Memory of a pain |
---|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
1 2 3 |
同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
---|
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
---|
1 2 3 4 5 |
アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
---|
1 2 3 4 5 6 7 |
キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
---|
前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
---|
1 2 3 4 5 |
アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
翌日。執行委員の仕事は、初日から多忙を極めていた。
中心になったのは、新学期を期に購入した学園中の備品・・つまり、机や椅子、棚などの搬入・整理。そして不用品の搬出。勿論、業者への委託を行ってはいるが、併設している学生寮などの関係で、基本的に部外者は学園の敷地内部に侵入できない。そのため、それらの仕事は必然的に、生徒自身で行うこととなっていた。
放課後に召集を受け、その直後から作業にかかり始めて、かれこれ1時間。もう何往復、自分の教室から校門までの距離を古ぼけた机や椅子とともに往復しただろうか。
こと力と体力に関して自負することはないが、それなりに持ち合わせているキース。
だが、この予想外の重労働に改めてジョミーに言われた「奴隷」という言葉に納得したのだった。
そして、学園の校庭の構造がまた憎らしい。校庭内部は広大な敷地の中に部活動の専用グランド・植物園などを併設している。つまり、校庭から校舎までの距離が無駄に長いのだ。
勿論、悪いことばかりではない。ここまで広ければ、誰がどこで何をしていようともそう監視の目は行き届かない。そんな利点を踏まえて、執行委員のほとんどはこっそりと作業の手を止めたり、過酷な業務から抜け出したりしていた。
キースもまた、例外ではなかった。
仕事はこなす。だが、ここまでの重労働ならば逆に業務に支障を出さないための休憩は必要だ。
そう判断すると、校舎へ戻る途中の脇道を抜け、植物園の木陰に腰を下ろすと、しばしの休息をとり始めたのだった。
背の高い木々が日の光を遮りながら立ち並んでいるせいか、ここは少しひんやりとした空気を持っている。熱を持った体を休めるのには丁度いい。
ここならば他の執行委員が来ることもないだろう。
横になって、しばらく目を閉じていたキースに、思わぬ声がかけられた。
「早速サボりかい?」
「・・!」
良く知る声に、目を開ければ、そこにはからかうように自分を覗き込む二つのルビー。
「・・休憩をとっているだけだ」
「そう、なら丁度いい」
「?」
照れ半分、むっと返事を返したキースの頬に何か冷たいものがあたった。
差し出されたのは少し汗をかいたスポーツドリンクのボトル。
「ごほうびだよ」
「・・・」
悪戯っぽく微笑むブルーに、伸ばした手が思わず止まる。
「ほとんどの執行委員には、もう少し早いうちに渡したんだけどね。君の居場所が一番掴みにくくて」
「・・・差し入れがあるなら、事前に言ってくれ」
どうやら彼は全ての執行委員へ差し入れを届けるべく校庭を周っているようだ。
自分はその中の一人に過ぎない。
キースは上体を起こすと、差し出されたボトルを奪うように受け取った。
そして早速栓を開け、渇きを潤す程度にそれをあおった。
しかし、すぐに立ち去るものだと思っていたブルーは、キースの予想に反して、彼のすぐ隣に腰を下ろした。
「隣、いいかい?」
「・・座ってから聞くな」
「そうだね」
そういえばそうだ。
納得するように言うと、ブルーはキースを見てくすくすと笑った。
「・・何がそんなに可笑しいんだ?」
「ん?・・ああ、気に障ったならごめん・・」
