Novel地球へ・・・

キース×ブルー

Memory of a pain
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
番外編:隠し事
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結)
side : Jommy
1 2 3
同タイトルのジョミー視点のお話。(完結)
風紀委員長の日課
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結)
鉄仮面の失敗
1 2 3 4 5
アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結)
セルジュ=スタージョンの疑問
1 2 3 4 5 6 7
キース×ブルー←セルジュ(完結)

ジョミー×ブルー

激闘 in シャングリラ!
前編 中編 後編 後日談
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結)
悩めるスノーホワイト
1 2 3 4 5
アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結)

風紀委員長の日課 -Valentine’s Day-

「だから、2月14日の持ち物検査は廃止にしてはどうだろう?」

生徒会長室に呼び出されたキースは、部屋の主からの意外な提案に眉を顰めた。正月気分も抜け切った2月の初頭。しかし、風紀委員会はこれから一週間後のある一大イベントに向けて多忙を極めていた。

2月14日。

つまり、女性が好意を寄せる男性に想いとともにチョコレートを送る日。

今やクリスマス、お正月に匹敵する存在感を持つその行事に胸を躍らせているのは、このシャングリラ学園の生徒も例外ではない。 だからこそ風紀委員会は、毎年この日に照準を合わせて全校一斉の持ち物検査を行う。
これはキースが委員長になる以前から行われていた行事だったため、幾度か廃止の案も出てはいた。しかし最高学年の受験時期でもあるため、浮ついた空気を学園に持ち込まぬようキースはそれをそのまま引き継いだのだった。

「理由を聞かせてもらおう」
「一つ目は、我が校の自由を重んじる校風に合わない。精神的な自由は保障されるべきだろう。二つ目、校則では菓子類の持込は禁止だが、購買での購入・部活動での菓子製作は可能で、菓子類が全面禁止というわけではない。三つ目・・・これがある意味最も重要だ。女子生徒からの抗議が激しい」

そう言うと、ブルーは見たまえ、と会長机の上に置いていたアンケート用紙の束を広げた。
ブルーは会長就任後、食堂や各教室などに生徒会執行部への意見・質問などのアンケート用紙を常設していたのだが、普段ほとんど使われることのないその紙が、この2月に入ってから急激に生徒会室に届きだしたのだった。その内容はどれも、2月14日の持ち物検査廃止についての女子生徒たちの抗議の声だった。

「なるほどな・・。確かに、俺もその抗議の量については懸念材料ではあった」
「なんだ、君もそう思っていたなら無理にやることはないじゃないか。うん、廃止にしてしまおう」
「・・ちょっと待て。だからといって廃止とまでは考えていない。大体、俺はこの受験時期に製菓業界とデパート業界の戦略に躍らされているのは如何なものかと思った結果、この行事を引き継いだんだ」

事実だがロマンの欠片もないキースの言葉に、ブルーは溜息をつきながら首を横に振った。

「・・キース、女子生徒たちのこの抗議文をよく見たまえ。彼女たちは、この日に一命を賭けていると言っても過言ではない。数日・・いや、数ヶ月前から皆この日のために期待と不安に胸を膨らませている。彼女たちが好意を寄せる者へ渡すのはなにもチョコレートだけではない。普段言えぬ言葉を、そう・・想いをそれに乗せて渡すんだ。君は・・少女たちの純粋な思いそのものを摘み取ろうというのか・・?」

「・・・・・」

ああ、なるほど。
彼は目の前のアンケートの束を全て読んだ末、女子生徒たちに感化されきったあと自分を呼び出したのだ。 生徒会長にそこまで言われては、風紀委員長といえど従わないわけにはいかない。 というより、惚れた相手にそう言われては、どうしようもない。
思わずキースの口から漏れた溜息は、熱弁をふるった生徒会長にではなく、そんな彼の言葉を了承してしまう自分に向けてのものだった。



翌日、風紀委員会が持ち物検査を廃止したという朗報が学園中を駆け抜けた。 ブルーといえば、抗議文を生徒会に送った女子生徒や、クラスメイトの女子生徒から朝から度々礼を言われたのだった。

「よかった。これでわたくしも、ブルーや生徒会の皆さんにチョコレートをお渡しできます」

声をかけてきたのはクラスメイトで、生徒会の書記でもあるフィシス。

「そうか、そういう意味合いのチョコレートもあるんだね」
「ええ。でも、ほとんどの人は好きな男性に送られると思いますよ。うふふ、14日・・ブルーは大変なことになりそうですね」
「・・?僕?・・何故?」
「あら、知らないんですか?女子生徒の間では、ブルーにチョコレートを渡したいという子が最も多いんですよ」

