Novel地球へ・・・

キース×ブルー

Memory of a pain
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番外編:隠し事
過去の記憶を持つブルーと持たないキース。痛みの記憶と向き合う転生パラレル。(完結)
side : Jommy
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同タイトルのジョミー視点のお話。(完結)
風紀委員長の日課
1 2 3 4 番外編:Valentine’s Day
風紀委員長キースと生徒会長ブルーの初々しい学園パラレル。(完結)
鉄仮面の失敗
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アニメ15話捏造話。シャングリラ脱出の際、キースが犯したミスとは・・?(完結)
セルジュ=スタージョンの疑問
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キース×ブルー←セルジュ(完結)

ジョミー×ブルー

激闘 in シャングリラ!
前編 中編 後編 後日談
ブルーの一言で、シャングリラ中を巻き込んでの腕相撲大会が行われ・・?(完結)
悩めるスノーホワイト
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アルテメシアを発って1年、少し遅めのジョミーの歓迎会が開かれることになったシャングリラ。(完結)

風紀委員長の日課 -4-

耳障りな電子音が鳴り響くはずの朝の風景。 無言の目覚ましが指した時刻に、自発的に眠りから覚めたブルーはまず驚いた。
時刻は8時10分過ぎ。

まどろみの中、遥か遠くで、アラームが聞こえたのは覚えている。夢うつつにそれを止めたことも。

(そうか・・・夢ではなかったのか)

会長職に就いて一月強。無意識の疲労の蓄積と、慣れに対する脱力が襲ってきても不思議はない時期だった。
ブルーは呆然と緩やかに動く秒針を見つめると、通学時間と支度にかける時間を逆算してみた。

ブルーの自宅から学校までは、徒歩に換算すると10分ほどの距離だった。すぐに駆け出せば間に合う可能性もあるが、自分は今寝巻きだ。 身支度を全くしないわけにはいかない。顔を洗って、歯を磨いて、制服を着て・・・・どんなに急いでいようとも、それらに割く最低限の時間は必要になってくる。

そう、これはもう逃れようがない。

間違いない。
遅刻だ。

そう認識した瞬間。
ブルーは、本来この状況下では出ないと思われる笑みを零したのだった。


全ての支度を終え通学路に出た頃には、ホームルーム開始5分前の予鈴が遠くで聞こえた。普段は教室の中で聞くそれに、胸を膨らませるブルーがいた。

そう。
ブルーにとって午前中の体調不良以外では、これは正真正銘、初めての遅刻だった。単純に、火遊びをする悪戯っ子のような気分も捨てがたいが、 それ以上に、これから校門前で起こるであろう出来事が彼の感情を高揚させた。

風紀委員の遅刻者チェック。

いつも校舎から眺めていた彼の仕事ぶりを目の当たりにできる。否、自分がその対象になるのだ。 これほど嬉しく、胸躍ることはない。

ブルーは万遍の笑みを浮かべると、とても遅刻者とは思えない軽い足取りでイチョウ並木の通学路を歩いていったのだった。



見慣れたレンガ造りの校門と、その脇に立つ長身のシルエットが視界に入ってきたのはそれから10分後。
走ることも、焦ることも、ましてやそれらのポーズを見せることもない社長出勤のブルーに、風紀委員長の鉄仮面は遠目からもわかるくらい、珍しく驚愕を浮かべていた。 そして次の瞬間、完全に呆れた表情で彼を出迎えたのだった。

「やあ委員長、おはよう。いい朝だね」
「・・・全くだ。・・・一応聞いておくが・・・今何時何分だと思っているんだ」
「8時40分。なるほど、遅刻とはこういうものなんだな」
「・・・・」

返す言葉もないキースに、さらにブルーは続けた。

「生徒手帳がいるのかな?」
「・・・それは名前を記憶していない生徒を確認する時だけだ」
「じゃあ、それに名前を書けばいいのかい?」
興味深々、とばかりにキースの手元の黒いファイルを指差したブルー。
直後にむっつりとした返事が持ち主から帰ってきた。