昨日もそうだ。 敬語を使う自分を可笑しいと笑ったブルー。 キースが思うに、彼は自分の一挙一動を面白がっている節がある。 そんな彼の態度が、何故か妙に喉に引っかかるのだ。
「・・可笑しいんじゃなくて、嬉しいんだ」
「嬉しい・・?」
「うん。・・君とこうして・・話ができることが」
「・・・・・」
少し驚いて見つめた紅い瞳は、微笑みを湛えながらも、どこか挑発的な色を帯びていた。 思いの外真剣な表情で返され、キースは自分の鼓動が常より早く脈打つのを感じた。
まただ、やはり俺は、この紅を知っている・・
ざわざわと心がかき乱される。
何もないはずの水面に、波紋が生まれる。
それと同時に、昨日見たおかしな夢。 あの夢から目覚めた時のような感覚に陥る。
後悔、罪悪感、苛立ち。
言葉にすればそんな感情が、心の奥底から沸き起こってくるのだ。
「・・それは・・」
「だって君、執行委員に自ら立候補したんだろう?」
「?・・あ、ああ」
「そんな意欲的な生徒、今までほとんどいなかったからね」
「・・そうか」
ちなみに、ジョミーからこのことは聞いたんだ。 そう付け加えたブルーからは、先程までの真剣は表情はすっかり消えていた。
「しかし、なかなか大変な仕事だろう?」
「・・・まあな」
「君を見ていると、去年のジョミーを思い出すよ・・彼は、休憩なんてしおらしいことはしなかったんだけど」
「どうしたんだ?」
「寮に戻って堂々昼寝さ。僕が起こしに行った」
いかにも、あのジョミーのやりそうなことだ。キースは不覚にもくすりと笑ってしまった。 それが珍しかったのだろうか、ブルーは一瞬、意外なことのように彼を見たが、つられて微笑んだ。
「ジョミーとは、仲がいいんだね」
「まあ、そうだな」
「・・よかった」
「?・・」
確かに、悪いよりはいいに越したことはないが、何故ブルーがそんなことを言うのか、キースは理解しがたかった。それはブルーの表情が、どこかほっとしたような、例えば親が子供を見守るような雰囲気を持っていたからだったからだろう。
「・・僕も」
「・・?」
「僕も君と・・仲良くなりたいな」
「・・・・・・」
その言葉に、流石のキースも思わず硬直した。
別に深い意味はないのだろうが、彼に言われるとどきりとしてしまう。
せいぜいブルーに振り回されろ。
ジョミーの言葉が頭をよぎったキースだったが、振り返った隣人には他意はなかったのだろう。
彼はキースを見るわけでもなく、ただ遠くを見つめながら、独り言を吐いているようにすら見えた。
「・・なれば、いいだろ」
「・・・」
「・・うん、そうだよね」
少し間を置いて返してきたブルーは、少し切ないような笑顔だった。
その時だった。
「っ・・・」
「?・・どうした?」
ブルーは右目を抑えると、苦痛に顔を歪めた。
「なんでも・・ないよ」
「目が、痛むのか・・?」
「時々、こうなるんだ。痛むだけでなんでもないから・・大丈夫だよ」
「そんなはずないだろう。痛みがあるなら、一度眼科に行ったほうがいい」
「少し前に行って診てもらったんだよ。精密検査も受けたけど、目の奥にも、神経にも異常はなかったんだ」
「なら何故・・?」
「医者が言うには、心因性だそうだ」
「心因性・・?」
余程自分は険しい表情を浮かべたのだろう、ブルーは違う違う、と空いた左手を横に振った。
「よくあるそうだよ。ちょっとした・・心理的なストレスが原因で視力が悪くなるとか、痛みを感じるとか。ただ可能性として高いのは、小さい頃に、右目に何か怪我をして、その時の痛みを脳が思い出しているんじゃないかって」
「で・・怪我を、したことがあるのか?」
「ううん。いくら小さい頃の記憶を辿っても、目を怪我した覚えはないんだ」
「・・・?」
それでは結局原因がわからないのではないか?
不可解な内容に眉を顰めれば、痛みが治まったのだろう・・ブルーが右の瞳を覆っていた手を外した。
「ああでも・・・今じゃなくても、どこかでしてたかもしれないね」
「?」
「・・例えば、前世とか」
くすりと笑いながら冗談めいた口調のブルー。
この手の話・・常の自分なら馬鹿らしい、くだらないと一蹴するに違いなかった。
現に心はそう思っている。
けれどキースは彼自身も手の届かない胸の奥底に、言いようの無い痛みを覚えたのだった。