Memory of a pain |
---|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
1 2 3 |
同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
---|
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
---|
1 2 3 4 5 |
アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
---|
1 2 3 4 5 6 7 |
キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
---|
前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
---|
1 2 3 4 5 |
アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
これは僕のエゴなんだろうか。
屋上の特等席から眺めるこの星の空が、ブルーは一番好きだった。 かつて焦がれてやまなかった地球。 その姿を見つめていた時の気分に、多分少し似ているからだ。
『・・例えば、前世とか』
「あんなこと・・・言うつもりじゃなかった」
雲一つない空を眺めながら、ブルーは先日キースに吐いた言葉を悔いていた。
キース=アニアンは何一つ覚えていない。
マザーシステム、ミュウ、そのミュウとの激しい戦いのこと。
そして、かつての自分自身のことでさえ。
ジョミーと同じだった。
ジョミーと出会ったのは、丁度一年前。
執行委員を押し付けられ、生徒会室へやって来た一年生。
それ以上の価値が、この出会いにはあった。
少なくとも、ブルーにとっては。
物心ついた時、ブルーには二つの記憶があった。
一つは今の自分の記憶。
もう一つは、かつてソルジャーブルーと呼ばれていた自分の記憶。
ここではない、どこか。
今ではない、遠い過去の記憶。
それらの多くを、ブルーは鮮明に覚えていた。
だからジョミーが訪れた時、ブルーは内心歓喜していた。
「ジョミー・・・また・・君に会えるなんて・・」
「?・・僕、会長とどこかでお会いしましたっけ?あ、入学式かな」
「・・・・・」
「1-Cのジョミー=マーキス=シンです。改めて、よろしくお願いします」
少し照れたように差し出された右手をぎこちなく握り返した。
あの時の自分はたぶん、あまりいい笑顔が作れなかったと思う。
ジョミーは自分を覚えていない。
ジョミーのその言葉と表情に一点の曇りも無いことに、ブルーは全てを悟った。
そして、それ以上何も彼に告げようとはしなかった。
思い出して欲しい。そう思ったことがなかったわけではない。
しかし、無理に過去を思い出させることも、そう誘導することもブルーはあえてしなかった。
そうする必要もないくらいに、ジョミーとは再びいい関係が築けたからだ。
自分だけが覚えている。
ただ、その孤独だけが、ブルーの心に内包し続けた。
右目の不可思議な痛みに襲われたのは、そんな孤独にも慣れた頃だった。
「よく飽きないな」
「・・?」
足元から聞こえる張りのある声に、貯水タンクの脇から顔を覗かせた。 屋上から見上げてきたのは予想通り、この空よりも少し深い蒼だった。
キース=アニアン。
地球の男。
彼の出現は、ジョミーとの再会を果たしたブルーにとって予想の範囲内ではあった。
ミュウと人間・・双方関わらず、自分やジョミーのように過去を生きた者たちが、この宇宙のどこかで新たな生を受けている、そう考えたからだった。
けれどこんなに近くに・・。
自分の傍に彼を引き寄せた運命の悪戯に、ブルーは当初感謝さえしていた。
「好きなんだよ。ここで、こうしているのが・・」
「・・執行部の奴らがお前を探していたぞ」
「もうしばらくしたら戻る・・・・って伝えてくれない?」
「・・・自分で伝えろ」
それじゃあ意味がないじゃないか、そう返すと、返事はまた別の角度から降ってきた。
「?」
いつの間にか梯子を上って来たキースが、ブルーの隣に腰を下ろした。
「で・・この場所の、何がそんなに面白いんだ?」
代わり映えのしない空を見上げながら、キースはただ純粋に問いかけてきた。
「面白いよ。ここにいれば、色々なものが見えるから」
「・・例えば?」
「そうだな・・・君の仏頂面とか」
「・・・・」
眉間にシワを寄せた顔を作れば、予想通り同様に眉間にシワを寄せた仏頂面と目が合った。
思わず笑ってしまったブルーに、一瞬不服そうな顔をしたものの、つられて笑みを零すキース。
その姿からは、かつての自分・・・ソルジャーブルーの記憶の中のキース=アニアンを感じとることなどできない。
そう、目の前のキースと過去のキースとは別人なのだ。
ジョミーがそうだったように。
けれどブルーは、ジョミーの時とは全く違う行動に出ていた。 意図的に、時には無意識に・・ブルーはこれまで、キースの記憶の断片を蘇らせようとしていた。会話の節々にそれを促す言葉を仕組み、反応を伺ったりすることも多かった。
思い出して欲しい。
意味合いは同じでも、ジョミーに思ったものとは、少し位置が違っていた。
やり直したい。
何も知らないキース=アニアンとではない。
全てを思い出したキース=アニアンと、ブルーはやり直したかった。
彼とはもっと、違う出会い方がしたかった。
それは、かつての自分の数ある願いの一つでもあった。
そのためにも、記憶を取り戻してほしい。
とんでもない自分のエゴだとはわかっている。
思い出した彼に、何をして欲しいというわけもない。
勿論、右目を撃ち抜いたことを謝って欲しいわけではないし、悔いて欲しいわけでもない。
ただ、彼とやり直したい。
少なくとも、ここ最近までブルーはそう思っていた。
「・・もう一度、診てもらった方がいいんじゃないか?」
「?」
ここに来た頃よりも、少し高くなった太陽の光眩しさに手をかざせば、心配したようにキースが声をかけてきた。
「・・・今のは日の光が眩しかっただけだよ。元々、光に強い目じゃないんだ」
自分を案じる蒼灰の瞳が、あんまり真剣なので笑ってしまう。
この痛みも、喜びも、全部君のせいなんだ。
喉元まで出かかった言葉を飲み込めば、しかめ面が今度こそ不機嫌そうな顔をした。
「そんなに怒らなくても」
「元々こういう顔だ」
そっぽを向いた隣人の姿に、また笑いがこぼれた。
「・・ごめん」
「・・・」
「心配してくれて、ほんとは嬉しい」
ありがとう、そう続けるつもりだった言葉が、ちりちりと焼け付く様な痛みにかき消された。
「っ・・・・」
「・・痛むのか?」
「・・だい・・じょうぶ。すぐに・・治まる・・」
右目の痛みが日増しに強くなってきたことを、ブルーはその原因とともに自覚していた。
・・・そう、わかってる。
キースに出会ってから。キースに出会ったから。キースに・・・惹かれたから。
もっと違う出会い方がしたかった。
やり直したかった。
出来ることなら、何も知らない彼とではなく、全てを思い出した彼と・・。
確かに、少し前の自分はそう思っていた。
「っ・・・待ってられるか。保健室へ行くぞ」
「いい・・」
「・・?」
「・・・傍に、いて」
気遣うように見下ろすキースへ、ぶるけるように口付けた。
一瞬驚いたように見開かれた蒼灰色の瞳が、戸惑いながらも愛しげに細められる。
次の瞬間、ブルーは温かな腕に包み込まれていた。
忘れなければ。
こんな記憶、忘れてしまえばいい。
過去の記憶など、思い出して欲しくない。
そうしなければ、永久に失ってしまう気がする・・。
自分を包むこの優しい腕のぬくもりも。 見つめ返す蒼も。