借りたその足でブルーの元へと向かった。

本棚の隙間を通り抜けながら、先ほど聞いたブルーの言葉を頼りに部屋の奥へと歩いていく。見知った後ろ姿はすぐに見つかった。キースはおい、と一度声をかけたが、いつになく真剣に本を見ているブルーがその声に気付くことはなかった。

「・・?」

手元から一向に視線を外さないブルーに、キースは仕方なく傍に歩いて行った。
近づいてみて気付いたが、ここは事前にブルーが言っていた棚ではなかった。並ぶ本のタイトルだけ見ても、地理というより、天文学に近い分野に属している。
ブルーはまだ後ろのキースに気づいていない。
何をそんなに熱中して読んでいるのか興味が湧いたキースは、声をかけずにブルーの傍に立つと、彼の読んでいる本を覗き見た。ページの半面に描かれていたのは、見知った惑星だった。

「地球、か」
「!」

背後からの言葉に、ようやくキースに気づいたブルーは酷く驚いた表情で彼を見た。 キースはそれに気付くことなく、ブルーの読んでいたもう反面の文章に目を走らせた。ざっと目を通しても、そこには学校でも学習するような自分たちの今いる惑星の歴史が綴られていただけだった。

「好きなのか?」
こういうの、と付け加えると、キースは本棚から別の本を手に取った。 ブルーから返事が返ってこないことに、少し違和感を覚えながらも手に取った本を広げた。

地球の歴史に関する本。
ブルーは既にレポート用に借りる本を傍らに置いていた。それとは別に、彼はわざわざこの棚に来たのだ。キースは悪天候のことも忘れ、ブルーが興味を惹かれる物を少し知りたいと思った。
だが、ブルーは決してそれを望んではいなかった。

「キース・・もういいよ、帰ろう」
「?なんだ、お前が読んでいたんだろう」
「そうだけど・・」
「『数百年前、生物の住めない星になった』か・・今を見る限りじゃ、そうは思えないがな」

くすりと笑みを浮かべたキースに相反して、ブルーの顔が青ざめていく。
「・・いいから、早く帰ろう」
制服の袖を引っ張るブルーに、キースは怪訝な顔で彼を見た。そこで初めて、ブルーの異変に気が付いた。

「ブルー・・?顔色が悪いな。一体どうしたん・・」
「早く帰ろうって言ってるだろ!」

ブルーの額に伸ばしたキースの手が、乾いた音をたてて払われた。
同時に、キースが手に持っていた本がどさりと床に落ちた。
しんと静まり返った室内の空気がほんの一瞬変わる。周囲にいた他の人間が、二人を見ながら通り過ぎて行った。

元の空気を取り戻した室内で、キースは茫然とブルーを見つめていた。
「・・・」
「・・・ごめん・・」
ブルーはただ、痛みに耐えるような表情で謝罪を口にした。




天を裂くような雷鳴が響いたのは、二人が図書館を出てすぐのことだった。 駅まで送ると言ったキースに、少し間を置いてうんとブルーが頷いた。

「右目、痛むのか・・?」
「・・別に」
大丈夫、と付け加えたブルーからは普段の笑みが消えていた。

この空のように、二人の間に流れる空気は行きとはまるで別の物に変わってしまっていた。キースはその原因がわからなかった。いや、わかってはいるつもりだが、それの何がいけなかったのか理由が見つからない。

一旦思考をやめたキースが溜め息をつくと、言葉とは裏腹に、ブルーが庇うように右の瞼に触れていた。
彼との付き合いは一ヶ月に過ぎないが、キースは一つだけわかったことがあった。

ブルーの右目の痛み。
当のブルーは偶然だと笑っていたが、その多くはキースが傍に居る時に起こっていた。
そんな彼の様子を見ては、奇妙な感覚に襲われる自分。
鈍い胸の痛みと、重苦しい感情には覚えがあった。
それは、日ごとにキースを襲う悪夢に似ていた。

キースは相変わらず例の夢を見続けていた。
既に夢ではなく過去だと悟りながらも、それ以上の記憶を脳が呼び起こすことはなかった。
壊れたレコーダーのように、同じシーンを何度も繰り返す。
散りばめられたピースは決まっているのに、いつもキースはあと一歩の所で最後の欠片を拾うことができなかった。

掴めそうで掴めない。
繋がりそうで繋がらない。

「・・?」

ぽつり。
特に会話のないまま歩いていると、水滴がキースの頬を掠めた。
最初はぽつりぽつり。
数十秒と経たないうちに、元より大粒のそれは滝のような豪雨へと変わっていった。
途中で駆けだしたキースが遅れるブルーの手を引く。
握り返してくる手から、ブルーの少し低い体温が伝わってくる。
その手は、振り払われることなくしっかりと繋がれていた。



「不通・・?」
「そう、さっきの雷で信号機が故障してしまってね。開通まで最低でも二時間はかかるかもしれないんだよ」

豪雨に振られながら辿り着いた駅の構内で、二人は思わず顔を見合わせた。
駅長は問いかけたキースにすまないね、と言うと次の客の質問に答え始めた。
再び互いの顔を見ると、何か言おうとしていたキースの先手をブルーがとった。

「ここで待ってるよ」
「・・大丈夫なのか?『最低でも』二時間だろ」
「コンビニもあるし。傘を買って、適当に時間を潰すから・・」
ほら、と駅の構内を指さしたブルーの手を、キースが掴んだ。
「この冷えた体でか。家に着く前に風邪を引くのが関の山だ」
「君だって同じじゃないか」
「俺はここから歩けばすぐに・・」

そう言いかけて、キースは急に口ごもった。 何か思いついたのか、視線を反らしながら言葉を選んでいる。
ブルーはぼんやりとキースを、彼の蒼灰の瞳が自分を映すまで見つめていた。
そして、二人の視線が再び絡み合った。

「ブルー・・」
「なに・・?」
「俺の部屋に、来るか・・?」

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2004.2.22 開設