Memory of a pain |
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 番外編:隠し事 |
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結) |
side : Jommy |
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結) |
風紀委員長の日課 |
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1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day |
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結) |
鉄仮面の失敗 |
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結) |
セルジュ=スタージョンの疑問 |
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キース×ブルー←セルジュ(完結) |
激闘 in シャングリラ! |
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前編 中編 後編 後日談 |
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結) |
悩めるスノーホワイト |
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結) |
「『さあ、いよいよ試合開始だよ!注目の一回戦はリオVSキャプテン・ハーレイだ』・・・・どうなんだい?これ・・・・勝負にならないんじゃないかい?」
『そうですね。体格の差もありますが・・キャプテンは以前、機関部主催のアームレスリング大会で優勝の経験をお持ちです。並のミュウで勝ちを獲るのはまず難しいでしょう』
女長老コンビの進行を聞きながら、そんな大会があったのか、とシャングリラとキャプテンの新たな一面を知ったジョミー。 その時、試合テーブルにかけていたリオから、不安そうな思念が送られてきた。
『ソルジャーシン、全力は尽くしますが・・・』
『大丈夫、そんなに気負わず、気楽にやってくれていいから』
一方、リオと向かい合うアームレスリングの覇者にも温かい声援・・・ではなく、ぴしゃりと命令が下った。
『リオは様子見と、お飾りの人数合わせといったところだ。ジョミーは何か考えがあるようだが・・・ハーレイ、作戦を立てさせる間など与えるな』
『はっ!』
卓上で対峙する二人に、双方右手を前に・・と機関長のゼルが促した。
「審判はわしが行う。勝負は2対2の勝ち抜きじゃ。純粋に筋力を比べるため、サイオン能力の使用は一切禁止だぞ。万一、使用した場合は失格じゃ」
互いに右手同士を組み、肘を卓上に置いたリオとハーレイ。被せられたゼルの手が離れた瞬間、試合開始のコールが彼から発せられた。
「「一回戦、リオVSキャプテン・ハーレイ・・はじめ!!」」
その瞬間、ジョミーはリオに意識を飛ばした。
一方、パートナーの命令通り、開始の声と同時に仕掛けたハーレイ。ジョミーがリオとの感覚を共有する頃には、キャプテンの腕はテーブルから30度ほどの角度で、既にリオを追い詰めていた。
『く・・駄目です、もう持ちません・・』
更に力を込めるハーレイに、あっけなくリオの手がテーブルに押し付けられた。
「「勝者!キャプテン・ハーレイ!」」
ゼルの勝利の声、続いてブラウ実況とエラ解説員の声が上がった。
『いや~~強い!キャプテン!!まさに瞬殺とはこのことだね!あたしの手元の秒速計で3、6秒の戦いだったよ!さあ、追い詰められたソルジャーシンはどう出るのかねぇ?』
『ええ。いくらミュウきっての健康体といえども、正面からの戦いでは、ソルジャーシンでも勝ち目は薄いでしょう。何か秘策があったとしても、これほど短い勝負時間ではそれらを用いることは不可能に近いかも知れませんね』
『すみません、やはり負けてしまいました』
リオはジョミーの元へ戻ってくると、未だ勝負の余韻を残す右腕をさすった。
「いいよ、これで作戦が立てられた」
『けれど、エラ女史の仰る通り、本当に時間がないですよ』
「わかってる、僕も君を通して体感した」
ブルーがハーレイを引き入れた時点で、ジョミーはある策を思いついていた。しかし、仕掛けるタイミングが問題だった。 僅かな時間だったとはいえ、今の戦いでその瞬間を見切ったジョミーは、リオに礼を言うと自身も戦いの場へ向かった。
(やはり最中では、とても間が持たない。仕掛けるなら・・・・開始直前だ・・!)