「・・これは俺が記入するものだ」

その一言に、それまでの何やら楽しそうな雰囲気を一変させ、ブルーはがっかりとした表情で、ため息をついた。

「なんだ、意外に何もすることがないんだな」
「・・・・・理由は?」
「ん?」
「遅刻理由だ!」
「ああ、」

「それがどうやら・・・・」
「・・・?」
「寝呆けて、目覚まし時計を止めてしまった可能性が濃厚だ」
「・・・・・・」

悪びれることもなく、あっけらかんと笑顔で事実を述べるブルー。普通、遅刻する生徒は何かしら後ろめたさや、気まずさを抱えてキースの前に立つ。 しかし彼にはそれが全くない。むしろ堂々と、そして何がそんなに嬉しいのか。 今の状況を楽しんでいる風にすら見えるこれまでにない遅刻者に、キースは普段の仕事を忘れて当惑した。

「・・・・子供か貴様。先日の俺の言葉を忘れたのか?執行部の協力も必要だと言ったはずだ。それなのに・・・生徒会長自身が遅刻してどうする?!しかも堂々と!」
「してしまったものは、仕方ないじゃないか」

返って来たのは生徒会長には余りに似つかわしくない、開き直りの言葉。続けて、キースを見上げていた視線は急に拗ねたように、ぷいと逸らされた。

(・・・・!・・・何だ、その態度は・・!)

ブルーの幼い態度に苛立ちを感じながらも、キースは何より彼を心配していた。否、心配しているからこそ苛立ってしまうのだろう。

同学年で同様に推薦を受けた身といえど、いち委員会の長と生徒会長では立場も責任の重さも違う。 ただでさえ強いブルーの風当たりが、この遅刻でさらに業況を悪化させないか、キースは瞬時にそれを憂いていたのだ。

だからこその、先程の発言。
それを仕方がないの一言で一蹴され、キースの中で何かが音を立てて切れた。

「お前には・・危機感というものはないのか?」
「ないことはないけれど、やってしまったものは仕方がないだろう。?・・・そんなに怒ることはないじゃないか」

変わらず開き直りの言葉を口にするブルーの態度に、キースの苛立ちは止まらない。

(わかっているのか?指導室へ送られなくとも、たった一回の遅刻が・・・・それだけでも、お前の立場は悪くなるんだぞ・・!)
そう喉まで出掛かった言葉をかみ殺す。
それは遅刻者への対応などではなく、完全にキースの個人的な感情だったが、区別する余裕など彼にはなかった。

一方のブルーといえば、とにかく風紀委員長の不機嫌の理由が理解できないでいた。
窓外から見えた彼は、どんな常習犯であろうとも咎めることも、嫌な顔をするわけでもなく、ただ機械的に、事務的に遅刻者チェックをしていた。 少なくとも、そんなキースの姿しかブルーは知らない。
だからこそ、一度の遅刻をしただけの自分が、何故これほど非難を受けるのかと逆に苛立ちさえ覚えた。

「・・では、褒められることをしたと言うのか?」
「違う。いつもはそんな風に必要以上に絡んだり、怒ったりしていないじゃないか。淡々と誘導して、みなが怪我をしないように注意を払って。でも友人には挨拶だって・・。 何故僕がそこまで言われなければならないんだ?!」
「・・お前が生徒会長だからだ・・!!」

アホか、と心の中で叫んだキースだったが、ふとブルーの言葉の端々に違和感を覚えた。

(・・・?・・)

(・・何故・・・知っているんだ・・?)


「・・・・・」
「・・・・・・・」

訪れた暫しの沈黙。
しかし眉を顰め、呆然と自分を見つめる風紀委員長の反応に、ブルーは自分が暴露した内容に気付くと、思わず口元に手をあてた。 それは皮肉にもキースに、ある推測と確信をもたらしたのだった。

「・・も、もう処理はすんだのだろう。失礼する」
「・・・待て」

校門脇に立つ自分をかわして、余所余所しい仕草で校舎へ向かおうとしたブルーの細い手首。キースは逃すまいと捕まえると、かねてから言ってやりたかった一言を口にした。

「・・ホームルーム・・たまには聞いてやれ」
「え・・?」

最後の5分の任務に戻る風紀委員長の後姿を、予鈴も忘れて呆然と見つめるブルー。一方のキースは、この日初めて日課を違えたのだった。


南校舎2階部分。

端教室。

窓際後ろから3番目。

再び見上げた翌日、ぶつかる視線がそこにあった。


Fin

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2004.2.22 開設