Novel地球へ・・・

キース×ブルー

Memory of a pain
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番外編:隠し事
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結)
side : Jommy
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結)
風紀委員長の日課
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結)
鉄仮面の失敗
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結)
セルジュ=スタージョンの疑問
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キース×ブルー←セルジュ(完結)

ジョミー×ブルー

激闘 in シャングリラ!
前編 中編 後編 後日談
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結)
悩めるスノーホワイト
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結)

Memory of a pain -4-

これは僕のエゴなんだろうか。

屋上の特等席から眺めるこの星の空が、ブルーは一番好きだった。 かつて焦がれてやまなかった地球。 その姿を見つめていた時の気分に、多分少し似ているからだ。

『・・例えば、前世とか』

「あんなこと・・・言うつもりじゃなかった」

雲一つない空を眺めながら、ブルーは先日キースに吐いた言葉を悔いていた。
キース=アニアンは何一つ覚えていない。 マザーシステム、ミュウ、そのミュウとの激しい戦いのこと。 そして、かつての自分自身のことでさえ。

ジョミーと同じだった。
ジョミーと出会ったのは、丁度一年前。 執行委員を押し付けられ、生徒会室へやって来た一年生。 それ以上の価値が、この出会いにはあった。 少なくとも、ブルーにとっては。

物心ついた時、ブルーには二つの記憶があった。
一つは今の自分の記憶。 もう一つは、かつてソルジャーブルーと呼ばれていた自分の記憶。 ここではない、どこか。
今ではない、遠い過去の記憶。
それらの多くを、ブルーは鮮明に覚えていた。
だからジョミーが訪れた時、ブルーは内心歓喜していた。

「ジョミー・・・また・・君に会えるなんて・・」
「?・・僕、会長とどこかでお会いしましたっけ?あ、入学式かな」
「・・・・・」
「1-Cのジョミー=マーキス=シンです。改めて、よろしくお願いします」

少し照れたように差し出された右手をぎこちなく握り返した。
あの時の自分はたぶん、あまりいい笑顔が作れなかったと思う。

ジョミーは自分を覚えていない。
ジョミーのその言葉と表情に一点の曇りも無いことに、ブルーは全てを悟った。 そして、それ以上何も彼に告げようとはしなかった。

思い出して欲しい。そう思ったことがなかったわけではない。
しかし、無理に過去を思い出させることも、そう誘導することもブルーはあえてしなかった。 そうする必要もないくらいに、ジョミーとは再びいい関係が築けたからだ。

自分だけが覚えている。
ただ、その孤独だけが、ブルーの心に内包し続けた。
右目の不可思議な痛みに襲われたのは、そんな孤独にも慣れた頃だった。


「よく飽きないな」
「・・?」

足元から聞こえる張りのある声に、貯水タンクの脇から顔を覗かせた。 屋上から見上げてきたのは予想通り、この空よりも少し深い蒼だった。

キース=アニアン。
地球の男。

彼の出現は、ジョミーとの再会を果たしたブルーにとって予想の範囲内ではあった。
ミュウと人間・・双方関わらず、自分やジョミーのように過去を生きた者たちが、この宇宙のどこかで新たな生を受けている、そう考えたからだった。

けれどこんなに近くに・・。
自分の傍に彼を引き寄せた運命の悪戯に、ブルーは当初感謝さえしていた。

「好きなんだよ。ここで、こうしているのが・・」
「・・執行部の奴らがお前を探していたぞ」
「もうしばらくしたら戻る・・・・って伝えてくれない?」
「・・・自分で伝えろ」

それじゃあ意味がないじゃないか、そう返すと、返事はまた別の角度から降ってきた。
「?」
いつの間にか梯子を上って来たキースが、ブルーの隣に腰を下ろした。
「で・・この場所の、何がそんなに面白いんだ?」
代わり映えのしない空を見上げながら、キースはただ純粋に問いかけてきた。
「面白いよ。ここにいれば、色々なものが見えるから」
「・・例えば?」
「そうだな・・・君の仏頂面とか」
「・・・・」

眉間にシワを寄せた顔を作れば、予想通り同様に眉間にシワを寄せた仏頂面と目が合った。
思わず笑ってしまったブルーに、一瞬不服そうな顔をしたものの、つられて笑みを零すキース。 その姿からは、かつての自分・・・ソルジャーブルーの記憶の中のキース=アニアンを感じとることなどできない。

そう、目の前のキースと過去のキースとは別人なのだ。
ジョミーがそうだったように。

けれどブルーは、ジョミーの時とは全く違う行動に出ていた。 意図的に、時には無意識に・・ブルーはこれまで、キースの記憶の断片を蘇らせようとしていた。会話の節々にそれを促す言葉を仕組み、反応を伺ったりすることも多かった。

思い出して欲しい。
意味合いは同じでも、ジョミーに思ったものとは、少し位置が違っていた。
やり直したい。
何も知らないキース=アニアンとではない。
全てを思い出したキース=アニアンと、ブルーはやり直したかった。

彼とはもっと、違う出会い方がしたかった。 それは、かつての自分の数ある願いの一つでもあった。

そのためにも、記憶を取り戻してほしい。

とんでもない自分のエゴだとはわかっている。 思い出した彼に、何をして欲しいというわけもない。 勿論、右目を撃ち抜いたことを謝って欲しいわけではないし、悔いて欲しいわけでもない。
ただ、彼とやり直したい。

少なくとも、ここ最近までブルーはそう思っていた。

「・・もう一度、診てもらった方がいいんじゃないか?」
「?」
ここに来た頃よりも、少し高くなった太陽の光眩しさに手をかざせば、心配したようにキースが声をかけてきた。
「・・・今のは日の光が眩しかっただけだよ。元々、光に強い目じゃないんだ」

自分を案じる蒼灰の瞳が、あんまり真剣なので笑ってしまう。
この痛みも、喜びも、全部君のせいなんだ。
喉元まで出かかった言葉を飲み込めば、しかめ面が今度こそ不機嫌そうな顔をした。

「そんなに怒らなくても」
「元々こういう顔だ」
そっぽを向いた隣人の姿に、また笑いがこぼれた。

「・・ごめん」
「・・・」
「心配してくれて、ほんとは嬉しい」

ありがとう、そう続けるつもりだった言葉が、ちりちりと焼け付く様な痛みにかき消された。

「っ・・・・」
「・・痛むのか?」
「・・だい・・じょうぶ。すぐに・・治まる・・」

右目の痛みが日増しに強くなってきたことを、ブルーはその原因とともに自覚していた。
・・・そう、わかってる。
キースに出会ってから。キースに出会ったから。キースに・・・惹かれたから。

もっと違う出会い方がしたかった。
やり直したかった。
出来ることなら、何も知らない彼とではなく、全てを思い出した彼と・・。
確かに、少し前の自分はそう思っていた。

「っ・・・待ってられるか。保健室へ行くぞ」
「いい・・」
「・・?」
「・・・傍に、いて」

気遣うように見下ろすキースへ、ぶるけるように口付けた。
一瞬驚いたように見開かれた蒼灰色の瞳が、戸惑いながらも愛しげに細められる。 次の瞬間、ブルーは温かな腕に包み込まれていた。

忘れなければ。
こんな記憶、忘れてしまえばいい。

過去の記憶など、思い出して欲しくない。

そうしなければ、永久に失ってしまう気がする・・。

自分を包むこの優しい腕のぬくもりも。 見つめ返す蒼も。

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2004.2.22 開設