ふーん、と半信半疑で聞き入るブルーだったが、フィシスの次の言葉には敏感に反応した。

「次に多いのは・・風紀委員長だとか」
「・・え?」
「意外ですわよね。クールなお仕事ぶりに惹かれる女子生徒も少なくないそうで・・このクラスの女子も、何人か彼にあげたいと言っていた子がおりましたわ」
「・・・・・」
「ブルー?」

それまでの柔らかな笑みを一瞬で消し、珍しく時を止めたかのように硬直するブルー。 思わず彼の眼前にて手のひらを上下させたフィシスだったが、次の瞬間、ブルーはせきをきったように教室を飛び出していったのだった。



「は?・・今、なんと言った」
「だから、風紀委員会には2月14日の持ち物検査は従来通り、進めていってもらうことにした、と言った」

再び呼びつけた風紀委員長を目の前に、ブルーはいつになく厳しい口調で言い放った。

「わが校は確かに自由を重んじているが、自由には必ず責任が伴う。責任・・つまり、学生の本分は勉強だ。受験を控えた最高学年がいる中、製菓業界とデパート業界の戦略にまんまと乗せられ、色恋にうつつを抜かしてなどいる場合ではない」
「お前、昨日と言っていることが間逆だぞ・・」
「昨日は昨日だ」

一夜明けて180度変わったブルーの見解に、キースはただただ当惑した。
心なしか、不機嫌そうに見えるのは気のせいではないらしい。一体何が彼をそうまで心変わりさせたのか、とキースは昨日のやり取りを思い出したが、思い当たる節はこれといってない。ブルーの有無を言わせぬ物言いはまだ続いた。

「持ち物検査は従来通りとり行う。違反品は以前まで『放課後に持ち主に返却』となっていたが、生ものは直ちに焼却処分とする」
「焼却処分?・・何も・・そこまでする必要はないと思うが・・」
「これは会長命令だ」

ぴしゃりと言い放たれた言葉に、しかしキースは怯まなかった。

「・・会長命令とはいえ、そう易々従うわけにはいかない」
「何故?君は元々廃止に反対だっただろう?」
「ああそうだ。だが、もう既に持ち物検査廃止の掲示物を校内の各所に張った。生徒たちにも知れ渡っている」
「それで?」
「・・・一度撤回した事柄をもう一度翻すなど、生徒に対して誠実とは言いがたい」

いかにもキースらしい意見だった。
彼は風紀という役職柄、校則に厳格で、マニュアル通りに動いている生徒と勘違いされやすいが、その規則が生徒のためになるように常日頃動いていた。
彼にチョコレートを渡したいという女子生徒も、そんなキースの隠れた魅力に気付いてのことなのだろうか・・・実のところ、ブルーはそのことで頭がいっぱいだった。

「・・俺も言わせてもらう」
「・・?」
「会長命令は非常時にのみ許されるものだ。お前の今のそれは、あまりに独善的すぎる。職権乱用と言われても仕方がない」
「・・・・・」

先程までのブルーの剣幕に負けず劣らず、キースもまた厳しい口調で彼を攻めた。
痛いところを突かれたのだろう。ブルーはそれまで真っ直ぐに正面を向いていた視線を逸らすと、涙でも零してしまいそうなくらいに悲しげな表情で俯いた。
彼の表情の変化に、少し言い過ぎたと思ったキース。口調を和らげると、前回と同じように質問をぶつけたのだった。

「・・理由を言え。何故・・こうも急に態度を変えた?」
「・・だって・・」

変わらず俯いたまま、ブルーは拗ねたように小さくつぶやいた。

「例えチョコレート一粒でも・・」
「?」
「他の誰かの想いを君が受け取るのかと思うと・・我慢ならなかったんだ」


一夜明け、学園は女子生徒たちの悲鳴と風紀委員会へのブーイングに溢れていた。先日廃止されたばかりの2月14日の持ち物検査が、結局行われることになったからである。 しかしその件に関して、生徒会長のブルー自身が意見を翻したことを謝罪したため、生徒の不満は幸い静かに納まっていった。

そうして、その日の放課後。
持ち物検査実施の掲示物を、どこか嬉しいような・・恥ずかしいような表情で貼り直す風紀委員長の姿が校舎の各所で目撃されたのだった。


Fin

TOP

2004.2.22 開設