Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
「なんてね。冗談だよ」
すぐ傍にあったブルーの顔が、悪戯っ子の笑みを浮かべて離れていった。 動きを止めていたキースは、一瞬よぎった自分の思考を振り払うと、呆れた表情で鍵を開けた。
「本気にした?」
「別に・・」
そう答えながらも、面白そうに顔を覗きこんでくるブルーとは裏腹に、キースは彼と目を合わすことができなかった。
「ほら」
「いたっ」
招いた自室の中央できょろきょろとするブルーに、キースはタオルと着替えを投げつけた。
「もうちょっと優しく・・・何これ?」
「濡れ鼠に部屋を濡らしてほしくないんでな。シャワーぐらいなら貸してやる」
「じゃあ、一緒に入ろうよ」
「・・」
「冗談だって」
「・・お前のは冗談に聞こえないんだ。濡れた服は乾かしてやるから、そこに放り込んでおけ」
「はいはい」
暫くして浴室の扉が開閉する音が聞こえた。
シャワーの水音を背に、キースは脱衣ボックスに入れられた制服をハンガーにかけた。その隣に、自分の上着もかけておいた。室内では乾きが悪いかもしれないが、電車が開通までの間だけでもこうしておけば少しは違うだろう。
ふいに、浴室の湿気を帯びた空気が鼻をかすめる。
キースは落ち着かない気分を紛らわすように、テレビのリモコンをつけた。気象チャンネルに回せば、丁度この地域に局地的な雨雲がかかっているとの報道がなされていた。
一時的な雷雨があるとだけ伝えるキャスターからは特に目立った情報も得られず、キースは幾度かチャンネルを変えたあと、電源を落とした。
「まだ降ってる?」
浴室から出てきたブルーは、タオルを頭に被りながら濡れた髪を拭いていた。 貸した服は上下共に、やはりブルーには少し大きかった。
「・・ああ。一時的なものらしいがな」
「雨が止んでも、電車が動かないんじゃね・・」
「なら泊まっていけばいい」
「え?」
さらりと言われたセリフにブルーが驚いたようにキースを見る。
キースはタオルと着替えを片手に、ふっと笑った。
「冗談だ」
「君のこそ・・冗談に聞こえないよ」
「お互い様だ。あんまり人の部屋の物を触るなよ」
そう言い捨てると、キースもまた浴室へと向かった。 雨に濡れるだけ濡れた衣服が不快で、剥ぎ落すようにそれらを脱いだ。
なんだか、綱渡りをしているような気分だった。
ほんの少しバランスを崩せば奈落に落ちてしまいそうだった。
ぽっかりと口を開けた闇の正体は欲望と言う名の海だ。しかし、それとは別の何かが潜んでいるようにも思えた。
今日のブルーは明らかに様子がおかしい。
正確には図書館を出てから。
あの場でのやり取りで、何がブルーのタブーだったのかはわかる。
地球。
歴史。
地球の歴史。
過去。
過去・・?
また過去なのか・・?
過去に何があった?
渡るべき足場がぐらついている。
果たしてここは安全な場所だっただろうか。
今自分の立っている場所こそ奈落なのではなのだろうか。
キースは初めて今に疑念を抱いた。
しかし何かを感じながらも、キースはその何かがわからなかった。
漠然とキーワードを並べることはできても、それを意味ある言葉にする術を知らないのだ。
なら・・ブルーは知っているのか?
証明して、とブルーが微笑む。
キースを翻弄して、掻き乱して離れていった。
その手を捕まえれば、何かがわかるのだろうか。
キースは蛇口を捻りながら、適度な温かさに湯を調節した。 頭から浴びたそれが、冷えた体を温めていく。 同時に、席立てるような思考を緩和させていく。
わからなくてもいい。
夢と現実の区別もつかない今ではない場所の自分に怯えて、何を知ろうというのだろうか。
彼の微笑み、優しさ、傲慢さ・・そのなにもかもを愛しいと思ってしまった。
それが今のキースにとってのブルーを想うすべてだった。
ブルーを想う心、彼を欲する身体。
証明できるものならば、してしまいたいと思った。
だがブルーは冗談だと笑った。
キースは冗談のつもりはなかった。
だから、雨が止んだら、もう一度駅に行こうとキースは思った。
このまま共にいれば、きっと自分はバランスを崩してしまう。
そんなキースの心の内とは裏腹に、浴室を出ると、ブルーはベッドを占領してくつろいでいた。
「・・誰が乗っていいと言った」
「・・物には触ってないよ」
屁理屈を言うブルーに、キースは彼と極力目を合わせないようにした。
反らした視線を窓の外へ向ける。
雨はまだ、しとしとと音を立てて降り続いていた。
「ね・・キース」
「?」
「さっき・・君に嘘ついたんだ」
「嘘?」
「・・冗談なんかじゃないんだ」
キースがブルーを振り返るのと、ブルーがキースの左手と自分のそれと絡めるのとは同時だった。
両手に包んだキースの手の甲。
ブルーは口づけると、怠慢な動きでキースを見上げた。
「僕は、君が欲しい」
形の良い唇が小さく動いた。
「君は・・?」
伸ばされた手が、キースを奈落へと誘った。