そうして席に着いた瞬間、ブルーと目が合った。 何か指示を出していたのか、それまで話をしていたハーレイを開放して、ルビーアイが挑発するようにジョミーを射抜いた。
『余興は終わりだよ、ジョミー。僕が出るまでもない』
『それはわかりませんよ』
『ほう、ハーレイに勝つ自信があると?』
『まあ見てて下さい。あと・・あれを着る心の準備、今からしておいた方がいいんじゃないですか?』
その瞬間、二人の間に火花が散った。
不毛な思念のぶつかり合いが終わる頃、ハーレイもまた勝負の席に付いた。
ブルーからの指示は先程と同じ。間を与えず畳み掛けろ、というものだった。
「随分な余裕ですね」
うっすら笑みすら浮かべる向かいの少年に、ハーレイは思わず声をかけた。
「僕だって、真っ向からキャプテンに勝てるとは思っていないさ。ただ・・・」
「ただ・・?」
「ハーレイはブルーのバニー姿・・見たくないのかなと思って」
「・・・!」
「元々雪ウサギみたいな容姿なんだから、きっと似合だろうなぁ。ああ・・もしかしてキャプテンはブルーのそんな姿、この300年間に見たことあるのかな?」
「いや・・・ない・・が・・・・」
「そうか・・・残念だ・・・・。なら、僕が負ければもう二度と、こんなチャンスはないかもしれないね」
それは短いやり取りだったが、ハーレイを惑わすには十分だった。
「早く手を組みなされ。はじめるぞ」
ゼル審判に催促され、慌てて手を出すハーレイ。既にジョミーの右腕は位置についていた。
(いかん・・・雑念は捨てろ)
負ければ『絶交』だ。
ブルーの言葉がよみがえる。
それでなくても、ハーレイは彼の期待を裏切るわけにはいかない。
いや・・・しかし・・・。
「「では、二回戦。ソルジャーシンVSキャプテン・ハーレイ・・はじめ!!」」
一回戦とはうって変わり、ハーレイの反応が少し遅れた。 腕に込める力にも、先ほどのような圧倒的なものはない。 逆にジョミーの腕はすぐに傾きはしないものの、込められた確かな力によって、ゆらゆらとハーレイの拳を押し返し始めた。
似合うだろうなぁ、雪ウサギみたいな容姿なんだし、
僕が負けたら見れないよ?
勝っちゃっていいの??
考えないようにしても、一度湧き出た雑念は留まるところを知らない。まるで思念で語りかけられているかのように、先ほどのジョミーの言葉が、自分の中で形を変えてハーレイを襲う。
見たいんでしょう??
同時に先ほど押し消した、あの露出の高い衣装をまとうブルーのイメージが浮かぶ。
赤い瞳を潤ませ、羞恥に頬を染める雪ウサギ。
白百合のような肌に、密着するボディスーツと黒い網目のタイツはどれほど妖しく映えるだろうか。
見たい。
見てみたい。
だったら負けてしまえ、と。
そう心が囁いた瞬間、ふっとハーレイの腕から力が抜けた。ほんの瞬きのような、僅かな時間だった。
しかしジョミーはそれを逃さなかった。
口の端をつり上げると、じりじりと握り合っていたハーレイの拳を、渾身の力を込めて叩きつけた。
「「・・見事じゃ!勝者・ソルジャーーシン!!」」
ブリッジに、驚異と興奮、そして歓喜の思念が押し寄せた。 中継を見ていたシャングリラ中のミュウたちのものだった。
『おおっとーーー!!なんてこったい、とんだ番狂わせが起こっちまったよ!あたしも、てっきりハーレイの圧勝かと思ったんだけどねぇ。いやぁ、流石ソルジャーってとこかね!』
『シャングリラで最も、肉体を駆使する機関部の面々を破ったキャプテン。それを破ってしまったソルジャーシン。
歴史は塗り替えられました。この瞬間より、シャングリラのアームレスリングNo.1はソルジャーシンとなったわけです』
ノリにノってきた実況と解説員に、そっちの仕事の方が向いてるんじゃないか、と勝利の余韻に浸りつつも冷静に思ったジョミー。彼に一番に駆け寄ったのはリオだった。
『ジョミー、やりましたね!』
「ああ、リオのお陰だよ」
私は何も、と頭をかくリオに笑みをこぼすと、ジョミーは敗れたブルーペアに挑発と勝利の愉悦を込めた視線を送った。 しかし彼らはそれに気づくどころではなかった。
「・・・ハ ー レ イ ! !」
「も、申し訳ございません・・!!」
いつも穏やかな光をたたえている紅い宝石が、今は炎の矢のように激しく自分を射抜いている。 縛り付けられたハーレイは二度目の謝罪の言葉を口にしたが、予想通り、ブルーは全くとりあわなかった。
「どうやらお前は、僕を辱めたいようだな・・よくわかった」
最悪なことに、試合途中に思い浮かべたあらぬ妄想は、そのままブルーに伝わってしまっていた。
「もうお前とは金輪際、口を利かない・・絶交だ!」
「お、お待ち下さい、ブルー・・!」
ぷい、とそっぽを向いて歩いていくブルーに、追いかけるハーレイ。 そんな様子を実況席の二人が、茶菓子を食べながら傍観していた。
「おや、ソルジャーブルーペアは仲間割れかい?」
「ソルジャーブルーの『絶交』、50年ぶりですね」
「いつもハーレイにしか言わないけどねぇ」
「本気で怒ってらっしゃらない証拠ですよ」
遠い昔、小さなハーレイの非から今と同じ台詞を吐いたブルー。 ハーレイはやはり、今と同様に謝り倒していた。 もう許してあげては・・と当時進言したエラに、ブルーは幼い子供のように漏らした。
―本当は、そんなに怒っていないんだけど・・・ 謝るハーレイの姿に悪い気がしないので、ついからかってしまうんだ。
「早く気付かれるといいのですが・・・キャプテン」
「まぁでも、あれはマジに怒ってるよ」