Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
覚えているのは、苦悩と決断の日々。
絶対的な支配の檻の中で、多くを奪い犠牲にしてきた。
ときに自分の心でさえも。
その時々、一つ一つの記憶を明確に拾い上げることはできなかったが、自分がどういう人間だったのか、そして何をしたのかはわかる。
だから今となっても、奪ったものの重みが圧し掛かってくる。
どうして潰されずにいられたのか、かつての『自分』に問いかけたかった。
『目が、痛むのか・・?』
『時々、こうなるんだ。痛むだけでなんでもないから・・大丈夫だよ』
ブルーの右目。
俺が撃ち抜いた。
ブルーの命。
俺が奪った。
頭がおかしくなりそうだった。
「よっ、オハヨ」
それはいつもと変わらない週明けの登校風景。
グランドを横切り校舎へ向かうキースの背を、朝練を終えた金色の少年が叩いた。
「・・ああ」
「?何だよ、朝からしかめっ面して・・・て、いつものことか」
自分で吐いた言葉を笑い飛ばす少年を、キースは食い入るように見てしまう。
「・・わ、悪かったよ、ごめんごめん。・・・?何?僕の顔に何かついてる?」
「・・いや」
別に、と答えると、キースは彼から視線を逸らせた。
ジョミー=マーキス=シン。
始まりから終わりまで、刃を交えた男だった。
彼から奪ったもの、そして奪われたものもあった。
こうして・・友として話をするなど、考えもしなかった。
けれど不思議と、それも悪くないと思う。
かつての『自分』は閉ざした心の何処かで、そんな未来を望んでいたのかもしれない。
「変なキース・・あ、そうだ!どうだったんだよ?あれから」
「・・何のことだ?」
「何って、ブルーとのことに決まってるだろ」
その名前に、表情が強張るのがわかった。
「あの日、すごい雨と雷だっただろ。傘持ってなかったし、二人してずぶ濡れになってるんじゃないかなーと思ってったんだけど」
「・・ああ、帰りに少し降られた」
「・・で、何か変わったことあった?」
にやりと横目で見てくるジョミーに、キースは再び彼から視線を逸らした。
「・・何も」
「ふーん・・」
そう、と呟いたジョミーが一瞬、視線を逸らしたままの友人を常とは違う眼差しで見ていたことに、キースは気付かなかった。
あの日を境に、全てが変わってしまった。 何を見ても、見え方が以前とは違うような気がする。 誰かと接しても、それまでどう接していたのかわからない。
キースの中に、『キース』がいる。
いや、キースは一人だ。
けれど、一度蘇ってしまった記憶の『自分』と今の自分を重ねてしまう。
その行動も、言動も、犯した罪すら無意識にトレースしようとしてしまう。
だから自分が何者かわからなくなる。
本当は別の人間だと思っているのに、記憶という枷がそうではないと錯覚させる。
ブルーも、自分と同じだったのだろうか。
ブルーは知っていた。
最初から何もかも知って、それでもキースの傍にいた。
仲間を苦しめ自分を殺した男は、彼の目にどう映っていたのだろう。
今思えば、出会った頃からブルーの言葉の端々には、過去というキーワードが見え隠れしていた。
確かに、記憶を呼び起こすように挑発されたこともあった。
そうかと思えば、過去などどうでもいいと言う彼がいた。
そして・・。
『ち、違うっ・・!僕は・・僕は思い出して欲しくなんてなかった・・』
考えれば考えるほど、キースにはブルーの気持ちがわからなかった。 自分自身すら持て余す今のキースに、ブルーが何を望んでいたのかなど到底理解できるはずもなかった。
ただ、あの日彼がいなくなった部屋の中で、キースは後悔と罪悪感に押しつぶされた。
ブルーにぶつけた言葉の全てが、衝動的で、幼稚で、身勝手な言い分だった。
何一つ彼の言葉を聞かず、混乱する思考のままに捲し立てた。
罪を責められる前に、自分を嘲笑い彼をおとしめた。
姑息で卑怯な真似とわかっていながら、そうせずにはいられなかった。
唐突に蘇った過去の記憶からは、罪そのものではなく、罪を犯したという意識だけが残ってしまった。
それを今の自分が背負うべきなのかは、本当のところわからない。
今も心のどこかでは、俺ではないと訴える自分がいる。
だから償い方をキースは知らない。
正面から向き合うこともできず、目を背けることもできなかった。
ブルーは何もかも知っているのだから。
そう思うと怖くなった。
恐ろしくなった。
いつか言われるのではないか?
いつか告げられるのではないか?
僕を殺したその手で、僕を抱いたのか、と。
薄汚れたその手で、愛しいと言い僕に触れたのか、と。
責められ、事実を突き付けられ、その結果・・彼を失ってしまうのが怖かった。
だから突き放される前に、彼を突き放した。
離れていく前に、彼から離れた。
結果は同じなのに、最も自分が傷つかない方法をキースは選んだ。
「キース、」
「?」
「授業、もう終わってる」
声をかけられはっとする。
菓子パンを持ったジョミーが、呆れた表情で傍に立っていた。
いつの間にか教室は昼休みに入っている。
キースは教科書と白紙のノートを広げたまま、ぼんやりと黒板を眺めていた自分にようやく気づいた。
「何?僕が購買にパンを買いに行って戻るまでの間ずっとそうしてたの?」
「・・・」
「重症だなぁ」
ジョミーを煩わしげに一瞥すると、キースは無言で教材を机に直した。 そんなキースを見下ろしながら、ジョミーは突然唸り始めた。
「~ん・・どうしようかな~・・」
「?」
表情から察するに、ジョミーは何かを決めかねている様子だった。
しようか、やめておこうか・・言うべきか、言わざるべきか・・といったところだろうか。
「・・よし。キース、たまには外で食べないか?」
「ここでか?」
「そ、」
あの一言を口に出すのに、何をそんなに考える必要があったのかとキースは呆れていた。
何よりも彼の指定した場所。
てっきりベンチのある中庭か屋外のカフェテリアで食べるものだと思っていたが、ジョミーが選んだのは砂埃の舞うサッカーグランドのはただった。グランドを見下ろす芝生の一角に腰かけたジョミー。彼に続いて、キースも渋々その隣へとかけた。
「キースとは、一月ちょっと前・・初めてここで会ったんだっけ」
「そう・・だったな」
「正直、驚いたんだ」
「何が?」
「またお前と・・会えるとは思わなかったから」
ジョミーの言葉に、キースは弾かれたように彼を見た。
「久しぶりだな・・キース=アニアン」